蛇寮の獅子   作:捨独楽

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クィディッチって実際にみたら凄く興奮すると思います。


クィディッチ

 

 ハリーはスリザリンの寮の中で、それなりに受け入れられていた。ドラコとは対立したままだったが、スリザリンの一年生たちはハリーをザビニたち三人を含めた四人組の長として扱った。

 ハリーは四人の中で、上下関係みたいなものが出来るのは内心嫌だった。ハリーにとって同じ部屋のザビニたちは、兄弟のようなものだった。しかし、ハリーの行動がスリザリンらしくないとされ、時としてスリザリンの生徒との間で不和を生む以上は、リーダーとして率先して行動し、外の三人を守ることがハリーの責務だった。幸い、ハリーがまたスリザリンの象徴である蛇語を使ったことや入学式の日にピーターを見つけたことをスリザリンの生徒たちは思い出したようで、ハリーは周囲のスリザリン生と友好的に話をすることが出来た。

 

 ノートの一件以来、監督生のガフガリオンはハリーを呼び出してこうこっそりと諭した。

 

「あんまり魔法使いに夢を見るンじゃねえぞ、ポッター。入学式の日に、俺が言ったことを覚えてるか?」

 

 彼はほとんど面倒くさそうに言った。本人によれば11科目も授業を受けているそうで、試験の勉強で忙しそうだった。

 

「寮の中の話を外に持ち出さない、ですか?」

 

 ハリーは幸い、ガフガリオンの言葉を覚えていた。女性の監督生が言った言葉も、ハリーにとっての誇りだった。ハリーは自分がスリザリンに相応しいのだと信じていた。

 

「そうだ。寮の中でマルフォイの坊っちゃんと話を合わせるのは、当たり前の事だぞ。中と外で、しっかりと区別をつければ何の問題もねえ。そうだろ?」

 

「……ご指導ありがとうございます」

 

 ハリーはガフガリオンにしっかりとお辞儀をしてお礼を言い、ガフガリオンの言葉の意味を考えていた。スリザリンの特に五年生たちは、O.W.L.という魔法使いの試験のために日に日に殺気を増していた。彼らはストレスからか寮の中で雑談するとき、当たり前のように良くない言葉を使ってマグル生まれを中傷し、一致団結しているようだった。彼らの真似をして、ドラコに意味のない追従をするべきだろうか。

 

(やっぱり違う)

 

 それはハリーがやりたくないという理由の他にも、ドラコに対しても失礼なことのように思われた。ハリーはドラコとは仲直りできていなかった。

 

 ハリーはガフガリオンの忠告には従わなかった。寮の外でマグル生まれの生徒にこちらから話しかけたりはしなかったが、困っていたときは魔法で分からないように手助けした。アズラエルはそんなハリーを褒めた。

 

「そうですよ!!それがスリザリン式のやり方なんですよ!!」

 

 ハリーは喜ぶアズラエルの顔を見ながら、クィレル教授の授業を受けてノートにメモをしていた。アズラエルは注意深くハリーを観察し、ハリーが突飛な行動をしなくなってきたことに安堵した。

 

 

***

 

 ハリーはグリフィンドール対スリザリンの開幕戦でスリザリンを応援するために、スリザリンの応援席に座っていた。ハリーの右隣にザビニが、左側にファルカスが座り、ハリーたちは一致団結してスリザリンの勝利を願っていた。

 ドラコはこの時はハリーへの遺恨を忘れたようだった。彼は魔法族の男の子らしくクィディッチを愛していたし、誰よりもスリザリンチームのクィディッチでの勝利を願っていた。

 

「みんなでチームを応援しよう。ポッター、ちゃんと声は出せるんだろうな?」

 

「ソノーラスのど飴は持ってきたよ」

 

「だったら全力で応援だ!!みんな、キャプテンたちが出てきたぞ!手を振れ!!」

 

 クィディッチは魔法族で一番人気のあるスポーツだった。クアッフルというボールを相手チームのコートにある三つのリングのどれかに入れれば十点、金色に飛び回るスニッチを二つのチームのシーカーのどちらかが取れば、取ったチームに百五十点が加算されて試合が終了する。得点は寮のポイントとして加算されることから、クィディッチ・チームのプレイヤーは寮の中で格別の扱いを受けていた。

 

 ハリーはルールを聞いたときは、少しへンだなと思ったものだ。シーカー次第で勝負がつくなら、クアッフルを放っておいて全力でシーカーを援護すればいい。ハリーはドラコたちとのクィディッチごっこで、クアッフルでコツコツと得点することに魅力を覚えていた。

 

 しかし試合が始まると、ハリーのそんな違和感はたちまち消し飛んだ。両チームのレギュラーのプレイヤーたちは、時速百五十キロを優に超える超高速で飛び回りながら、超高速でクアッフルをパスしたり、あるいはカットしたり、チェイサー(クアッフルで得点する役割の人)を妨害したりしていた。何よりもスリリングだったのは、ブラッジャーという重たい鉄の塊を、ビーターという役割の人がこん棒を振り回して弾き飛ばしながら相手チームのプレイヤーを妨害しようとすることだった。ハリーはたちまちクィディッチの魔法にかかった。他の寮生たちと同じようにスリザリンの得点を喜び、グリフィンドールの得点に落胆した。

 

「あ、すごいタックルだ……」

 

 ハリーはスリザリンチームがラフプレーでグリフィンドールを妨害し、得点を防いでいるのが気になった。箒に乗りながらタックルできるという時点で、物凄く精度の高い箒の操縦技術が要求されるので感心していたが、そこまでするものだろうかとファルカスに問いかけた。

 

「ハリーがそれを言うの?」

 

 とファルカスは言った。

 

「今まで沢山ルール違反をしてきたじゃん。あれくらいクィディッチでは普通だよ」

 

 そういうものか、とハリーは思った。実際に試合を注意深く観察していると、スリザリンはラフプレーによってペースを掴んでいた。グリフィンドールのキーパーはスリザリンのキャプテンであるフリントより箒の操縦技術そのものは上だったが、スリザリンチームのラフプレーに怒り、判断を誤って失点を重ねていた。

 得点が寮のポイントになり、百五十点以上取れば事実上の勝ちが確定するクィディッチのルールに従えば、ハリーの発想よりも実はスリザリンは真っ当にプレイしているなとハリーは思った。クィディッチの試合展開は早いが、シーカーがスニッチを取る前に、点を積み重ねるというのはとても困難な偉業であることに違いはなかった。そのためにはあらゆる手段を尽くしてのチームとしての完成度の高さと勝利への欲求が必要で、スリザリンチームはそれを満たしていた。

 

 実際、スリザリンチームのプレイヤーたちは全力で勝利を追求していた。空の上では純血も半純血もマグル生まれもなく、他の寮生になんと言われようとも、勝ちさえすれば、勝つためならあらゆる所業は肯定される。クィディッチは、スリザリン生がスリザリン生らしくあれる場所だった。

 

 ハリーがファルカスと話をするために試合から目を離していた一瞬、スリザリンの観客席から悲鳴が上がった。スリザリンのビーターが弾き飛ばしたブラッジャーを、グリフィンドールチームのシーカーであるコーマック・マクラーゲンという二年生はギリギリのところでかわした。コーマックはグリフィンドール期待の新シーカーで、彼はニンバス2000というとても早い箒を持っていた。

コーマックにかわされたブラッジャーは、そのままスリザリンの観客席へと突っ込んだ。観客席にはプロテゴという防御魔法がかかっていて、ブラッジャーが観客席に進入することも、逆に、観客席から魔法でブラッジャーに干渉することも出来ないはずだった。その日ダンブルドアはファッジと話をするために不在で、プロテゴの担当はスリザリンの寮監であるスネイプ教授だった。

 

 ブラッジャーは真っ直ぐにハリーを狙って飛んできた。ハリーは魔法で妨害することも出来ず目をつぶった。

 

 ブラッジャーはハリーを直撃する寸前のところで、勢いを失った。試合は一時中断され、プロテゴが競技場の周辺にかけ直されると共に、ブラッジャーは別のブラッジャーへと交換された。

 

 

「こ、怖かったね……これがクィディッチなんだね」

 

「い、いや……こんなこと普通はないはずなんだけど……」

 

 ハリーの巻き添えになりかけたザビニは、皮肉屋の普段の仮面を捨て、ハリーと若干距離を置きながら試合の行方を見守った。

 

***

 

 グリフィンドールの応援席にいたロンとハーマイオニーは、試合が始まる前に、スリザリンの応援席に座っていたハリーに手を振った。

 

「やっぱり気付いてないな。そりゃスリザリンにベッタリだから当然だけど」

 

 ロンはハロウィンの一件で、ハリーが何か大変なことになっていないかと内心で心配していた。スリザリン寮内部の出来事は他の三つの寮生には秘匿されていたので、ハリーはスリザリンで変わらず過ごしているように見えた。ロンは言葉とは裏腹にほっとしていた。

 

「もうロン。スリザリンに対して穿った見方をするのは失礼よ!そりゃあ、中には嫌な人もいるけれど」

 

 ハーマイオニーはスリザリンについての偏見は無かったが、スリザリンの女子から受けたいじめを忘れていなかった。特に首謀者のパンジーについては、内心でいかれた牝牛と罵倒するほどに憎悪を燃やしていたし、ロンがスリザリンに対して批判的なので、一旦落ち着いてバランスを取ることが出来ているという側面はあった。

 

 

「ハイハイ。中にはね。外に見えてこなきゃ嫌なやつの集まりってことだけど」

 

「もう、相変わらずなんだから。シェーマスもロンが偏見でみてるって思わない?」

 

「偏見なもんか。事実だよな、シェーマス。みんながみんなハリーみたいに聖人じゃないよな」

 

「さ、さぁ、僕に聞かれてもなあ」

 

 ハーマイオニーとロンのやり取りはグリフィンドールでは定番となっていて、日によって緩衝材となる人が入れ替わりながら二人の掛け合いを楽しんでいた。傍目から見れば、仲のいい友達以上の人間に挟まれたかわいそうな子だったが、グリフィンドールの女子も男子も、ハーマイオニーの教えたがりや、実力に裏打ちされた言動を時に皮肉で、時には称賛で受け流せるロンの存在をありがたく思っていたので、二人の掛け合いを微笑ましく見守っていた。

 

 

***

 

「あ、卑怯だぞ!」

 

 スリザリンチームのプレイを、グリフィンドール生のほとんどは非難した。ハーマイオニーも同感だった。これは開幕戦で、ハーマイオニーは知らないことだったが、ハッフルパフはもとよりレイブンクローもスリザリンチームのようなラフプレーは行わない。スリザリンチームは三つの寮生から嫌われる存在だった。

 

 ハーマイオニーはスリザリンチームの応援席にいるハリーたちを見た。スリザリンの生徒は大喜びで、当然ハリーもその中にいたのでハーマイオニーは内心で幻滅を隠せなかった。ハーマイオニーがスリザリンの応援席から目を逸らした先には、教授席があった。ターバンを巻いたクィレル教授や、普段通り清潔感のないスネイプ教授、スプラウト教授やフリットウィリック教授の姿もあった。ハーマイオニーは、スネイプ教授が何かぶつぶつと呟いているのが気になった。

 

 

 と、その時、不思議なことが起きた。ブラッジャーが突然プロテゴを貫通し、ハリーめがけてすっ飛んでいった。ロンの悲鳴を聞きながら、ハーマイオニーはスネイプが全力で何かを呟いているのを見た。

 

 彼女は猛勉強によってグリフィンドールの、いや、もしかしたらこの学年の生徒で一番の知識があった。ハーマイオニーはその豊富な知識によって、スネイプがブラッジャーに防御魔法を貫通する魔法をかけているのだと確信した。スネイプが何故かハリーを憎み、スリザリン生なのにグリフィンドール生や、他の寮の生徒であるかのように、ある意味では公平に、ある意味では不当に扱っているのは誰の目にも明らかだった。

 ハーマイオニーは本人に自覚はなくても、スネイプが教授として不適格だと無意識に見なしていた。スネイプはハーマイオニーがどれだけ正解を言い当ててもグリフィンドールに加点したことはなく、不当に減点しさえした。だから、スネイプがハリーを狙って魔法をかけているという自分の推測に疑いを持たなかった。

 

「ロン!ハリーが危ないわ!!スネイプが魔法をかけてる!止めないと!!」

 

 ハーマイオニーはハリーへの借りを返すために立ち上がった。ハロウィンの一件以来、彼女は誰よりもグリフィンドールらしい生徒になろうとしていたし、事実この瞬間そうなった。

 

「え、ええ?!……おいハーマイオニー?どうしたんだよ!止まれって!」

 

 ロンの制止も振り切って、ハーマイオニーという一人の獅子はスネイプという蝙蝠のところにかけ出していった。

 

 

 

 




頑張れハーマイオニー!!

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