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第4章 旧アジール村にて
第115話 クザン、幼馴染となる

「……リタ。リタ。大丈夫かい……?」


 倒れているリタの元に駆け下り、抱き起すと、


「……ええ……大丈夫ですわ……私は、あの……」


 意識が少し朦朧としているようだが、どこかを痛めているという様子はなかった。

 とはいえ、外から見えないだけで何か問題がある可能性もある。

 僕は残念ながら治癒系の魔術とか技能を持っていたわけではなかったから、出来ることはなかった。

 けれど、とりあえずの状況だけ、説明しておくことにした。


「もう大丈夫だから、驚かないで聞いて欲しい。覚えてるかどうかはわからないけど、パーティー会場で多分、君は気絶させられるか何かして、連れ出されたんだ。もう少しで誘拐されそうだったんだけど……」


「そう、ですか……いえ、会場で何か妙な目眩が襲ってきたのは覚えています。そこから後の記憶は……なんだか朦朧として。でも誰かが、戦ってくれていたのはなんとなく……」


「あぁ、それは僕の父上だね。すごかったよ。たった一撃で、向こうの腕利きを倒してしまってさ」


「いえ、そうではなく……」


 リタは何か言いかけたが、それよりも早く、


「お嬢様! ご無事ですか! 今、治癒師が参りますゆえ。あぁ、君が見ていてくれたのか。もう大丈夫だ。君もご両親の元に戻りなさい」


 そう言って、おそらくは屋敷の人間がやってきた。

 ここで混乱に乗じてそのまま連れ去る、ということも可能だからまだ完全に油断はできないが、リタも彼らの顔を見て知り合いなのだろう、頷いて見せたので、僕もそれに頷き返して、少し離れた。

 やはり、体に異常があるかどうかは専門の人間じゃないとわからないというのは、子供の時の僕も認識してたから。

 細かく考えていたわけではないけれど。


 それから、


「……よう、クザン。お手柄だったな」


 と、ノアが近づいてきて、僕の肩をポン、と叩いた。

 

「ノア……よかった、君も無事だったか」


 彼は会場に人を呼びに行ったとはいえ、どこかで見張られて気づかれている可能性もないではなかったから、少し心配だったのだ。

 ノアはそんな僕に笑って、


「お前の方が百倍危なかったってのに、俺の心配か。まぁ、見ての通り無事さ。服はこうなってるけどな……自分で破いてさ」


 事態の危険さを伝えるために破かれた彼の服は、必死に走った結果、さらに酷くなっている。

 ほぼ上半身丸出しみたいな感じだが、これをパーティー会場で見れば一瞬で注目をさらえ、事態の切迫性を伝えられただろうというのは想像に難くなかった。

 そしてそれが故に、こんなに早く父が加勢に来てくれたのだろうということも。


「そのお陰で、僕は死なないで済んだよ……ありがとう、ノア」


「恨み言でなくお礼を言われるとは思ってもみなかったが、受け取っておくか。それより、クザン。お前、リタに対するポイントをだいぶ稼いだぞ?」


「えっ?」


「さっきの話、聞いてたが、多分リタは多少意識があったんだと思う。完全に気絶させられたわけじゃなく、魔術で意識を朦朧とさせられてたんだろうな。治癒師の会話も聞いてる限り、そんな感じみたいだ」


 ノアは僕と話しながら、治癒師のリタに対する診断と対処まで耳で聞いていたらしい。

 何人分の話を処理できるんだ、と思いながらも、なるほど、と思う。

 

「だったら、さっきリタが言ってた誰か戦ってた、っていうのは……」


「十中八九、お前のことだろう。良かったな。救いの王子様になれたぞ」


「いやいや、そんな……」


 そうだとありがたいな、と思う反面、そんなうまくいくかな?

 というのがあった。


 でも、その日からリタの僕に対する態度は結構変わって……。

 で、僕がノアの護衛見習いになる頃には、リタも同じところで働くようになって……。

 気づいたら婚約者になってたんだ。

 

 ******


「へぇ……そんなことがねぇ。面白いもんだ、とか言ったらあれだろうが、人の縁ってやつはわからねぇもんだな。私とあんたの縁だって、本当なら繋がらなかった」


 メリクーアがそう言ったので、僕も頷く。


「そうだね……あの日のことがなかったら、僕もノアやリタとは、多分ほとんど仲良くならずに終わってただろうから」


「そうなのか?」


「うん。あの事件はもちろん僕の人生でも大事件だったんだけど、あの後も三人が巻き込まれるようなこと、色々あったからね……。まぁ、いい幼馴染、だよ」


「そうか。だから友達なんだな」


「そういうことさ。で、だからこんなところまで来て、一緒に生きようと思ってる。君も協力してくれたら嬉しい」


「それはもちろんだ。別に私には目的地なんてないからな。ここで鍛治やものづくりが出来るなら、いさせてもらいたいのはこっちの方だぜ」


「でも、故郷にはご家族がいるんじゃないの?」


 僕の質問にメリクーアは少し微妙な表情で、


「……まぁ、いるけど連絡のとりようもねぇしなぁ……いや、鍛治師組合を通じてすりゃ、なんとかなるのかな? 後でカウスのおっさんに聞いてみるか……」


 そう言っていたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

クザン編ここで終わりです。

次からノアの方に戻ります!

もしよろしければ、下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です!

ブクマ・感想・評価、全てお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

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