マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.15

 侵入者を察知した遺跡からはアラームが鳴り、シノブ達は急いで撤収していた。

 

 その直前にハヤテが、混ぜるな危険の発想でペットボトルの中にリンゴを入れた。その結果、ヴァール化の誘発物質であるセイズノールが生成され、人為的にヴァールを発生させる。そして、ウィンダミアが風の歌でコントロールしているという結論が出たのである。

 

「この先、左!!」

 レイナの指示を受けながら外へと出る為に走る。

 

 だが、不意にフレイアの足が止まった。

 

「何してんだ!」

 

「急いで!!」

 ハヤテとミラージュが戻ったところで緊急シャッターが降り、チームが分断される。

 

「中尉達は先へ!! 直ぐに追いつきます!!」

 

「そっちは任せたぞ、少尉!!」

 シノブ達は更に進んでゆく。

 

 

 一方のハヤテ達は、近くの通気口の蓋を開けて遺跡の地下にあたる場所に落着した。だが、そこで待っていたのはウィンダミア王国の最精鋭である空中騎士団であった。

 

「罠にかかったのは3匹か……」

 ハヤテ達の正面に立つバラのように赤い髪を持つ少年が口を開く。

 

「統合政府の犬どもと、裏切り者のウィンダミア人」

 赤髪の少年はそう付け加えてから飛び上がると、ハヤテとミラージュに接近し殴り飛ばした。

 

 そして、腰の鞘から抜いた剣をフレイアの首に宛がう。

 

 その少年の瞳には、明らかな殺意と憎悪の炎が灯っていた。

 

 

「ちっ……」

 拳銃の発砲音が鳴る度に敵が一人づつ倒れていく。既に、マガジンは二つ目に突入していた。

 

「アイテールに通信は?」

 

「無線封鎖中」

 

「フレイアたちは?」

 

「生命反応はマル。緊急通信応答はバツ」

 

「まずいわね……」

 

「とにかく、今は此処を抜けることが大事だ!! 俺が合図したら、反対側の角までダッシュ!!」

 

「「「了解」」」

 シノブとメッサーは、それぞれの得物の引き金を引き続け、どんどんとヴォルドール陸軍の兵士達を殺してゆく。

 

「行け、行け、行け!!」

 一瞬の隙をついてシノブが叫ぶ。途端、シノブ達の後ろに隠れていたマキナ達が反対側の通路目掛けて走っていった。

 

「メッサー!! お前も行け!! 援護は任せろ」

 

「了解!」

 シノブの援護を受けながらメッサーが駆けてゆき、出遅れたカナメを守る形で遮蔽物に逃げ込む。

 

「これでもくらいやがれ!!」

 そう言ってシノブは一つの手榴弾を敵目掛けて投げ込む。投げた手榴弾の信管が作動し、ピンク色の煙を噴き出し始めた。

 

 それから、数分後。地下に突入したワルキューレが『いけないボーダーライン』をホログラムで流しだす。その間に、ハヤテとミラージュ、フレイアを救出した。

 

「ウィンダミア人相手に拳銃じゃ無理があるか……なっ!?」

 岩陰から射撃していたシノブは、その先の階段でアサルトライフルを連射していたメッサーを見上げ、声を上げる。

 

「我が風を読んだな? 貴様が死神か……!!」

 

「お前は……白騎士……!!」

 振り下ろされた剣をライフルで受け止め、白騎士と相対する。

 

 メッサーはライフルで押し返すと『白騎士』は、直ぐに後ろに後退した。

 

「貴様との決着は空でつけよう!」

 空中騎士団の攻撃を逃げ切り、外へと続く通路を駆けていた9人の目に一人の女の姿が映る。

 

 通路のライトを受けてキラキラと輝く白髪に、赤より紅い瞳。そして、ゼントラーディ特有の尖った耳。

 

 年季の入ったフライトジャケットと、その下から覗く筋肉質の肉体。それでいても、出るところはしっかり出ているナイスバディの持ち主であった。

 

「誰だよ、ア―――」

 

「……やっぱり、ノーラだったか」

 ハヤテの言葉を遮ったシノブは、ホルスターから拳銃を抜き放ちノーラに向けた。

 

「お久しぶりです。シノブ教官」

 心地の良いメッゾソプラノの声音に動揺の色は無い。

 

「ああ。だが、今話をしている余裕は無い。そこを退けろ」

 

「どうぞ。あたしは、ただ見学していただけなので」

 道を開けたノーラはそのまま壁に体を預ける。

 

「カナメさん、先に外へ」

 

「わかったわ」

 カナメがワルキューレのメンバーを連れて外へと急いでいく。

 

「メッサー、ハヤテ達も行ってくれ。俺は大丈夫だ」

 

「了解」

 アサルトライフルを構えていたメッサーが返事をし、ハヤテ達と共に走っていった。

 

 外からは、熱核バーストエンジンの咆哮が聞こえてきている。

 

「ノーラ、お前も飛ぶのか?」

 拳銃をノーラに向けつつシノブは言うが、ノーラはひらひらと手を振りながら否定した。

 

「今回は上がりません。教官、イオニデスとランドールの時に戦った『荒鷲』が描かれている機体は、貴方のですよね?」

 

「そうだ。じゃあ俺も聞くが、イオニデスの時に追い詰めたVF-27はお前の機体だな?」

 

「もちろん、機装強化兵(サイバーグラント)じゃありませんよ。この身体はウェットです。3年前に貴方が抱いてくれたままのね」

 そう言ってノーラは自分の胸を強調するかの如く腕を組んだ。

 

「終わったことだろう?」

 シノブの耳には足音が、ノーラの瞳には3人の追手の姿が、聞こえ、映る。

 

「あそこだ!! ノーラ中騎、忌々しい地球人を捕まえろ!!」

 騒々しい声が、二人の会話を邪魔する。

 

 構えていたシングルアクションの拳銃をシノブはノーラに差し出す。短いアイコンタクトの内で、意思疎通は済ませていた。

 

 拳銃を受け取ったノーラはそれをシノブに向ける。追手はそれを見て走る速度を緩めた。だが、それが命取りとなった。

 

 急にシノブがしゃがみ込んだのである。シノブがしゃがみ込むタイミングを見計らってノーラは引き金を引く。

 

 セミオートで、きっかり3発の射撃は、追手3人の額に命中し、その命を刈り取った。

 

「躱されると思ったが、そうでもないんだな」

 自分が差し出した拳銃を受け取り、ホルスターに仕舞ったシノブはそう呟く。

 

「騎士団といえども下っ端。そんな連中が……あたしや教官に敵うと思いますか?」

 

「違いない。っと、騎士団を殺したのは敵、とでも伝えておいてくれ。何かと面倒だろ?」

 

「ええ。では、次は空で会いましょう」

 シノブの横をすれ違ったノーラは、コツコツと足音を響かせながら遺跡の奥へと足を進めていった。

 

 

 ヴォルドールの遺跡からシノブが飛び出すと、空は、すでに戦場になっていた。

 

 シノブの目の前には、銀朱のVF-31F ジークフリードが、ガウォーク形態で鎮座している。そのキャノピーは開かれ、主の搭乗を待ちわびているかのように見えた。

 

「いくぞ、相棒」

 機体を一瞥し、コクピットに飛び乗る。レーダーは、ヴォルドール空軍のVF-171 ナイトメアプラスとAIF-7S ゴースト。そして、ウィンダミアのSv-262の反応で真っ赤になっていた。

 

 フットペダルを蹴り込み、熱核バーストエンジンの推力で機体を空に押し上げる。

 

「Δ5!! 6時上方っ!!」

 ミラージュの鋭い声がシノブに向けられた。ヴォルドール空軍のVF-171が、上昇を掛けていたシノブのVF-31Fに襲い掛かったのである。

 

「良い突っ込みだが……甘い!!」

 ループの頂点で推力偏向ノズルを用いて、機体の軌道をより内側に向け、最小の角度で反転させた。そして、VF-171のエンジンにレールマシンガンを叩き込み、撃墜する。

 

 誰が見ても美しい技であった。

 

「待ってたぞ、シノブ!!」

 

「全機!! フォーメーション・エレボス!!」

 アラドの声が、無線機から響いてくる。揃った6機のジークフリードが、炎と硝煙で彩られたヴォルドールの空を舞う。

 

 

「もっと……近く、近く……近くっ!!」

 VF-171の後ろを取ったハヤテが、翼を撃つためにグイグイと近寄っていき、撃墜した。

 

「12時、敵っ!!」

 メッサーが叫び、白騎士と激しいドッグファイトにもつれ込んでゆく。

 

 翼が風を切り裂き、熱核バーストエンジンが蒼の炎を噴き上げる。シノブのジークフリードはただひたすらに敵機を沈めてゆく。新統合軍機の大半が、戦闘不能に陥りワルキューレの歌によって自我を取り戻していった。

 

 だが、一機のVF-171がワルキューレのステージである遺跡に迫り、攻撃を加え始めた。それに気づいたハヤテが機体を翻して飛んで行く。

 

 敵機の前に躍り出るが、ミサイルを喰らい弾き飛ばされる。それと同時に、フレイアがステージから飛び降りハヤテへ向かって駆け出して行った。

 

 その間にも、頭部モニターターレットを破壊され照準が定まらなくなってしまう。

 

「いけん!! 撃っちゃいけん!! 撃っちゃいけーーーん!!」

 両手を広げ、ハヤテのジークフリードの前に立ったフレイアは思いっきりの声で叫ぶ。

 

「歌はきっと届くから!! 歌は幻なんかじゃないから!!」

 

「フレイア……お前……」

 『GIRAFFE BLUES』を歌いだしたフレイアのルンが輝きだし、フォールドレセプターの値が急上昇する。フレイアが覚醒した瞬間であった。

 

「穢れた歌をやめろぉおお!!」

 

「邪魔はさせないっ!!」

 吶喊してきたドラケンを迎撃するべくハヤテが飛び上がる。その機体は淡く輝き、シノブは目を見張った。

 

 8年前に見た光景と目の前のハヤテの飛行が重なる。

 

「イイ飛び方だ……!!」

 ガウォークになって制動を掛けたドラケンに追随する形でハヤテも機体を制動させた。そして腕部のレールマシンガンで相手の武装を破壊し、右脚のエンジンにとどめの射撃を決めたのである。

 

「ヒヨッコが風と踊りやがった……!! ったく……よく似てやがるぜ()()人に……」

 6機のジークフリードと『ワルキューレ』を乗せたシャトルはそのまま大気圏を離脱し、アイテールへと帰還してゆくのであった。




どうもセメント暮らしです。
大分期日をオーバーしてしまいました。
連日の暑さで体がアイスのように溶けそうです。
皆様も体調管理を万全にして過ごしていただきたいです。
換装や質問待ってます!!

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