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第4章 旧アジール村にて
第121話 父と娘

「……よ、ようこそおいでくださいました、お父様。お元気でしたでしょうか?」


 屋敷の応接室で、カタリナが緊張と共にそう尋ねた相手は、彼女自身の実の父親、トラン侯爵パガウスその人であった。

 その容姿は細身ながら筋肉質で、四十半ばに差し掛かりながらも訓練を欠かしていないことがよく分かる。

 実際、その実力はかなりのもので、護衛の騎士などおらずとも魔物の数体くらいは自らの手で振り払える程度の武闘派であった。

 ただし、同時に政治的能力も高く、ユリゼン連邦、アルタイル州においては次期州代表の座すらも遠くないと言われるほどだ。

 実の父親とはいえ、そんな彼に対して、カタリナが緊張するのも無理のない話である。

 ただし、それはあくまでも政治的立場の話であって……。


「もちろんだとも、カタリナ。お前の方も息災のようで何よりだ。ちゃんと食事はとっているか? だいぶほっそりとしたように思うが……。それに休養も取れているか? 厳しいようならグレッグに色々と丸投げして、休むと良い」


「お、お父様……」


 このように、基本的には娘にかなり甘い人であった。

 これが皮肉とか試しとかであれば話は変わってくるだろうが、その表情を見れば本気であることは明らかである、と家宰のグレッグと、現在その代わりを勤めているスレイは同時に思った。

 ただし、視線は一切動かさず、お互いのお互いの考えていることを察しつつも、ただ部屋の端に控えている。

 いつものことだからだ。


「食事については……ここのところ、街の流通が良くなっておりますから、むしろ領都にいた時よりもずっと食べておりますわ。休養に関しては……正直、今は忙しいものですから。中々……」


「なんと、それは大変だな……! では、この街は誰か他の者に任せて、お前は領都に戻るといい。何、もうお前は十分ここですべきことをしたのだ。今戻ったところで、もはや親族たちは何も言うまいて」


「お父様……私をお試しになっておられるのですか?」


 流石にこれにはカタリナも黙ってはいられなかった。

 実際、パガウスの表情は若干、変わっている。

 家族でなければ、もしくは観察力の相当にある者でなければ気づかないような僅かな差であるが……。

 そしてその推測が正しいことを示すように、パガウスは苦笑して言った。


「……ふっ。立派になったな。だが、全てが冗談というわけでもないのだぞ。お前がこの街でしたことはすでにグレッグからの書簡で大体聞いているが……親族たちにもお前の器を認めさせるには十分なものだ。これ以上、この街で神経をすり減らすような権力闘争をする必要はない」


「そのお言葉はありがたいのですが……」


「領都に戻りたくないのか? お前はあの街を気に入っていたと思っていたが」


「戻りたくない、というわけではないです。私も領都……エリスタンは故郷だと思っておりますから。ですけれど、今の私が最も大事にすべきは、この街、ミドローグなのです。参事会の一員として、この街を守っていくべき責任が、私にはあります。ですから……もし戻るとしても、それはこの街のこれからに、しっかりとした道筋をつけた後でなければなりません」


「ほう……なるほど。本当にかなり変わったようだ。しかもいい方向の変化だな」


「お父様?」


「以前から、お前には少しばかり執着というかな、粘りが足りないと思うところがあった。まぁ、まだ若いのだからと大目には見てはいたが……いずれトラン侯爵となるのなら、その性質はあまり好ましくない。領地を、そして領民を守るには、どうしてもそういったものが必要になる。できれば、それをこの街で身につけてもらいたいと考えていたが……思った以上の成果があったようだ。どうしてなのか、と尋ねたいところだが……やはりそれは例の《少年》と出会ったが故かな?」


 急に放り込まれた話題に、カタリナは少し動揺する。

 しかし、ここでのことは、グレッグが全て、パガウスに報告しているのだ。

 それもまた知っていて当然なのだから、とすぐに落ち着いて、それから言った。


「私としてはあまり自分が変わった、とは思っていませんからその理由が、と言われてもはっきりとは言えませんが……ただ、この街が良い方向に進み始めているのは、間違いなく彼……ノアのお陰ですわ、お父様」


「ほう、否定するかと思ったのだが……それほどの人物なのかね?」


「グレッグから色々とお聞きなのでは?」


「うむ。今回の問題において、主に戦闘方面で活躍したという報告は受けたのだが……それに、出自を鑑みるに、おそらくはどこかの貴族だったのではないか、という話だったな」


「その通りですわ。本人に聞いてもはっきりとは答えてはくれませんが、仕草や教養から見るに、間違い無いかと」


「お前が抱えるには少しばかり重いのではないか? 扱いきれなければ大きな弱みになるぞ」


「そうかもしれません。ですが、協力し合えれば、逆に大きな強みともなりうる人物です。事実、ノアはこの街に巣食っていた害虫を掃除するのを手伝ってくれました」


「ふむ……結果論のように思うが、そうだな……」


 少し考えてから、パガウスは続ける。


「では、会わせてもらおうか?」


「は?」


「私はしばらくここに滞在するゆえな。実際に会って、そのノアという人物がどれほどのものか、自分の目で確かめたいのだ。問題あるかな?」

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