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第4章 旧アジール村にて
第112話 クザン、混乱の最中に

「……? なんか視線を感じるな」


 話している中、ノアがそう言ってから、視線だけを動かして周囲を観察し始めた。

 すると、リタの母親の近くに一人、小太りの男性が立っているのが見えた。

 どうも視線が……リタに向いているような気がする。 

 それにリタも気づいたようで、少し体を抱くような仕草を見せた。

 どうも怯えているようだったので……僕は無神経かもしれないと思いつつも尋ねた。


「ええと、どうしたんだい? あの人……こっち見てるような気がするけど」


 そんな僕の質問にリタはなんと答えるか迷ったようで、口を引き結んだが、意外にもここでノアが言った。


「あのおっさんは、確かエルミドル商会のルザー・エルミドル会長だな。この辺りじゃ結構聞く大商会だが……。リタ、お前、あのおっさんに目をつけられてるな?」


 これに僕は驚き、リタに、


「ほ、本当かい?」


 と尋ねてしまった。

 今ならこう言う時、直接こんなこと尋ねたりはしないだろうけどね。

 当時の僕は正真正銘、何もわかってない子供だったから。

 リタにしても、細かなことはわかってはいなかっただろうが、なんとなく感じるものはあったんだろう。

 青い顔で、彼女は言った。


「……私も詳しい話は知りません。でも、お父様とお母様が、あの方からお金を借りようとしていて……その中で私の名前が出てくるのを何回か聞いたことがあって」


 なるほど、とこの時ノアは思ったのだろうね。

 深刻な顔で頷いて、


「そうか……心配か?」


 と単刀直入に聞いた。

 これにリタは、息を呑んで、


「……っ! 私は……別に……」


 と、何かを言いかけたが、なんとも言えない表情で口元を引き結んで、それから、


「……すみません、私、ちょっと失礼します。他にも挨拶しなければならない方達がおりますので……」


 と言って立ち上がり、小走りで他の子供たちのところへと向かってしまった。

 僕はこの間うまく口を挟めなくて、彼女が去った後に、


「ノア……! いくらなんでも無神経だったんじゃ!」

  

 と言ったのだけど、肝心のノアの方は何も気にしてない様子で、僕を呆れたような表情で見て、


「……お前なぁ。俺はむしろクザン、お前の株が下がるのをなんとか回避してやったんだからな?」


 と言った。


「そ、それはどういう……」


 動揺しながら尋ねる僕に、ノアはため息をつきながら続けた。


「お前がリタの家の事情に、無理に踏み込もうとしてたんだろうが……まぁ、気になるのは分かるし、放置するのもな……これは父上とも相談した方がよさそうだ」


「ノア! ちゃんと説明してくれよ!」


 求める僕に、ノアは言う。


「聞いてただろ? リタの両親は大商人に金を借りようとしている。いや、もう借りてるのかもしれないな。その状況でリタの名前が出てくるってのは、大体理由なんて決まってるだろう」


「ええと……?」


「察しが悪いな。リタ自身の身柄を求められてるんだろうさ。将来の婚約か……最悪の場合、事故に見せかけて死んだことにして、奴隷として引き取るとかもありうるな……あぁ、あいつの評判からするとこっちの方がありそうだ」


 これは僕にとって驚くべき話だった。

 七歳の少年がすぐに理解できるような内容じゃないからね。

 でも、僕には理解できた。

 そういう犯罪というのを、僕は父から結構聞いたりしていた。

 将来のために、と言われて。

 でも、それでも聞かずにはいられなかった。


「の、ノア! まさかそんな……!」


 地域でも知られた商人が、そんなことをするとはその時の僕には思えなかった。

 けれどノアはその時でもすでに色々と分かっていたのだろうね。

 僕を現実知らない子供を見るように、実際にそうだったわけだけど、鼻で笑って言ったよ。


「この国にどれだけのクズがいるかは、お前もいずれ知ることになる。だからあまり期待するな。あいつも、そのクズの一人なんだよ。いずれは何かやらかすと思って見張ってるんだ……父上もな。おっと、お前も黙ってろよ? 口にすれば、流石にお前であろうと、父親と一緒に処分せざるを得ないからな」


「ノア……君は」


 本気なのかと聞きたかったけど、まぁ、間違いなく本気だったよね。

 彼は昔からそう言う人だ。

 情が厚いいい人だけど、目的の前にはそれを捨てられる。

 子供の時からそうだ。

 けれど、その情のためにできることをしてくれる人でもある。

 だからこそ、その後に起こった騒動で、彼に出来るだけのことをしてくれた。

 と言うのも、それからしばらく経って、パーティー会場がざわつき始めた。

 どうしたのかと思って、ウエイターの一人に尋ねると、


「どうも、お嬢様の姿が見えないようで……」


 そう言ったのだ。

 お嬢様とは、つまりはリタのことだ。

 これにノアは、


「……意外に早く尻尾を出したのかもな。まぁ、大商人といってもそれほど機会はなかったってことか」


 とわかったようなことを言った。

 僕は慌てて尋ねる。


「リタは!? どこに……」


「多分、あのおっさんの行先に……お前、見たか?」


「おっさんって、エルミドル会長? そういえばさっき向こうの扉から出て行った記憶があるけど……」


「さすが目がいいな。よし、行くぞ!」


 そう言って立ち上がり、走り始めたノアを、僕は追いかけた。

読んでいただきありがとうございます!

クザン編、ちょっと想定したより長くなってて、これじゃないんだよという方がいるのはわかってるのですがもう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

もしよろしければ、下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です!

ブクマ・感想・評価、全てお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

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