そこに立っていたのは、ドレス姿の少女だった。
年齢は……僕たちと同じくらい。
灰銀の不思議な輝きを帯びた髪に、無垢な宝石のような碧玉の瞳を持った少女で……。
******
「おい、ちょっと待て」
メリクーアがいきなり突っ込んできたので、僕は首を傾げて尋ねる。
「どうしたんだい?」
「急に描写が細かくなってないか?」
「えっ? そ、そうかな……別に普通だけど」
「……お前、自覚無しか? いや、そんなわけはないか。一目惚れか?」
その突っ込みは正直なところ的を射ていて、なんとも言えない気分になる。
描写もそんなにことさらに詳しくしたつもりはなかったのだけれど、出てしまっていたらしい。
がっくりとして、諦めて僕は言う。
「ま、まぁ……そんなところかな……」
「やっぱりか。分かりやすいやつだな……」
僕のそんな言葉を聞いているメリクーアには特にがっかりした様子はなかった。
こうして男女で一緒にいると、特に兄妹ではなく、異種族の二人だと気づかれると、そういう関係にあるのかと勘繰られることも旅の途中ではあった。
けれど、正直言って僕らにそういうものは特にないのだ。
僕にはしっかりと……その。
好きな人がいるし、メリクーアはこれで年齢は僕より遥か上である。
僕くらいの子供が、相手になるはずもない。
それでも彼女がついてきたのは、僕に対する恩を感じてくれていたのと、やはり旅をするのに彼女一人ではオラクルムは厳しいと言うことをよく分かっていたからだろう。
だから、別にお互いの恋愛については何も気にすることはない。
強いて言うなら、それこそ本当に、兄弟のそういう話を聞く感覚に近いかな。
「……でも、この時はまだ、そんなにはっきり意識したわけじゃなかったけどね」
「そうなのか? よし、じゃあ続きを聞こうか」
「あぁ……」
******
美しい少女だったけど、やっぱりドレス姿だったからね。
パーティーの出席者だと言うのは一目で分かる。
そして、僕はその会場で、その年代で最も……なんというかな。
モテていた。
だから、僕はてっきり勘違いしてしまって、彼女に聞いたよ。
「……君は、もしかして僕のことを追いかけて……?」
少しだけ、そうだったらいいな、という気持ちも多分あったと思う。
会場でたくさんの女の子に群がられていた時の気分とは、全く違っていたからね。
でも、残念なことに少女ははっきりと言ったんだ。
「え? いえ……会場で色々な人に話しかけられて疲れてしまって、出てきたのですが……申し訳ないです。ご迷惑をおかけしたでしょうか?」
これに僕はがっかりとし、そんな僕の様子を見たノアが笑って、
「ふっ……クク。残念だったな、色男」
「……ノア、お前……っ!」
「悪い、悪い。それより、そこの御令嬢。特にここに避難されても構いませんよ。我々も同じような立場なので」
僕には適当に謝る癖に、少女の方には恭しい、非常に気品のある仕草と言葉遣いでそう言ったノアだった。
僕はそれにも少しばかり腹が立ったけど、同時に、僕に対する信頼というかな。
そういうものも感じて、悪くない気分だった。
そんなノアと僕との間にある関係を感じ取ったのかもしれない。
少女は少し緊張が解けたように笑って、
「ありがとうございます。あの、できれば、私に対する言葉遣いも、あまり気になさらないでください……その方が、くつろげそうですから」
そう言ってきた。
「えっ、ですが……」
と、僕は迷った。
というのは、動きやドレスの質から見て、彼女が中々の家の人間であることが子供ながらにも分かったからね。
でも、ノアは、
「おっ、そりゃありがたいな。俺も肩肘張るのは正直疲れてるからやりたくなかったんだ。こいつと一緒にいる時は余計に面倒くさくなってしまう」
とすぐに順応する。
僕は、
「おい、ノア、お前……!」
と言ったが、すぐに少女が、
「いいのです。こんな風に話されるのはとても新鮮ですから」
「……貴女さまがそうおっしゃられるのなら」
「貴方もどうぞ、楽な言葉遣いで」
「しかし……」
「私にだけそのようにお話しされると、距離があるみたいで寂しくなってしまいます」
そう目を潤ませて上目遣いで言われれば、流石の僕も黙らざるを得ず、
「……分かりまし、分かったよ。これでいいかい? でも君は?」
「私? 私は……他の言葉遣いで話したことがなくて……少し、砕けるよう、頑張ってみますね」
そう言って、少しだけ、言葉遣いを楽なものへと変えた。
多分、この時の彼女にとって、これはむしろ楽ではなかったかもしれない。
こういった令嬢というのは小さな頃から、ずっと丁寧な言葉遣いを叩き込まれるものだから、他の言葉遣いを他人に使うことは、それこそ侍女に対する場合以外には中々ないから。
でも僕とノアの言葉遣いが、
「ちょっと砕けてるにしても、綺麗すぎるな。もっとクザンみたいにするといい。こいつもこいつで割と柔らかい言葉遣いだが、だからこそ真似しやすいぞ」
「ノアが砕けすぎなんだと思うけど……君は本当にこんな大きな家に住む一家の一人なのかい? 僕は今でも不思議でたまらないよ」
そんな風だから、最後の方には彼女も、
「二人とも面白すぎますわ。今日はとっても楽しいお友達が出来て、嬉しいです」
そんな感じになっていたから、まぁ、よかったのかなと思う。
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