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第4章 旧アジール村にて
第105話 教会の部屋にて

「……野宿だと思ってたのに、こんなところを用意してくれるとは意外だったな」


 村の中心にあった石造の建物、その一室でそう呟いたのは、ドワーフのメリクーアだった。

 部屋には彼女と僕、クザンだけがいる。

 カウスは別に部屋が用意されていて、そちらにいる。

 ノアが気を遣ってくれたのだろう。

 僕とメリクーアはそもそもがそれなりに長い間旅してきたからこうして同室で眠ることも平気だが、カウスは嫌がるかもしれないと。

 実際には彼は豪快なドワーフを形にしたような男だし、ここに来るまでに野宿もしているから問題ないのだが。

 

「ノアは昔から気が利く男だからね。そんなことする必要がないのに、ということでも誰かのために労を惜しまずやれる人だった」


 そう、自分より身分の低い人間に対しては、それこそゴミのように扱う人間が少なくないあの国において、オリピアージュ家の人間というのは宝石のような人々だった。

 だからこそ、あの家は発展し続けているわけだが、同時に憎まれてもいる。

 そのため、ノアについての問題というのは残しておくわけにはいかなかったのだろう。

 騎士団を出るときに、ノアの弟君であるゼルド様にこっそりと教えられたが《聖王》技能というのを得たということ。

 そんな醜聞が放置されるとは、公爵閣下も思えなかった。

 だからこそ、やりたくはなくても追放せざるを得なかった。

 ノアの生存についてはずっと魔導具で確認していたようで、いざというときのための魔術も組んであったようだから、何かあれば全てを擲ってでも助ける覚悟はあっただろう。

 ただ、その前に出来ることをやった、というわけだ。

 その賭けはこうして成功している。

 結果として、ノアがオリピアージュ公爵家を憎む可能性もあっただろう決断だが……いや、あの人がそんな妄執に囚われるなんて、似合わない、か。

 そんなことを思った。

 

「そうなのか……なぁ、クザンよ」


「何だい?」


「そろそろ、本当のことを教えちゃくれねぇか?」


「本当のことって?」


「あんたと……あの村長さんとの関係だよ。友達って言ってたけど……それも本当なんだろうけどさ。最初、敬語を使ってただろ?」


 メリクーアのそんな質問に、僕は少し驚く。

 彼女が繊細な技術を使う職人であることは知っているが、その心根はドワーフのそれだ。

 つまり大雑把で豪快な気質が強い。

 そのために、そういう細かいところについて気が付く、というのが少しだけ意外だったのだ。

 まぁ、考えてみれば、ここまで、僕の懐具合を気にしたり、落ち込みそうな時に励ましてくれたり、といったことを思えば何ら不思議なことではないのだけれど。

 僕はなんと答えるべきか迷ったが、結局、そこのところは今は、言わないことにする。

 僕個人の話ならそれでいいだろうけど、ノアについての細かい話も必要になってくる。

 そしてそれは危険な情報なのだ。

 特に、ノアにとっては、というのは勿論のこと、亜人であるメリクーアにとってもだ。

 アストラル教会は亜人排斥思考が強い集団だ。

 あまり関わり合いになるべきではない。

 だから僕は言った。


「説明したいところだけど、全部過去の話だからね。忘れた方がいいことなのさ」


 するとメリクーアは、


「でも……」


「ん?」


「あんたは友達だって言ってたけど、まるで主従みたいだったじゃないか。もしも主人だから仕えなければならないとか、そういう義務でここに来たってんなら……そんなの」


 ひどい話だ、と続けたかったのかもしれない。

 でも、僕の心を気遣って言わなかったようだ。

 というか、この言葉を聞いて、なぜメリクーアがわざわざそんな話をしてきたのか分かった。

 僕が無理に主人であるノアを探しにきた、主従であるという義務の源にしたがって、とそういう可能性を考えたのだろう。

 確かに客観的に見ればそう見える話だなとも。

 そして僕の主観でもそう間違ってはいないことが分かりにくさを増していたのだろう。

 その辺りについて、メリクーアに分かってもらうため、必要な部分だけ、少し情報を明かす。


「メリクーア、心配かけたみたいだね」


 僕のそんな言葉に、メリクーアは焦ったように首を横に降って、


「え? いや……」


 と言ってくる。

 そんな彼女に、僕は静かに告げる。


「でもね、それはちょっと的外れかな」


「……どういうことだ?」


「僕とあの人……ノアは、確かに昔は主従だった。今も感覚は変わってない。でもね、その前に僕たちは友達だったんだ。それがその後に、立場に沿った関係に緩やかに変わっただけ……そうだな。昔の話を聞くかい?」


「いいのか、聞いても?」


「まぁ、あまり細かい話は出来ないけど、僕とノアの出会いの話なら大丈夫さ。彼のことは……そうだな。ちょっとした商家の息子だった、と考えてくれればいい。僕はその護衛をよく請け負っていた戦士の息子」


 急拵えの設定にしては、割と事実に近いなと思う。

 まぁ、そうしなければ話が通らなくなるからそうせざるを得ないのだが。

 そして、僕は話し始める。

 僕と、ノアとの出会いの話を。

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