アイテールの甲板にせり上がってきた超強化ガラス製のステージには5人の歌姫が立っていた。
「歌は愛‼」
「歌は希望‼」
「歌は生命‼」
「歌は元気‼」
「聞かせてあげる……女神の歌を‼」
「「「「「超時空ヴィーナス"ワルキューレ"」」」」」
掛け声に応じて『Walküre Attack!』が流れ出す。
「Δ小隊、見参!!」
虚空へと打ち出された6機のVF-31 ジークフリードがアステロイドベルトへ向かって機体を加速させ、小惑星にプロジェクションユニットを通じてワルキューレの映像を投影させる。
「Δ5より6へ。好き勝手に飛び出して死ぬことだけは止めてくれ」
「分かって――」
ハヤテがそう言いかけた瞬間、発艦したα小隊の4番機と5番機が連続の狙撃によって火の玉になった。直ぐに全機が散開し、狙撃の的にならないように動きだす。
「っ……」
「違和感の原因はこれか……」
出撃の直前に感じていた言い表せない何かを理解したシノブは、ビームが飛来した方向へと転換しスーパーパックに装着されている大口径集束ビーム砲を斉射した。
光線が一つのアステロイドを溶解させる。
光学ステルスとアクティブステルスを同時に使用できる4発の大出力反応エンジンを積んだバルキリーのコクピットの中で、ノーラ・ガブリエルはその美麗な顔に似合わない悪態をついた。
「ち……すばしっこい」
彼女の直ぐ横にあったアステロイドは4つの集束ビームを浴びて細かい瓦礫となっている。
再び口径75㎜はあろうかというビームガンポッドをバトロイド形態で構えたノーラはヘルメット内のレティクルに、こちらへと向かってくる1機のVF-31Fを捉える。付近にいるヴァール化した新統合軍のVF-171数機をビームガンポッドの短い斉射だけでデブリへと変えていく強者であった。
「シノブ教官みたいな飛び方をするなんて生意気な」
操縦桿のトリガーを引いた。
長大な光線が銀朱のVF-31F目掛けて飛来した。が、VF-31Fはビームを鮮やかなバレルロールで躱した後、迫っていたサンドイエローに塗装されているVF-171のコクピットを機体背部のレーザー機銃で潰す。
操縦者を失ったVF-171の動きが止まり、衛星軌道を漂い始めた。
狙撃をしてくるアンノウンに向けて機体を前進させていたシノブは、どんどんと近づいてくる機影に目を見開く。
深い水底のような藍色に、特徴的なエンジン配置の翼。
右翼側に懸架された大型のビームガンポッド、左翼にはその対となる様に配置されたカウンターウェイト用の装備。
「……やっぱり、ギャラクシーの連中が関わってんのかよ!!」
吐き出すようにシノブが吠えた。
「直上よりウィンダミア機!!」
メッサ―の声が無線から響いてくる。ヘルメットのバイザーに表示されるレーダーにはSv-262を示すフリップが9つ、VF-27を示す1つのフリップ。あとは、イオニデスに派遣されている新統合軍機で真っ赤であった。
2機の機体が尾翼すれすれで交差する。
銀朱の翼を持つ
「――なっ!?」
すれ違ったコンマ数秒の間に、ノーラの紅い瞳にシノブの姿と荒鷲のエンブレムが映った。
ガイノス3で自身の教官をしていた男。
追いすがろうとしても追いすがれなかった男。
好きな男に振られた時に、慰め、吹っ切らせてくれた男。
様々な思いがノーラの頭の中を廻っていく。
「――シノブ……教官」
咄嗟に無線をオープン回線に切り替えようとしたが、踏みとどまる。
「今は……味方じゃない!!」
強く、自分に言い聞かせた。
藍色のVF-27 ルシファーがアステロイドを蹴りつけ、主翼エンジンポッドに装着されているマイクロミサイルポッドから雨あられの如く牽制のマイクロミサイルを放った。
そのミサイル群は、同じように反転した銀朱のVF-31Fに様々な軌道を描きながら襲い掛かった。
「最優先はあのガンポッド!!」
VF-25Gが装備しているSSL-9B ドラグノフ・アンチ・マテリアル・スナイパーライフルより、明らかに大きい口径を持つガンポッドを破壊しようと、大口径集束ビーム砲とマイクロミサイルをVF-27目掛けて発射する。
薙ぎ払うように放たれた集束ビームがマイクロミサイルを破壊し、その爆破煙を突き抜けたミサイルがVF-27に殺到した。
「くっ!!」
ガウォークに変形したVF-27が機体各部に内蔵されているビーム機銃で迎撃。
全弾を迎撃したところで、煙の中から飛び出てきた一条の光が懸架されている75㎜ビームガンポッドに直撃し、爆発四散する。
ノーラは、ビームガンポッドが爆ぜた瞬間に反応炉兼カウンターウェイトを切り離し、急速離脱する。そして、機体背部の20㎜ビーム機銃でそれを爆破させた。
アステロイドベルトに小さな太陽が生まれ、付近のデブリを飲み込んだ。
「スナイプをしていたVF-27が離脱。これより、アイテールの援護に入る!!」
そう言ってシノブは、フットペダルを蹴り飛ばし、集束ビームをアイテールに近づく3機のSv-262に向けて放つ。
ARIELⅢが計算し、放たれたビームがSv-262の未来位置に到達する。1機の右翼をゴーストごと破壊し、もう1機のスーパーパックを粉々にした。
「なにっ!?」
「スーパーパックが!!」
双子の兄弟がルンを青に染めつつ言った。だが、それでも止まらずに、アイテール甲板上にいるワルキューレの面々を目指してガンポッドを撃ち続ける。
「まずい!!」
カナメが声を荒げた。
α、β小隊の攻撃をガウォークで回避しながら突撃していくSv-262の1機から数十発のマイクロミサイルが発射され、超強化ガラス目掛けて飛来してくる。
「ピンポイントバリアを!!」
カナメの声を受け、ステージの前面に多数のピンポイントバリアが形成される。飛来したマイクロミサイルが衝突し、爆ぜていった。
「見つけたぞ!! 裏切り者!!」
「裏切者……!?」
「消えろぉおおお!!」
煙の向こうから現れたSv-262のパイロットが、フレイアにガンポッドを向けると同時にオープン回線で叫ぶ。
「うおぉおおおお!!」
「ハヤテ!?」
横から現れたハヤテのVF-31JがSv-262を蹴り飛ばした。ハヤテが来たことによって、フレイアの顔が一瞬で明るくなる。
ハヤテが空中騎士団の1機を撃墜したところで、敵は撤退していった。ミラージュのVF-31Cはボロボロで、ハヤテのVF-31Jも推進剤が枯渇し、牽引を余儀なくされている。
「ヒヨッコが壁にぶつかったか……」
銀朱のVF-31Fのコクピットの中でシノブは呟く。
「それにしても……あのVF-27はどこの所属だ? やっぱり、ウィンダミアに武器を提供しているのはゼネラル・ギャラクシーなのか……」
惑星ラグナ
ミラージュ機に牽引される形でアイテールに戻ったハヤテの顔には生気が無く、ラグナに戻ってもずっと暗い面持ちのままである。
アイテール艦内のワルキューレ・ワークス備え付けのソファーでシノブは、戦闘の疲れを癒やすかのように寛いでいた。
その隣には、大分ラフな格好になったマキナとレイナが何かコンピューターを弄っている。
「いいの?」
画面から顔を上げたマキナは、心配そうな表情をシノブに向ける。
「何がだ?」
「ハヤハヤの事」
「最初は誰でもあんなものさ……」
格納庫の天井を見ながらシノブが言う。
「……シノシノも?」
「……ああ。俺が初めて人を殺したのは16の時だ。その当時、俺はフロンティア船団が進む予定航路の偵察任務に就いていて、あるデブリ帯に近づいた時だった」
神妙な面持ちで語り始めたシノブの姿に、マキナとレイナは作業の手を停めた。
「旧式のバルキリー……VF-17やVF-14を伴った宇宙海賊が一気にデブリの陰から現れて戦闘になった。無我夢中でガンポッドを撃ちまくって、5機を墜として……母艦に戻った。でも、そこからが地獄だったよ。毎晩毎晩、誰とも知らない顔が脳裏に浮かび上がってきて、見つめてくるんだ」
「その中には、俺とさほど歳の変わらない少女もいてさ……体が震えて、吐き気がして……」
「兄貴に相談したんだ。そしたら……お前が奪った命が戻ってくることはない。だが、お前の行為で命を救われる人間がいることを忘れるな、ってな。その言葉が俺の中の何かを変えた。今思えば、それがきっかけだったんだと思う」
「シノシノ……」
「辛気臭くなっちまったな。でも、ハヤテは大丈夫だろうさ。アイツはアイツでけじめをつけようとしてる。いい心がけだよ」
バルキリーパイロットなら誰でも通る道だからな、と付け加えてシノブは、意識をまどろみに落とした。
どうもセメント暮らしです。
新登場の機体は、VF-27でした!!
いずれ、設定メカ集を作るつもりですので、どうぞお待ちくださいませ。
感想や質問待ってます!!