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短編小説「黄金の稲穂は揺れる」(4)
 チュチェ110(2021)年に出版された短編小説「黄金の稲穂は揺れる」
第4回

 ふと総書記は、思索を止めた。いや、これはカンミョン里ではない。いつかカンウォン道で新築した育苗場を見る時、立ち寄った新居だった。
 その時、新居に引っ越しした人たちに会いたくて、ある除隊軍人夫婦の家に寄ってみた。その夫婦は新居があまりにも嬉しくて、その喜びをどう表現したらよいか分からない、自分たちに訪れた幸運がまさか夢ではないかと、一日に何回も家の周りをぐるぐる回る、これから赤ちゃんが生まれたら「この家が私たちの家だよ」と言ってあげると言っていた。
 すると、妻がはにかみながら、恩に報いることは考えず、自分のことばかり思っているとたしなめた。夫はそれがどうしたのかととがめた。
 総書記は大きく笑った。夫婦の喜びが自分自身の喜びのようで心が弾んだ。素朴な夫婦の気持ちが村全体の幸せの声に聞こえて、長い時間、村を後にできず、日が暮れるまで家々の窓辺から流れる灯りを見守って歩き、又、歩いた。そのときの幸せだった思いが今も胸に残っている。
 執務室に戻った総書記は再び、カンミョン里の被害復旧の対策案を前にした。
 -跡形もなく倒れた里文化会館と半分は被害を受けた子供たちの学校は皆取り払い新築しよう。それにあわせて託児所と幼稚園も新築してー
 でも何が何でも住宅が問題だった。対策案には酷く破壊された住宅と酷くない住宅とを区分して、住宅の修繕に必要な資材の量を細かく打算し、原状通りに復旧すると書かれていた。
 復旧で基本は屋根を新しくかぶせて瓦を敷くことだった。モデルとして復旧した住宅の写真が対策案に添えてあった。農村に行けばどこででも見られる普通の住宅だった。
 屋根を新しくかぶせ、新しい瓦を敷いて、壁には白い塗料を塗ってあった。あちこちに手をかけた跡があり、新しい味を生かそうと努めはしたものの、もともと古びた家なので古臭いのはそのままだった。
 対策案から目を離した総書記は暫くどこかを眺め、机の上の封筒を手にした。サムジヨンの三つ子からの手紙だった。
 時々目を通す手紙だが、心が重く、疲れるたびに、その手紙を読むと力が湧くのだった。ピョンヤンに生まれ育ったけれど、ペクトゥ山英雄青年発電所の建設に参加し、進んでサムジヨン市に根を下ろしたその三つ子のことを評価し、新居入りした喜びを聞いてくれた総書記は、嬉しいことがあったら、必ず手紙を出すようにといった。
 その言葉を忘れず手紙を送ってきたのだった。三つ子は頼もしい青年たちと幸せな家庭を築いたことを伝えて、山間部の文化都市のモデル、人民の理想郷に移り変わったサムジヨン市を永遠に輝かせると誓っていた。
 総書記の目にはペクトゥ山のキバナシャクナゲのように青々と育って、人々の祝福を受ける3人の姿が映った。
 そして、結婚式場で三つ子が歌う幸せの歌声も聞こえるようだった。

                 空は青く 心楽し
                 響け アコーディオン・・・

 総書記は一節一節口ずさんでみた。

                 みんな一緒に歌おう
                 みちる幸せを
                 われらの父は金日成元帥
                 わが家は党の胸
                 われらはみな兄弟よ
                 歌おう幸せを

 そうだ、私たちの家は党の胸に、社会主義の許にある。
 その許で人民は、なにも羨むものない幸せな人生を歌わねばならない。
 恵まれた人生を・・・
 金正恩総書記は対策案を閉じて、パク・チンス副部長を呼んだ。