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第4章 旧アジール村にて
第104話 鍛治は誰が

「どうやら、仲直りは出来たみたいだな?」


 そう言ったのは、ミドローグの鍛治師組合長であるカウスその人であった。

 ドワーフらしい低身長に、それに見合わない筋骨隆々の体、髭面という分かりやすい容姿をしている。

 長い髭を三つ編みにしているところがチャームポイントというか、見分けやすいところかな。

 大抵のドワーフは髭はそのまま伸ばしていて、その長さでプライドを競うところがあり、余人にはちょっと理解できないところがあるから。

 そんな彼に俺は言う。


「あぁ、まぁな。別に喧嘩してたとかじゃないんだが……」


「どう見ても喧嘩にしか見えなかったぞ? それも……なんつーか、痴話喧嘩するカップルみたいな感じだったような……」


「なんでそんな風に見えるんだかわからないが、俺とこいつ、クザンは昔からの幼馴染だよ。仲はいいけど。そういや、お前……」


 俺はそこで一回言葉を切って、クザンの耳元に口を寄せ、


「リタといい仲だったんじゃなかったか? お前、あの子をどうしたんだ……?」


 リタ、というのはオリピアージュ公爵家に仕えていた侍女の一人である。

 我が家には母上以外の女性というのはいなかったので、母上の世話をする使用人たちの一人で、その中でも地位は低かった。

 これは別になんらかの差別が、というわけではなく、純粋に勤続年数のゆえにだな。

 母上には古くから仕える侍女たちがおり、それにオリピアージュ公爵家に嫁いでからの侍女もついて、さらに細々とした茶会などの事務処理をこなすための人員としての侍女も必要になって雇っている、という感じなので、母上一人に結構な人数がついている。

 リタはその中でも、最後の事務処理を主に担当する侍女になる。

 もちろん、オリピアージュ家においては、何か迫害されているとかそんなことはなく、むしろ計算やら文章能力やらを高く評価されているわけだが、地位的には低いところに置かれているのは仕方のないところだ。 

 そんな彼女と、クザンはいい仲であったと聞いていた覚えがある。 

 主に教えてくれたのは、母上についている侍女たちだ。

 彼女たちは、少しばかりお見合いおばさん的な気質があり、無理強いは決してしないのだが、両者に憎からずなところがあると見るや、恐ろしい速度でことを進めるようなところがあるのだ。

 そんな彼女たちから見て、リタとクザンの関係は極めて良好なものに映ったはずだが……。

 しかしクザンは首を横に振って、


「リタはあれで子爵家出身の御令嬢ですから。僕のような身分と立場の人間には、過ぎた人だったのです。ですから、こうして実家から縁を完全に切ることになって……もう、僕との関係は、完全にゼロになったかと」


 そう答えた。

 その言い草に、少しばかり俺は不自然なものを感じたが、彼の献身を間近に理解した俺としては否定し難い話であった。

 だから彼に言う。


「……まぁ、クザンがそういうなら、仕方ない、か。わかった」


「はい……あっ、うん……」


 慣れてないタメ口も思い出しつつ、頑張ってくれるつもりはあるようだった。

 

「まぁでも、もしもいずれ機会があったら、受け入れてやるんだぞ?」


「機会ですか?」


「そうさ。お前が、俺に仕えるためにこうして遠路はるばる、やってきたように、お前の婚約者もそうしないとは限らない」


「いや、流石にそこまでは……」


「それならそれでいいさ。でも、現実になった時は。というだけの話だ」


「ええ、そこまでされれば、流石に僕でも年貢の納め時ってやつですよ。まぁ、ありえないとは思いますけどね」


 この言葉を引き出した時、俺は少し笑った。

 なぜと言って、女性の執念というものを、クザンは少しばかり舐めているような気がしたからだ。

 特段クザンを好きでもなんでもない相手、というのなら流石の俺もなんとも思わなかっただろうが、リタについては違う。

 明確に、そして深くクザンを愛していたことは聞いていた。 

 だからこんなところに来てもなお、彼女の愛が尽きない可能性は少なからずあるだろうと俺は思ったのだ。


「……ま、そんな風に余裕ぶってられるのも今だけだと思うが」


「……? ノア様?」


「まぁいい。それより、クザン、お前、敬語が抜けてないぞ」


「え、おっと済まないね。ちょっと癖が……」


「構わないが……とりあえず、そっちのドワーフの少女から紹介してもらってもいいか? 鍛治師なんだろう?」


「あぁ、そうだね。彼女は鍛治師のメリクーア。名前はすでに聞いてるかもしれないが、腕はかなりいい。あの……国にいた鍛治師たちと比べても、一流どころで間違いないよ」


 明確にオラクルムの名称を口にしなかったのは、そうした時のこの国や組合長、それにメリクーアに対する印象を考えてのことだろう。

 クザンも、以前の騎士団に所属するだけの青二歳ならそんな受け答えはできなかっただろうが、かなり成長したらしい、とわかって俺は嬉しく思う。


「なるほどな。そういうこと位なら、この村でもしっかり歓迎したいと思ってる。ただ、見た通り鍛治場にできるところとかはほぼない。金銭は払うから、どうにか……」


「それはもちろんだよ。そのために僕たちが来たんだから。ね?」


 そう言って、組合長とメリクーアを見つめたクザンにホッとした俺だった。

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