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第4章 旧アジール村にて
第106話 クザン、昔話

「あれは……僕が剣を習い始めて、一年は経った頃かな。六歳くらいに始めたから……七歳の時になる。ノアは六歳だった」


 僕がそう話し始めると、メリクーアは少し意外そうな顔で、


「随分と早いな? いや、親が戦士なら、おかしくはないのか? 私も鍛治について教わり始めたのは……そのくらいだ」


「何ごとも小さな頃から学んだ方が早いからね……さて、続きだ」


 ******


「おりゃああぁぁ!!!」


 木剣を思い切り振りかぶっていた。

 当時の年齢からすると、少しばかり重いけど、子供用に長さや重さを整えたもので、無理に扱わなければ体を痛めるようなものじゃなかった。

 ただ、当然のことだけどそれが命中すれば、痛いことは間違いない。そういう武器だ。

 けれど、僕はその時思い切りそれを振って、相手の少年の腹を狙った。

 この戦いに勝つことは僕にとって必要不可欠なことで、そうでなければ立場を維持できないから当然のことだった。

 それなのに、だ。


 僕の振るった木剣は、さっと避けられ、そしてバランスを崩した僕の足を引っ掛けられて、僕は大きく倒れ込んだ。

 そのまま地面に顔面を叩きつけられ、じわりと、目元が熱くなったのを感じた。

 泣きたい。

 そう思ったけれど、ここで泣くのもまた、威厳が失われる。

 だからなんとか我慢して口を引き結んで、膝をついて起き上がった。

 あの時は在らん限りの根性を注ぎ込んだのを覚えているよ。

 今も、いくら辛いことがあっても、あの時ほどじゃない、と思うと自然と力が湧き出してくる。

 いい思い出だね。

 そして、そんな僕のところに、周囲から人が寄ってきた。


「お、おい、クザン、大丈夫か!?」


「怪我してないか!?」


「クザン!」


 いずれも子供の声で、その理由は、ここが子供だけが知っている、いわゆる秘密基地であるからだった。

 その時、僕の住んでいた街はとても広かった。

 市街区の大半は美しく整えられていたけど、古い時代に作られた区画は入り組んでいて、名家ほどこの辺りに家を構えていることが多かった。 

 僕の家も同様で、同じような立場にある子供たちはこの辺りで遊ぶことが多かった。

 ただ、それでもみんな仲良く、とは必ずしもならなくて、いくつかのグループに分かれて、常に勢力争いみたいなことをしてた。

 もちろん、国や貴族がするような血生臭い戦争までは起こらないけど、代表者を出して模擬戦まがいのことをして決着をつけたり、なんてことも結構あった。

 この時はまさにその模擬戦紛い、を行ってたところで……僕はその時の相手に敗北したんだ。

 初めて見る相手だった。

 黒目黒髪の少年で、どことなく気品が感じられる人だった。

 彼は僕に戦いを挑んできて……それで。

 こんな風に簡単に負けてしまったんだ。

 この時の僕は、父から剣術を学んでいて、だからその場にいる同年代の誰よりも強かったというのに、ね。


「だ、大丈夫……それより……」


 僕は顔をあげて、相手を睨みつけた。

 僕に初めて土をつけた相手だ。

 顔を絶対に覚えて、そして復讐をしなければならない。

 もちろん、当時はそこまではっきり言葉にできたわけじゃないけど、思っていたことはまさしくそれだったよ。

 でも、彼の方は全然そんな僕の気持ちを分かってなくてね。

 むしろ笑顔で手を差し出してきて……。


「へぇ、泣かなかったのか。お前、偉いな。それにさっきの剣凄かったぞ」


 そんなことを言ってきた。

 僕はその言い草に何だか腹が経ったんだ。

 簡単に避けたくせに、そして簡単に僕に勝ったくせに、僕を褒めるんだからさ。

 だから僕は言った。


「……勝ったのは、君だ」


「それはそうだが。でもまともにやってたら俺が負けてたぞ」


「……まともにやってなかったの?」


「すごい勢いで向かってくるから、とにかく避けることを頑張ろうと思って。そしたら引っ掛けやすいところに足があったから、そのまま」


「ずるいよ!」


「えぇ? でも勝負ってそういうものだろ? お前だって今まで、ラッキーで勝ったことくらい、あるだろ?」

 

「……」


「ほらな。とにかく、今日は俺たちの勝ちだ。お前たちは出てくんだな」


 そう言われて、僕たちはすごすごと秘密基地を後にした。

 この時の戦いで何を争ってたって、この秘密基地の《場所》そのものだったんだよね。

 土地の奪い合い、というのもまさに本当の戦争みたいだけど、負けても出ていくだけで済むから気楽なものだ。

 でも僕の屈辱は、そんなものではなかったよ。

 この日からだ。

 僕が訓練に血の滲むような努力をし始めたのは。

 訓練の日、僕は父から尋ねられるようになった。


「クザン、急にどうした? この間まで、素振りなんて疲れたらやめてただろうに」


「……絶対に勝ちたい奴がいるんだ! だから強くなる方法、教えてよ!」


「お前、負けたのか? 他の子供に?」


 父は意外そうだった。

 別に子煩悩な人とか、変な贔屓をするような人じゃなかったけど、その時の僕は結構なものだったからね。

 あくまでも子供にしては、だけれど。

 僕は父の言葉に、敗北の味を再度思い出して、少し涙ぐんでしまって、でも父はそんな僕を見て少し笑ったよ。


「どうして笑うの?」


 そう尋ねた僕に、父は言った。


「その気持ちはお前を必ず強くするからだ。忘れるなよ」

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