書籍化に伴い、タイトル変更しております。
《旧題《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。》
カタリナの屋敷を案内されながら、俺はなんとなくいつもとは異なる空気を感じていた。
この屋敷の中を歩いた経験は何度となくあるのだが、その時はもっと空気が緩かったというか、ここまで張り詰めたものではなかった気がするのだ。
屋敷の中を歩く使用人たちの動きも緊張感に満ちていて、しかもいつもよりも忙しそうである。
「……なぁ」
前を歩く使用人に俺が尋ねると、使用人は顔をこちらに向けて答える。
「なんでございましょう」
「今日って、何かあるのか?」
「……と、申しますと」
至って普通に答えたつもりなのだろうが、返答にもやはり硬さがあった。
これは何かあるな、とここで構えることが出来たのは良かったと思う。
「いや……何もないならいいんだけどな。本当に何もないなら」
若干嫌味っぽく言った俺に、使用人は、
「……私からは、何も。どうぞこちらでございます」
と、何食わぬ顔で廊下を進んでいった。
自分の目で全て確かめろということかな。
そして、いつも案内される応接室の前で止まった。
この中にはいつもカタリナとグレッグがいて、他の人間は大体人払いされているのだが、扉の前に立った段階で俺には分かる。
今日は他に誰かがいるな、と。
使用人が扉を叩き、入室を許可され、俺のために開いてくれる。
中に足を踏み入れると、そこにいたのは、まずはカタリナとグレッグ。
それに加えて、壮年の男性と執事服を身に纏った、二十歳ほどの青年がいた。
……誰だろうか?
そう思いつつも、俺はとりあえず、挨拶をする。
「……旧アジール村村長、ノアでございます。本日は、私の陳情をお聞きくださるとのことで……」
敬語なのは、カタリナとグレッグ以外の二人がどんな立場なのか分からないからだ。
そうは言っても、ある程度予想はついているものの、本人たちから明言されるまでは黙っておく。
そんな俺に対し、カタリナは若干申し訳なさそうな表情で、
「ノア、別にいつも通りで構わないのよ」
と言ってくるが、
「そう言われましても……」
と俺が返答すると、カタリナはついに、その二人の人物について触れた。
「気持ちはわかるけれどね。こちらの二人は……もう察しがついているかもしれないけれど、まずこちらが私の父上の、トラン侯爵。そして後ろに立っているのが、トラン侯爵の家宰であり、グレッグの義理の息子であるスレイ・バートンよ」
その言葉でやはり、と思う。
だが、とりあえず俺は平伏しつつ、言った。
「お初にお目にかかります、トラン侯爵閣下。ご家族の歓談中に押しかけることとなり、大変申し訳なく……私は本日のところは辞去させていただき、また改めてお訪ねさせていただければと思います」
一息にそこまで言ったのは、なんだか面倒くさそうな空気を感じ取ったからだ。
もしも本当に邪魔なら、使用人がここまで案内するはずがないことは最初からわかった上での台詞である。
それに、向こうの話も聞かずに去る、というのをはっきり言ってしまうことも通常は不敬だろう。
しかし、平民がこのような場に居合わせて、慌ててこのようなことを言って足早にその場を去る、ということはありうる。
そしてそれについてことさらに気分を害したとして罰する貴族というのはそれほど多くない。
全くいないわけではないのがなんともいえないが、カタリナの父親なのだ。
そこまでいきなり攻撃的な態度をとってくることはないだろう、と思っての賭けだった。
実際、俺の言葉にトラン侯爵は、
「ほう、君がノア村長か。なるほど、平民にしては随分と所作がしっかりとしているな。話に聞いた通りだ」
と特に怒ることなく言ってきた。
けれど、ここで、俺はあぁ、と思う。
辞去していい、という言葉がどこにもないからだ。
この人は、間違いなく、俺に会うためにここに呼んだのだ、と理解せずにはいられなかった。
一体俺と何を話したいのか……あまり想像がつかず、俺は彼の次の言葉を待った。
前書きの通り、本作が書籍化します!
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