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第4章 旧アジール村にて
第111話 クザン、休憩所にて

「本日は、ようこそおいでくださいました、ノアさま、クザンさま」


 そう言ってドレスの裾をつまみ、優雅にカーテシーを披露するリタの姿は、僕には眩しく映った。

 今日は彼女の家の主催だけあって、ノアの家で行われたパーティーの時よりも煌びやかな服装を彼女がしていた、というのもあって、僕は見惚れてしまった。

 そんな僕の硬直を尻目に、ノアは、


「こちらこそお招きいただき、ありがたく存じます。リタ嬢……おい、お前も」


 気品ある優雅な仕草と共に返答し、それから僕のことを肘で軽く突いてから、小声でそう言った。

 そこで初めて僕は我に返って、


「あっ、あの……お招きいただき、嬉しく思います……失礼、とてもお美しくて、少しばかりまごついてしまいました……」


「あら、いやですわ。そんなお世辞をおっしゃっていただいて」


 そう言ったのは、リタではなく、横についている彼女の母親だった。

 僕らはまだ子供だから、こういう場では当然に保護者がつく。

 僕らの後ろには……ノアの父上がいた。

 幸い、護衛としてついてきたのは僕の父ではなく、別の人間だったから、気まずさはなかった。

 ノアの父上はとても気さくで優しい人で、僕に対しても穏やかに接してくれたからね。

 今回のことだって、無理を言って悪かったと言っていたくらいだから。


 それにしても、僕としてはお世辞のつもりなど一切なかったのだけど、確かに子供の間とはいえ、こういう場ではそのようなものが数え切れないほど行き交うのは事実だ。

 だから、僕の台詞も、あくまでも練習を何度も重ねたものをつっかえないように頑張って言ったのだ、と捉えたのだと思う。

 実際、練習していた台詞もあったんだけど、まぁ、リタを見た瞬間にほぼ全て忘れてしまったよね……まぁ、それはいいか。

 ともあれ、挨拶もそこそこに、


「あの、お母様」


「何かしら、リタ?」


「私、お二人と向こうで話してきてもいいでしょうか? この間、パーティーで仲良くなったので……」


「あぁ、そんなことも言っていたわね。貴方にしては珍しいことだと思っていたのよ。もちろん、構わないわ。あちらに空いているスペースがあるから」


 そう言って示した方にはソファと椅子が並べられて、疲れた場合にくつろげるようになっている区画があった。

 リタは自らの母上に頷いてから、


「分かりました。では、お二人とも、あちらに参りましょう?」


 僕らにそう言って促したのだった。


 ******


「……はぁ、しかし肩が凝るな」


 ソファにどっかりと座るとノアがいきなりそう呟いた。

 座り方は若干乱暴だったが、それでも他から見るとあまり品悪く見えないように振る舞っているあたり、彼の高い猫被り力が理解できる。


「ノア……君の父上に怒られないのかい?」


 そう言って、少し先でリタの母上と話しているノアの父上に視線を向けるが、ノアはひらひらと手を振って、


「大丈夫さ。俺がこんな感じなのは父上も知ってるから。それに周りを見てみろよ。俺たちくらいの年齢だったらこれくらいでも上出来な方だ」


 そう言う。

 確かに、周囲の子供を見ると、結構わちゃくちゃとしているというか、行儀がいいと言い切れるほどの者は少ない。

 まぁ、高度な教育や、厳しい作法を学ぶ機会が少なければ、六、七歳の子供なんてそんなものだろう。

 僕らの場合は……ノアとリタは言うまでもなく、また僕についても父上からその辺りは厳しく言われているから、落ち着いていられるだけだ。

 僕らこそがこの場においては異常で、だから大丈夫なのは事実だった。


「ふふ、お二人とも、本当にいつもそんな感じですのね? やっぱり、街では子供というのは皆、そのような感じなのですか?」


 リタが僕らに尋ねてくる。

 彼女にはこの間、僕らの出会いを大雑把に話してあり、僕らが定期的に街に出て悪ガキたちと遊んでいる様子も語っていた。

 リタはそのようなことが出来ない、いわゆる深窓の令嬢というやつだったから、かなり新鮮に聞こえたらしく、詳しい話を聞きたいとせがんだ。

 でもこの間だけだと、僕らの長い対立の歴史を語るには短すぎて、大まかなことしか話せていなかったのだ。

 だからこの機会にぜひ聞いておきたいと思ったのだろうね。


「どうかな。まぁ、言葉遣いは想像通り、かなり悪いよ。みんな敬語とか習うわけもないからね。一応、職人に丁稚奉公しているような子供なら最低限分かっているけれど、そのくらいだし」


「そもそもそういう奴らは裏町なんかにはあまり来なくなるからな。仕事が忙しくて。俺たちと連んでたのは、まだ若すぎてあんまり仕事が振られてないような奴らばっかりだった。あとは、兄弟の面倒を見るように言われて、家にいるのも暇だからって遊びに来てる奴らとかな。まぁ、そんなのばかりだったから喧嘩が絶えなかったわけだが」


「ですけど、一応ルールのようなものはあったのでしょう? お二人が戦われたのはまさにそのような規則によるものだと」


 これにはノアが頷いて、


「そうさ。子供だって、人数が増えてくると自ずとルールが出来てくる……ま、最後の方はほぼ俺とこいつの戦いが主になっちゃったけどな。そういや、俺が行かなくなったあと、あのあたりはどうなったんだ?」


「あぁ、これが不思議なんだけど、もう小競り合いみたいなのはなくなってしまったよ。で、皆が訓練とかし出したかな。そうなると暇になるからって、勉強とか教え出したり……計算とか文字の読み書きとかは、ノア、君が教えてたって聞いたよ? それを引き継いだって」

読んでいただきありがとうございます!

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