「……とまぁ、まだまだ、住むところすらままならないくらい小さな村だよ。でも一から一月で作った割にはマシだろ? それに鍛治師も来てくれたしさ」
俺がクザンにそういうと、彼は少し微笑む。
さらさらとした金色の髪に、宝石のような青い瞳を持つクザンは、公爵騎士団の副団長バッハの実の息子であり、見た目は黒目黒髪の俺よりも遥かに貴族らしい青年である。
歳の頃は俺とほぼ同じ。
正確には一つ上だったはずだ。
まぁ、あまり変わらないと言っていい。
本当に小さな頃からの付き合いで、幼馴染といってもいい間柄にある。
俺が公爵家継嗣で、彼は副騎士団長の息子だったから身分差は確かにあったが、そこまで強く意識しないで育った。
勿論、成長していくにつれて、お互いに立場を理解していき、言葉遣いは大きく改まってしまっているが、基本的な関係の核は変わらなかった、と俺は思っている。
それだけに、今のクザンの態度というか、様子は少しばかり意外だ。
だいぶ俺に対してビビっているというか、不安そうというか、そんな感じだからだ。
それでも最初よりはだいぶマシになったけどな。
俺の言葉に、
「ええ、まさかこれだけの村を作っていらっしゃるとは……!あれからまだほんの数ヶ月しか経っていませんのに。僕は貴方の生存すら危ぶんでいたんですよ……」
「そりゃ、あんなところに放り込まれたらそうなるよな……なぁ、クザン」
「はい?」
「その言葉遣い、やめないか?」
俺はとりあえず思いついて、そう言ってみる。
以前だったら無理だっただろうが今なら別に構わないだろうと思って。
何せ、今の俺はただの平民だ。
少なくともこの国での扱いはそうだ。
クザンは……公爵家の従騎士様ってことになるから、俺の方が遜らなきゃならないんだろうが、そこのところは大目に見てもらおう。
そう思いつつの言葉だった。
これにクザンは、
「えっ、で、でも……」
と慌てる。
まぁ、その気持ちは理解できる。
何年となくずっと、俺に対して使ってきた言葉遣いだ。
それをいきなり改めろと言われてすぐにできることではないかもしれない。
でも、やってもらいたかった。
俺は他の二人……鍛治師組合長カウスと、鍛治師であるというメリクーアという少女に聞こえないよう、クザンの耳元に口を寄せ、言う。
「別にもう俺は公爵家の人間ってわけじゃないんだ。いいだろ。それにお前は従騎士様なんだから、本当なら俺の方が敬語使わなきゃならないような立場なんだしさ」
そう言うと、クザンは、あぁ、と言う顔をしてから、俺に対してやはり小声で、
「……それなんですが、実のところ僕も、もう公爵家とは無関係なんです。貴方様を絶対に見つけると言って飛び出してきてしまってて、その時に、正式に騎士団の籍を剥奪されまして……」
と返答してきた。
これに俺はひどく驚く。
「お前……マジか!? あれだけ騎士になるんだと、将来は騎士団長になるんだと言ってたのに……! おい、よかったのか?」
これにクザンは苦笑しながら答える。
「よくは……ないんでしょうね。父も止めはしましたよ。でも、僕の決意の固さを見るや、すぐに諦めました。それに僕は……騎士団長になりたかったんじゃないんです」
「え?」
「僕は貴方の騎士団長になりたかったんですよ。貴方がいない公爵家で、それを目指しても……僕の夢は叶いません。ですから、こんなところまで探しに来たんです」
「クザン、お前……」
「ノア様、お願いします。もう僕には行くところはありません。野宿だろうが重労働だろうが魔物討伐だろうが、なんでもします。どうか、今一度貴方様の側に、僕をおいてはいただけないでしょうか。どうか……」
そう言って、急に深く頭を下げたクザン。
これに面食らったのは、俺だけでなく、今までの会話が静かに行われていたため、何がどうなったのか全く分かっていないカウスとメリクーアもだった。
「あぁ? なんだぁ? 喧嘩でもしたか?」
「おいっ、あんたクザンになんかしたのか!?」
二人してそんなことを言っている。
俺は慌てて、
「クザン、頭を上げろって! 俺は……」
「貴方様がうんと仰るまで、僕は……」
「お前……前よりもさらに頑固になったな。分かったよ……好きなだけ、俺の側にいろ。だからほら、顔を上げろ」
「えっ!? い、いいんですか!?」
バッと顔を上げたクザン。
自分で頼んでおきながら、こんなにすぐに頷かれるのは予想外だったらしい。
俺は笑って、
「これからこの村を発展させていかなきゃならないんだ。人手はいくらでもあった方がいいからな。それがかつての俺の友達なら、いいに決まってる……かつてじゃないか。今も友達……だよな?」
「えっ? は、はい。それは勿論……」
「じゃあ、敬語はやめろ。いいな?」
「そ……それは!」
「ここに住む、ただ一つの条件がそれだ。分かったな?」
若干性格が悪いな、と思いつつも俺が念押しすると、クザンは最後に折れて、
「……分かりまし……分かったよ。これでいいかい……?」
そう言ったのだった。
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