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第4章 旧アジール村にて
第110話 クザン、連れてかれる

「……それにしても、ここ、さっきから誰も通らないね? こんなに静かで、綺麗な場所なのに」


 僕が周囲を見ながらそう呟いた。

 噴水のある中庭、周囲にはよく整えられた花畑や生垣があって、ベンチなどもいくつか設置してある。

 もちろん、パーティー……厳密に言うなら、夜会に分類されるようなそれが開かれるような時間帯だからね。

 当然、周囲は暗くあるべきだったけど、実際には仄かな光が辺りを照らしていた。

 魔道具……《魔術灯》による明かりが取られているからだけど、それだと通常はもっと人工的な輝きであるのが普通だ。

 けれど、ここは……なんというか、もっと柔らかな自然光に照らされていたんだ。

 これは今なら分かるけど、《魔術灯》の中でもより高度なそれが使われていたのだろうね。

 空を見つめると、そこには普通では見えないはずの星の光が瞬いていた。

 自然光を強めて、人にとって快い環境を作ろうとしていたのだろうね。

 相当な財力がなければできないことだ……まぁ、それはいいか。

 そんな空間なのに、そこには人があまり……というか、少女が来てからずっと、人が来なかった。

 だからこその台詞だったんだけど、これにノアがあっけらかんとした様子で言ったよ。


「そりゃあな。ここは通常、俺の家族と、護衛しか来れないようになってるんだ」


「え? じゃ、じゃあ僕は……?」


「お前は、お前の親父さんがまさに俺の護衛だろう。だから、お前も含めてここを使ってもいいと父上から伝えられてる。で、君の方は……」


「わ、私、大変なところに勝手に入り込んでしまったのかしら……?」


「いや。多分、君が会場で大変そうな思いをしていたのを見て、家族の誰かが……多分、母上あたりだろうが、護衛の誰かに伝えてここに来れるように取り計らったんだろうな。誰かに勧められなかったか?」


「あっ、そ、そういえば、会場で声をかけていただきました……すごく綺麗な方だったんですけど……もしかしてあの方が……」


「母上だな。なんだ、あの人名乗らなかったのか。まぁいつものことか……すまないな、うちの家族が変なことして」


「いえ、そんな……それに名乗らないといえば、私もまだ名乗っておりませんでした。私はリタ、と申します。家名は……」


 その先をリタは言おうとしたけれど、ノアが止めた。


「そこから先を聞くと、変な遠慮がお互いに生まれそうだからな。あとで分かることとはいえ、ここでは名乗らないことにしよう。いいな?」


「え、ええ、構いませんが」


「お前もだぞ、クザン」


「僕についてはもう知ってるじゃないか」


「こっちのレディに言うなって話だ」


「まぁ、構わないけど。あとでどうせ分かることだしね」


「よし。じゃあ、そういうことで」


 ******


「この間は楽しかったね」


 僕の言葉に、ノアが対面で頷いて、


「そうだな」


 そう言った。

 そんな彼に向かって、僕は続ける。


「あの子……リタも楽しそうだったし。ただ、あのあと、皆で挨拶した時はちょっとお互いに困惑しちゃったけどね」


「もうすでに散々、砕けた口調で話していながら、お互いに親たちの手前、形をつけて喋るのが大変だったもんな」


「むしろすんなり挨拶して、その場を凌げたことを褒めて欲しいよ」


「別に、すでに三人とも言わないだけで、大体の身分は分かってただろう。だから特に緊張しないで済んだ。それだけなんだから褒めるようなことじゃない」


「君とリタはしっかりと教育を受けているのだろうから、そうだろうけどさ。僕は教養の大してない身なんだけどね……」


「その割には、同年代よりもずっと頭も回る。それに加えて剣の腕もかなりのもの。これはもう、未来は俺の元に来ることは決まったようなものだな」


「……きっとそうなるだろうけど、いいのかい? 君はそれで」


「いいに決まってるだろう。ただ、俺に勝てないようじゃな。もっと腕を上げて、あとはしっかり周りを見られるようになることだ」


「……そのうち驚かせてやるからね。でも、その前にだ。どうして僕は馬車に乗っているのかな? そしてどこに向かってるんだい?」


「なんだ、気づいてなかったのか?」


「いや……父上から、君について行くようにと言われただけなんだけど……」


「あの人は……しっかり説明しておくように言ったんだけどな。まぁ、いい。この間、リタと話したろ? うちでパーティーやったけど、リタの家でも今度やるから来てくれって話になっただろうが。俺とお前が来たら、きっと楽しいだろうからって」


「あぁ……確かにそんなこと言ってたけど、社交辞令じゃ?」


「お前……そんなわけないだろ。あの場ではそんなものは無しだって、そういう前提で話してたんだから」


「そんなに呆れることないじゃないか……。そうか、本気だったのか。でも僕の立場だと……そうは受け取れなかったんだよ。それもわかってほしい」


「まぁ、な。でも俺も彼女も紛れもなく本気だったわけだ。で、これからまさにそのパーティー会場にな」


「……だからこの格好か。こんなの、初めて着たんだけど、いいのかい?」


 この時、僕が着ていたのは、ノアからというか、ノアの家から貸し出された正装だった。

 僕のような家の人間では着られないようなすごい品物だったけど、軽く貸してくれるんだから。


「別にいいさ。俺のものを仕立てるついでだったしな。今日のが終わったらやるから大切にしておけ」


「そうそう着る機会があるとも思えないけど? すぐに着れなくなっちゃいそうだし」


「大丈夫だ。俺が呼ぶからな」


「えぇ……」


 けれど彼はこの日の後も僕を何度も呼ぶようになった。

 もうお互いの正体がわかってしまったから、開き直ったんだと思う。

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