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第4章 旧アジール村にて
第113話 クザン、賭けに出る

「……おい、早くしろ!」


 そんな声が廊下から聞こえてくる。

 人通りがほとんどなく、それはこの通路が今回のパーティーにおいては使われていないからに他ならなかった。

 つまり、屋敷の警備の人員もここについてはまず、気にしていないということだ。

 だから、その声にも誰も気付きはしない……そのはずで、だからこそ、あの声の主もさほど音量を気にしていなかった。

 けれど、実際にはその推測は間違っていた。

 というのはもう予想がつくだろうけど……。


「……やっぱりいたか。退路は最初から確保済みというわけだな」


 廊下の影から、手下たちと思しき男たちを叱責するルザー・エルミドル商会長を見張りつつ、ノアがそう言った。

 そんな彼に僕は尋ねる。


「ってことは、やっぱりエルミドルは、初めからリタを……?」


 言いながら、いくらなんでもそんなことを、地位も富も手に入れた大人の男がやるものか、という気持ちもあった。

 けれどノアはそんな僕の考えを嘲るように、


「言っただろ? あいつはクズだ。この国じゃ、こんなことはありふれてるんだよ」


「そんなの間違ってる……」


「当たり前だろうが。だが、俺たちは子供だ。そう簡単に全てを変えることは出来ない……」


「じゃあ、リタはどうするんだ……! 僕は彼女を助けるぞ!」


「ふっ。その意気だ……だが、やっぱり簡単じゃないからな。あいつ……エルミドルの横にいる、細身の男、あいつがやばいのは見て分かるな?」


 言われて観察してみると、エルミドルの隣に付き従うように進む一人の男の姿が目に入る。 脇にはだらりとした様子の少女が抱えられていて、それが誰なのかはそのドレスの柄ですぐに理解できる。

 リタだ。

 どうやら意識がないらしい、とそれで察する。


「……かなり強そうだよ。軸もぶれてないし、油断も見えない。周囲に気を張ってる……」


 僕は父上から学んでいたが、油断ならない戦士というのは常に自分のいる場所を戦場として感じられているものだという。

 その感覚からして、あの男にはそういう者が持つ、恐ろしい圧力というものが吹き出しているように感じられた。

 もちろん、父上と比べたらたぶん、何段も落ちるとは思った。

 けれど、それは何の救いにもならない。

 僕とあの男と、どちらが強いかなど、火を見るより明らかな話だから。

 きっとノアと僕とでかかっていったところで、すぐにやられてしまうだろう……。

 それはノアも感じているようで、だからこそ、言った。


「まぁ、そうだよな。だけど、無理して俺たちが戦う必要はない」


「えっ?」


「誰か大人を呼んで来りゃ良いのさ。幸い、ここから会場までは遠くないしな。こんなことなら、先に誰かに声をかけてくりゃ良かったが……あの混乱の中じゃ、俺たちの話なんて誰も聞いてくれなかっただろうし。だが、はっきり場所が分かってるなら話が違う」


「僕か君が……呼びに走れば」


「そういうことだ。どっちが行く?」


「……僕は」


 一時とて、リタから目を離したくない。

 瞬間にそう思ってしまった。

 ノアを信じていないわけではもちろんなかったけど、ここで彼女を見失えば永遠に会えなくなる。

 その可能性があることを、僕は幼いながらにしっかりと感じていたからだ。

 そんな僕の気持ちを、ノアはすぐに理解したんだろうね。

 深く頷いて、


「分かった、じゃ、ここはお前に任せる……俺は、っと」


 と言いながら、自分の服の、肩辺りをビリッ、と破いた。

 それから腰に差してある儀礼用の短剣を僕に手渡して、


「いざって時は、こいつを使え。あぁ、戦えって事じゃないからな? 逃げる時に、牽制として使えって事だ。お前じゃ、あいつには敵わない。もちろん、俺でも無理だけどな」


「ノア……分かったけど、なんで服を?」


「こうして、暴漢にやられたって泣きべそかきながら行った方が、信じて貰いやすいだろ?」


「……なるほど。君はかなり狡猾だね……」


「演技力があるって言ってくれよ。ま、お前に俺の舞台演技を見せてやれないのは残念だけどな。じゃ、お互い健闘を祈ろう」


「あぁ、ノア。できるだけ早くね」


「あぁ!」


 そして、ノアは急いで会場へと戻っていった。

 僕は短剣を腰に差して、エルミドルたちを見つめる。

 いかに彼らが退路を確保しているとはいえ、この屋敷の出入り口は限られてる。

 そしてそのいずれもが、今は見張られているはずで、だからこそ、そう簡単には逃げることは出来ない……そう思っていたのだが、


「……よし、この辺りだな」


 エルミドルがそう言って、屋敷の壁の一部に触れると、そこがごとり、と深く沈み込み、そして近くの壁が開いて、そこに地下へと続く深い階段が現れた。


「……なんだ、あれ……!?」


 僕はそう一人で呟いてしまったくらいだ。

 そしてそのまま、エルミドルたちはその中へと入ろうとする。

 僕はまずい、と思った。

 あそこに進まれては、きっともう追いかけられないだろう。

 だから僕は……。


「……ちょっと待て!」


 そう叫んで、彼らの前に姿を現してしまったんだ……。

読んでいただきありがとうございます!

クザン編、多分次で終わります。

もしよろしければ、下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です!

ブクマ・感想・評価、全てお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

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