「素直に言えばいいものを……テメェら、かかれ!」
そう叫んだ男であったが、彼は五人組の中でもリーダー格なのだろう。
俺に話しかけた後は少し後ろに下がった。
そして残り四人のうち、前衛だと思しき二人が俺に向かって距離をつめてきた。
武器は……それぞれ、剣と槍だな。
残りの二人は弓と杖を持っていることから、中衛後衛を担っているものと思われた。
かなり自然な陣形の組み方なので、おそらくは元々パーティーを組んでいる五人組なのだろう。
それぞれの担当もバランスが良く、これなら別にわざわざ俺に絡んでこなくても普通に依頼を受けていればそれなりに稼げるだろうにと思ってしまう。
まぁ、俺がわかりやすく大金を手にするところを見てしまった上に、継続的な利益が確保できそうな狩場を知っているらしいと言うことも分かったからこうせずにはいられなかったのかもしれないが。
俺としてはあまり揉めたくはなかったのだが、こうかかってこられては自らを守るために戦わざるを得ない。
簡単に剣を抜いたあたり、最初から戦う気だったのだろう、と言われると反論し難いけれど。
ただ別に揉めるためにそうしようと思っていたわけではなく、ちょっとやりたいことがあったのだ。
そのためにはまず、彼らを全員、倒さなければ、と俺も体に力を込める。
こちらから距離をつめてもいいのだが、せっかく向こう側から来ているのだ。
狙いもわかりやすいところだし、あくまでも受ける構えでいた。
後ろから狙う弓術士と魔術師の動きも観察していないと、動いたところを狙われるかもしれないしな。
まぁ、立ち止まっている方がいい的だ、とも言えるが、そこは好みだろう。
俺は魔術を使えるから、魔術師が魔術を放つべく集中する魔力の気配が分かるので、いつ撃たれるかは判断できる。
弓術士はそれこそ動きを見ていればなんとかなるしな。
もちろん、それもこれも、相手が対応できる程度の実力しかなさそうだからで、実力がかなり上手だったら俺も走り回る方を選択しただろう。
「オラァァぁ!!」
と、まず俺の元に辿り着いたのは剣士の方だった。
槍の方がリーチが長いため、そちらが先かも、と思っていたが取り回しやら重さの問題で素早さはあまりないらしい。
剣士の方は長剣というよりはそれよりも短い小剣よりだな。
リーダー格の方が長剣持ちだから、バランスを考えてのことかもしれない。
それに動きが単純な剣士というより格闘家っぽい。
こちらの長さの剣の方が向いているのだろう。
トリッキーな動きに、初めて見る相手は目を白黒させているうち、負けてしまう。
そんなスタイルかな。
ただ、俺はどちらかといえばこういう相手は得意な方だろう。
何せ、いつもそんな相手に訓練をしているのだから。
コボルトたちと、それにキャスだ。
特にキャスには技能《猫闘術》がある。
あれこそ、トリッキーの極致とも言える体術であるため、あれの経験がある俺にとっては、これくらいの剣士はむしろ普通だった。
事実、彼の放ってきた斬撃とも拳撃とも思える一撃は比較的容易に回避できた。
それ自体をある種の目眩しとして、二撃目を死角から放とうとしているところも察知できたので、そちらについては拳がスピードに乗る前に蹴り飛ばし、そして慌てている最中に腹部に拳を入れてやった。
そのまま剣士の男は気絶したのをチラリと確認すると、俺はその場から引く。
するとそこを狙ってきていたらしい槍が突き込まれた。
かなりいいタイミングで、これもしっかりと訓練してきたのだろうな、というのが察せられる。
一人一人の実力はともかく、連携がうまいし、自らの持つ力を十全まで使い切ろうという意思があった。
それなのに何故、俺を狙うなどというせせこましいことをしているのかやはりわからない。
後で聞いてみてもいいだろうと思った。
槍はかなりの長さの長槍で、全体が金属で出来ている重量のあるものだ。
もちろん、柄の部分は空洞になっているだろうから、ある程度の取り回しは可能だろうが、練度か力かがやはり足りていないからか、引くのに一瞬の間が出来た。
俺はそれを狙って、槍が引かれる前に槍使いへと距離を詰め、彼の横っ面を蹴り飛ばす。
かなりいいところに入ったようで、その一撃で槍使いは白目を向き、そのまま倒れた。
残りは弓術士と魔術師、それにリーダー格の剣士の男だ。
どこから行くか、と一瞬考えると、その隙間を狙ったらしい弓の一撃が俺の足元に突き刺さる。
なんとか避けたが、意識の間隙を狙った、優れた一撃だった。
弓術士は判断も良いようで、そのまま狙われてはたまらないと思ったのか、後ろに引く。
俺が距離を詰めてきた場合、さらに後ろにいる魔術師が俺を狙って魔術を撃ち込む算段なのだろう。
そちらに魔力の集約が見られた。
ぶつぶつとした詠唱の声も聞こえ、なるほど、あちらに今攻めるべきではないな、と理解する。
そしてそう判断した俺の元へと、リーダー格の男がついに動き出した。
「こっちだ、この野郎!」
そんなことを叫びながら。
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