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第4章 旧アジール村にて
第107話 クザン、再会

「……はぁ、はぁ! な、なんで……勝てないんだっ……!?」


 僕はそんなことを叫びながら、地面に仰向けになって寝転がってた。

 対面には、案の定、というかいつも通り、彼がいたよ。 

 彼との秘密基地を賭けた決闘は、もうその頃には定期的なイベントになってた。

 もう本来の目的の《秘密基地の占有権》なんて、みんなどうでも良くなってしまってるくらいで。

 僕と彼が戦う、となると色んなグループの子供達がやってきて見物しだすんだ。

 どうにもそこそこ見応えがあったみたいでね。

 それに結果として、いわゆる子供たちの戦争は全く無くなってしまって、どうして戦ってるのかすらわからなくなってしまっていたよ。

 でも、僕はそれでも負けられないと思って、勝つまでやろうと毎回対戦してた。

 けれど結局、僕は一度も勝つことができなかった。

 確実に剣術は僕の方が上だったにもかかわらず、だ。

 そんな僕に、彼は言ったよ。


「お前は周りを見てないからなぁ……。今日だって地面を見れば足を引っ掛けそうな石があるとか、俺の後ろには大きな柱があるからそこに木剣を打ち込んで、避けられてしまったらまずいとか、そういうこと考えないとさ」


「……ずるい!」


「ずるいって。いや、これは自分の地の利を利用するという……って言っても難しいか。普通はこんな勉強しないしな」


「チノリ?」


「だよな。ま、とにかく周りを見ろってことだよ」


「そうすればお前に勝てるようになるのか?」


「それは分かんないけど……でも、次に戦えるとしてもだいぶ先になるだろうな。俺、もうここに来れないんだ」


「えっ!?」


 それは僕にとって青天の霹靂だった。

 

「こ、困るよ! 僕が勝つまで来てくれなきゃ!」


「って言ってもなぁ。俺も来たいけど、家の奴らがうるさいんだ……まぁ、そのうちまた来れるようになんとかしてみるさ。その時まで、強くなっておけ。な?」


「……絶対に来てくれる?」


「それは約束できないかもな。でも、お前が強くなれば……まぁ、会える日は来るかもな」


「どういう意味?」


「いつか分かるさ。じゃあな」


 そう言って、彼は去っていった。

 そこから本当に来なくなって……僕もあんまり秘密基地で喧嘩はしなくなった。

 というか、同年代の子供達みんな、彼に感化されてしまってさ。

 強くなるための訓練としての模擬戦はしたけど、場所取りの争いとか、そういうのは一切なくなったんだ。

 彼が来るまで、誰が止めようとしても止まらなかったそれが、彼一人が来ただけで、平和になった。

 思えば、今の彼の性質も、当時からそんな風に現れていたのかもね。


 ******


「こんな村作っちまうくらいだもんな……昔から人をまとめるのがうまかったってことか?」


 メリクーアがそう尋ねて来たので、僕は頷く。


「あぁ、人との間にあまり隔たりを作らないんだよね。スッと懐に入って、いつの間にか仲良くなって……何だか信頼されるようになって。そんな人なんだ。だからこの村を作ることになった経緯も、なんとなくわかるよ。参事会の人とそんな風に仲良くなってしまったんだろうなってさ」


「考えようによっちゃ、シロアリみたいな奴だな……」


「あはは。でも、家を壊したりしないからね。むしろさらに丈夫にしてくれる人さ……」


 ただ、オリピアージュ公爵家にとっては、そうとも言えない状態になってしまってるが。

 全ては教会のせいだが、原因はノアの技能にある。

 そのことを思うと、巡り合わせというものの難しさを感じる。

 けれどこうやって別の場所でも自分の居場所を確保してしまうのだから、やっぱり持って生まれた何かがあるのだろうとも思う。


「さて、続きだ」


「あぁ、でも、あの人はもうその秘密基地に来なくなってしまったんだろ?」


「そうだね。だから、僕が彼と会ったのは、それからだいぶ後のことになる……あれは、ある名家のパーティーでのことだった」


 ******


「……つ、疲れた……」


 僕がその家の庭の噴水の縁に腰掛けてそう言うと、共にパーティーに参加していた父が苦笑しながら、


「ははは。鍛え足りないぞ? まぁ、しかし面白いものを見せてもらったが」


「面白いって、ひどいよ。あんなにいっぱい女の子が来るなんて……」


 パーティー会場で、僕はその時、同年代の大量の女子に群がられていた。

 仲良くなりたい、という空気感がすごくて、今だったら楽しめたかもしれないけど、その時の僕にとってはただただその勢いが怖くて疲れてしまった記憶がある。

 そんな僕を父は笑ったのだ。


「お前はだいぶいい顔をしているように見えるのだな? どうも、俺には似なかったらしい……母さんに感謝するんだな」


 母は儚げな美女で、その整った顔の作りを受け継いだことを喜べ、とこの時の父は言いたかったんだろうね。

 でもやっぱりその時の僕にとっては……。

 まぁ、そんな僕の気持ちも父はわかったんだろうね。

 肩をポン、と叩いて頷き、


「ま、しばらくの間は自由時間だ。ホストの方々への挨拶については後で時間を確保してくださるそうだし、今はここで休んでいるといい。俺は他の方々に挨拶回りをしてくるからな」


 そう言ってその場から去っていった。

 父と一緒にいて疲れる、ということはなかったけれど、一人になれて、ひどく肩の力が抜けたよ。

 それで、


「「はぁ、疲れたーっ!」」


 と言ってしまったんだ。

 そしたら、驚いたことに後ろの草むらの方からも同じ声が聞こえてきたじゃないか。

 それでびっくりして、そっちに行ってみると、


「あれっ、君は……」


「お、お前……!?」


 そこにいたのは、あの時の彼だった。

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