「……何だかおかしなことになったもんだ」
俺は独り言を呟きながら、カタリナの屋敷に向かっていた。
先ほどの冒険者たちについてだが、あの魔術師の男、パブロのことが明らかになったため、色々と保留である。
ただ、幸い明らかになったのは、パブロは別に俺を追いかけていたわけではない、ということだ。
……いや、この言い方だと語弊があるかな。
ノア・オリピアージュを追いかけている教会の人間、というわけではなかった。
そういう話だ。
ただ、ノアという人物について探っていたのは事実のようで、だからこそ俺に絡んできたらしい。
最初から俺を追ってきたのではなく、この街、ミドローグで長年、普通の冒険者としての地位を隠れ蓑にしつつ活動していたそうで、だからこそ他の四人もパブロに対して疑問を持つこともなかったのだという。
それで、なぜ俺を探っていたか、についてだが、パブロは詳しく聞くと、フラウゼン辺境伯領を本拠地とする諜報組織の一員であるという話だった。
その本拠地から、この街ミドローグで最近起こった騒動の顛末……つまりは、表沙汰にはなっていない、グライデルの事件について調査するように指示され、色々調査した結果、俺が関わっているらしい、というところまで辿り着いたようだ。
これについてはまだ、本拠地には伝えていないという話だったから、俺はパブロには適当な報告を送っておくように命令した。
適当、と言っても全て嘘だと問題だから、元々伝えてあるらしい事実に、少しだけ情報を付加した程度の内容を送り、その他は調査中、ということにさせた。
後々のパブロの扱いは悩ましいが……いっそ殺してしまった方が早いかも、と思わないではないが、そうすると今度は俺の知らない別の密偵がこの街に来ることになるだろう。
そうなるとむしろ面倒なので、殺さずに、ただ俺のことは忘れて通常通り生活するように言っておいた。
定期的に指定の場所で報告もするように指示しておいたから、今後、何かの役に立ってくれるだろうと思う。
本当なら、カタリナに相談して、上手く使うという道もあるのだが、それをするためには俺の技能について詳しく説明しなければならない。
特に《従属契約》の効果である、契約した場合命令には基本的に逆らえない、というのを伝えなければならないが、そんな話を為政者であるカタリナにするのは無理だ。
俺だってそちら側の人間だったから分かるが、こんな技能を持っている奴が街中を自由に闊歩していたら恐ろしくてたまらない。
たとえどれだけ信用できる人間であったとしてもだ。
少し気が変わっただけで、街の人間全員が敵になる可能性があるのだ。
だから、たとえカタリナであっても伝えられない以上、そんな相談はできないということになる。
教会が俺を狙う理由というか、気持ちがだいぶ分かってきた気がする。
しかし、こうなると教会は俺の技能について、ある程度の詳細を知っている、ということなのだろうか?
少なくとも、危険な技能であるという認識くらいはあると考えるべきだが……どこまで知っているのか。
それが問題だな。
まぁでも、アトを派遣してきたあたり、ここまで緩くて簡単な条件で従属させられてしまうとまでは考えていないことは明らかだから、過小評価してくれていると思ってもいいだろう。
そのお陰で俺の今の安全は確保されているのだから、教会様様である。
そもそも命を狙われるような事態に陥ってるのは教会のせいなので、感謝はしないが。
ともあれ、パブロについてはそういうことであるから、フラウゼン辺境伯が大元なのかな、という感じだ。
パブロ本人は末端の人間だからか、もしくはフラウゼン辺境伯がその辺りの情報管理が上手いのか、少なくともフラウゼン辺境伯に直接指示されて動いているというわけではないと言っていた。
命令でもって情報を吐くことを強制している状態でその答えなのだから、嘘はないはずだ。
つまり、パブロは本当に知らないということになる。
一応、推測としてパブロの組織上層部とフラウゼン辺境伯には繋がりがある可能性が高いという話はパブロもしていたが、あくまで推測らしい。
この辺りについては、そのうちはっきりさせたいので、パブロを自爆覚悟で諜報組織の本部に戻らせて、その辺りを探らせるという選択もあるが、そこまでやるとな。
失敗した場合のリスクが高すぎるから今はいいかと思っている。
とりあえず注意はしておいて、状況次第でそれをやることも念頭に置いておく、くらいで構わないだろう。
それで、今俺がカタリナの家に向かっているのは、勿論村のことを相談するためだが、今回手に入れたフラウゼン辺境伯周りのことについて、少し話すためだ。
密偵本人から教えてもらった、では色々と問題になるので、その辺りについてはまぁ、秘密ということにするつもりだ。
それで信じてもらえるか、だが、カタリナは俺のことを元貴族だと理解しているわけだから、その伝がまだあると言えば完全な嘘だとも断定はしないだろう。
俺としても別に今回手に入れた情報全てに裏付けがあるわけではないから、一応記憶しておく、くらいでいいと思っているのでそれでいいのだ。
「……すまない、カタリナ様に会いにきたんだが」
カタリナの屋敷の前に立つ門番に話しかけると、すぐに俺の顔に気づいて、中へと案内してくれたので、俺はそれについていく。
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