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第4章 旧アジール村にて
第118話 メリクーアの扱い

「で、話がずれてしまったけど、メリクーア」


 そう言って俺がメリクーアの方を見ると彼女は頷いて言う。


「あぁ、ここで物作りをしていくには足りねぇものがある……資材だ」


 それは至極当たり前の指摘で、俺も頷いた。


「それは分かってる。だから今後、ミドローグから仕入れる予定だが……」


「当面はそれでいいだろうが、ミドローグもそれほど資材豊富って訳じゃねぇぞ? ここの村、大きくするつもりなんだろう。いずれ足りなくなる」


「商人から徐々に流通を増やして……いや、そのうち首が締まるか。当面はまぁいいとしても、ずっとそれを続けるつもりでいるのはやめておいた方がいいな……」


 というのは、ここら辺りというか、ミドローグも含めて、地域全体がユリゼン連邦でも辺境の方だ。

 したがって、そういった資材を集めるにも結構な輸送費が乗せられることになる。

 ミドローグはそれでもずっとやってきたのだから独自の経済政策があるだろうが、この村にはな。

 そんなものは当然、ない。

 ミドローグのそれに乗せてもらおうにも限界はあるだろうし……。

 それでも通常ならそうなったとしても頼むしかないのだが、俺には方策が一応、ある。


「大丈夫なのか? 流通ルートとかの確保なら、鍛治師組合で協力してやるぞ。少なくとも、鍛治に必要な素材についてはな」


 カウスが今の話を聞いてそう言ってきたので、俺は、


「……そうだな。とりあえずは、頼みたい。でも、いずれなんとか出来るように色々考えておくよ。メリクーアもそれでやってくれるか?」


「私は構わねぇけど……」


 あんたは大丈夫なのか、と訊きたそうだが、今答えられることじゃないからこれは流すことにする。


「あとは何か問題はあるか? ありそうなら聞いておきたいんだが」


 これにはクザンが、


「食料と安全の確保なんかは?」


「食料については犬獣人たちがこの辺りの魔物を定期的に狩ってるから今の人数なら問題ないな。同じく、安全の確保も同じだ。盗賊とかはどうもこの辺にはいないようだし」


 辺境といえども、いや、辺境だからこそ、か。

 中央の人間に目をつけられたような盗賊たちが逃げ延びてきて、目立たない位置にアジトを作っていたりすることはよくある。

 だが、俺の探知系技能にはとりあえずかかっていない。

 だから大丈夫なはずだ。

 まぁ、まだレベルが低いからそこまで広い範囲まで見れないので、絶対とは言い切れないが、それでも一応、この辺りの大半は歩いて調べてたのだ。

 隣町とか村とかまで行けばどうだかわからないが、少なくとも俺たちの行動範囲内については問題ない。

 そんな意味を込めた俺の言葉に、クザンも一応納得したようで、


「……わかった。あぁ、今後僕も犬獣人たちや君と行動を共にするつもりだから、この辺りの魔物の種類とか探索の仕方とか、教えてよね」


「それは、もちろん。そういや、今更になるがメリクーアはいつまでここにいてくれるつもりなんだ? さっき途中になってしまったけど、腕利きの鍛治師がここにいてくれる間に、鍛治について最低限のことは知っておきたいと思ってるんだ。もちろんすぐに出来るようになるとは思ってないがどうにか教えてくれるとありがたいんだが……」


 メリクーアがいなくなって、誰も鍛治できない、では困る。

 少なくとも最低限の武器とか、鍬とか、真似事レベルでもいいからできるようになっておきたかった。

 しかし、そんな俺の言葉にメリクーアがポカンとして、


「お前、何言ってるんだ……?」


 と首を傾げ始めた。


「何って、メリクーアは依頼でここに来ただけだろ? ミドローグ鍛治師組合の腕利きなんだし、いずれ戻ってしまうんだろうから……」


「あぁ、なるほど。クザン、お前あまり詳しく説明していないな?」


「言われてみると……そこまで詳しくは。ノア、彼女はこの村に居着いてくれるつもりだよ。と言っても、君が拒否するならその限りではないけど」


「おいクザン!」


 メリクーアがクザンに叫ぶ。

 するとクザンは肩をすくめて、


「冗談だよ。ノアならきっと受け入れてくれる……と思うんだけど、僕にだって無理強いは出来ないじゃないか」


「そりゃそうだがよ……なぁ、ノア……いや、ノア村長」


「いや、普通にノアでいいぞ」


「……遜ったのになんだよ」


「悪い、話の腰を折った。それで……?」


 大体その続きは分かっていたが、一応、改めて尋ねる。

 勘違いだったら恥ずかしいじゃないか。

 そうでなければ俺としては非常に嬉しい話だけど。

 それで、どうかな……?

 そう思って続きを待っていると、メリクーアが言った。


「ノア、私をこの村に置いてくれ。この村の鍛治師として、立派に働いてみせるからよ。だから……」


「おぉ……おぉ! もちろんだとも!」


 俺はそう言って、メリクーアの手を取り、握手する。


「え? え?」


 目を白黒させる彼女に、俺は続けた。


「まさかこれほど簡単にドワーフのしかも一流どころを村に迎え入れられるとは思ってもみなかったぞ! 大歓迎だよ!」


「そ、そんな簡単でいいのか……? そもそも、あの、お前ってあの国の人間なんだろ? ドワーフが……その、あまり……?」


「いや? 俺はドワーフ好きだぞ。職人気質で、頼んだ仕事は完璧以上にこなしてくれるからな。それに気のいい奴らばっかりだし。貴族連中よりずっと……おっと、この辺については内緒で頼む」


 小声で言ったのは、もちろんあまり聞かれては困る話だから。

 まぁ、そうは言ってもこの場ではカウスしか聞いてないからさほど問題にはならないだろうけどな。

 ドワーフは口の堅い種族で知られるから。

 しかし、


「だが……カウス。あんたのところの鍛治師、しかも一流どころを引っ張ることになるが、許してくれるか……?」


 俺がカウスにそう尋ねる。

 彼にとっては大きな損だからだ。

 だが、彼は笑っていった。


「俺たちドワーフにとっては、友というのが最も大事なものだ。メリクーアにとって、それはクザンであり、そしてクザンの友であるお前も同じだ。それに、お前は俺の友でもある。だから、構わんさ。ただ……」


「ただ?」


「メリクーアを、くれぐれも頼むぞ。メリクーアは、俺の友の娘でもあるんだ」


 その言葉の意味は、よく理解できた。

 彼女の出自はあの国にある。

 あの国の、鍛治師組合に所属する鍛治師の娘だ、ということは聞いた。

 その鍛治師と、カウスは友なのだ。

 だから俺は深く頷いて、


「もちろんだよ。俺はこの村の村長だからな。村民のことは、何に代えても、守る」


 そう言うと、カウスも納得したように頷いて、俺と握手をしたのだった。

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