マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.10

 ワルキューレのワクチンライブは突然の闖入者によって混沌へと叩き落された。

 

 響き渡る悲鳴。

 

 逃げ惑う人々。

 

 火を噴きながら墜落していくVF-171。

 

 ヴァール化した新統合軍の編隊から攻撃手段を奪いながら飛行していたシノブは、1機のアンノウンに取りつかれた。

 

「ち……」

 ビーム機銃がシノブの機体に襲い掛かる。が、シノブはそれを難なく躱し、ひらりと敵機の後ろについた。そしてアンノウン機の右翼端のゴーストと機体上部のミサイルパックを破壊する。

 

「外したか……」

 シノブは、上空へと一旦離脱する。その先には、何度も交錯しながら戦闘をするメッサ―と敵のエースがいた。

 

 互いにスモークを噴出させ、ドッグファイトを繰り広げるVF-31FとSv-262Hsの戦いにシノブは躊躇いなく飛び込もうとするが、先程ミサイルポッドとゴーストを失わせた機体が再度、攻撃を仕掛けてきた。

 

「諦めの悪い奴だな」

 もう片方のミサイルパックから発射されるマイクロミサイルの奔流をレーザー機銃で迎撃したシノブは、機体を急制動させ、アンノウンをオーバーシュートさせる。

 

 再び後ろを取ったシノブがレールマシンガンを放つ。その弾丸は、左方に装着されているゴーストを吹き飛ばした。更に、アンノウンのエンジンノズル脇に着弾するが、そちらは、黒煙を噴くだけで、致命的なダメージを与えられていなかった。

 

「硬いな……っ!?」

 突然シノブの目の前からアンノウンが消える。

 

「まさか!!」

 アンノウンの思惑に気づいたシノブは、攻撃を受けまいとファイターの状態のまま後ろに一回転させるクルビットを行った後、機体を反転させ、離脱する。コンマ数秒前までシノブがいた場所には、光弾の嵐が空へと向かって伸びていた。

 

「……あの()()()()()を使ってくるとは……」

 

 離脱していった荒鷲のエンブレムを持つ銀朱のVF-31を見つめながら、Sv-262のコックピットに座るノーラは、必殺の射撃が躱されたことに驚きを隠せなかった。

 

「躱した……!?」

 

『ノーラ中騎、始めるぞ』

 

「了解……」

 騎士団の最年長であるヘルマン・クロースがノーラに合図を出す。ノーラはそれ以上考えることなく次のフェーズへ向けて機体を離脱させた。

 

 

『アラド少佐!! やられた!!』

 ラグナに居るアーネストからの通信がオープン回線でシノブの耳に入ってくる。

 

「アイテールが!?」

 

『いや、陽動作戦だ!!』

 

『君たちが戦っている間に惑星ヴォルドールの首都が敵軍に陥落された!!』

 

「なんだと!?」

 

「敵って……」

 アラドやミラージュが声を上げ、ワルキューレとデルタ小隊の面々がアンノウンの光学ステルスが解除される様子をじっと見ていた。

 

「空中騎士団……」

 シノブは、マキナとレイナの近くにガウォーク形態で着陸し、空を見上げている。

 

 そのシノブの目に、ただ1機だけ、紋章が描かれていない機体が入る。その機体には、紋章の代わりに、雷を吐くドラゴンのエンブレムが輝いていた。

 

 7機のバルキリーが一斉にファイターからバトロイドへと変形し、空には巨大なスクリーンが形成され、洒落た眼鏡をかけたひどく美しい男が口を開く。

 

『ブリージンガル球状星団、並びに、全銀河に告げる。私は、ウィンダミア王国宰相、ロイド・ブレーム』

 ウィンダミア宰相の言葉に、フレイアの目は見開かれ、感覚器官であるルンは黒ずんでしまう。

 

『我がウィンダミア王国は、大いなる風とグラミア・ネーリッヒ・ウィンダミア王の名の下……新統合政府に対し、宣戦を布告する!!』

 

「……いきなりの宣戦布告か……」

 空中に投影された巨大なスクリーンを見ながらシノブが呟く。その声音には、若干の驚きと負の感情が混じっていた。

 

 

 ウィンダミア王国の空中騎士団は宣戦布告の映像を流した後、直ぐに撤退していった。ラグナに戻ったアイテールからエリシオンのブリーフィングルームに集められたワルキューレとデルタ小隊のメンバーはアーネストやアラド、カナメが来るのを待っている。

 

 だが、その中にシノブの姿は無い。

 

「チャック、シノブはどこ行ったんだよ?」

 フレイアやマキナ、レイナが、呑気にスナック菓子をポリポリと食べている姿に苛立ちを覚えていたハヤテは、シノブがどこに行ったのかをチャックに聞いた。

 

「さぁ?」

 

 そのシノブは、ドアの外で原隊の隊長であるオズマと電話をしていた。

 

『ケイオス側から依頼内容の変更があった。〈ワルキューレ〉の護衛に変わりは無しだが、それにウィンダミアとの戦争行為に対する直接戦闘が加えられる。期間は戦争終結までだ』

 

「了解しました。臨時ボーナスの稼ぎ時ですかね?」

 

『それはそうなんだが……死ぬなよ』

 

「解ってます。スカル小隊に空席は出しません。それと……調べてもらいたい奴がいます。っと……それは後で」

 

『ああ、分かった。期待しているぞ』

 アラド達が来たことを悟ったシノブは、オズマに言葉を返すことなく電話を切った。そして、切られた端末を太もものポケットに仕舞いこむ。

 

「入らないのか?」

 

「アラド隊長。依頼内容の変更を聞きました」

 

「そうか……」

 

「S.M.S上層部は、私に対してウィンダミアとの直接戦闘を認可。私もそれを承諾致しました。期間は……戦争終結まで。具体的な内容についてはレディ・Mの方に通達済みかと思われます」

 アラド達3人を見ながらシノブは言った。

 

「……念のために聞くが、裏切りとかは無いよな?」

 

「S.M.Sの評判を潰すような行為はしませんよ。そんなことしたら、俺がディメンション・イーターで消されます」

 シノブは、苦笑いを浮かべながらアラドの質問に答える。

 

「愚問……だったな」

 

「ええ」

 

「隊長、シノブさん、開けますよ」

 やりとりを終えたタイミングを見計らって、カナメが二人に声をかけた。

 

 ウィンダミアの概要と空中騎士団が使用する機体、その中のエースである〈白騎士〉等の説明が終わった後に、シノブは、マキナとレイナに連れられてベータ小隊隊長であるハルの家に向かっていた。

 

「強いよな……フレイアちゃんはさ」

 マキナとレイナの後ろを歩きながらシノブが呟く。

 

「故郷の星が銀河全域に宣戦布告するなんて……普通ならあり得ないよね」

 マキナの言葉に合わせてレイナがうんうんと頷いた。

 

「新統合政府に宣戦布告するってことは、俺達S.M.Sも黙って見てないんだけど……」

 携帯端末にS.M.S社員しか閲覧する事の出来ない、保有する全戦力のデータを表示しながら言うシノブは、保有バルキリーの一覧に幻の機体があることに気が付いた。

 

「……YF-29!?」  

 YF-29 デュランダル――2059年のバジュラ戦役終結直前にロールアウトされた4発の反応エンジンを持ち、VF-9 カットラスやVF-19 エクスカリバーと同様の前進翼を持つ機体である。

 

 4つの高純度フォールドクォーツ〈賢者の石〉から発生する無尽蔵のエネルギーによって熱核反応エンジンの性能を限界以上に引き出しエネルギー転換装甲のフル稼働を実現した『超可変戦闘機』として、シェリル・ノームとランカ・リーの歌声をバジュラ達に届け、戦役終結に貢献した。

 

「……確かアルトが乗っていたデュランダルは回収されたはずだが……まさかな……」

 早乙女アルトが搭乗していたYF-29は戦役終結の2か月後にS.M.Sと新統合軍主導の元で回収された。今、その機体は惑星フロンティアのL.A.I社で保管されており、S.M.Sが所有しているモノではない。

 

「着いたよ~?」

 

「あ……ああ」

 手元の端末を覗き込んできたマキナに言葉を返したシノブはホログラムデータを消し、体を玄関へと向けた。

 

 レイナがインターフォンを押すと、エプロンを付けたハルが出迎える。マキナとレイナは自分の家の如く入っていくが、シノブは一旦立ち止まった。

 

「どうかした?」

 

「……いや、懐かしい匂いがしてさ」

 デニム生地のハイカットスニーカーを脱いだシノブは、ハルと共にリビングへと進む。そのリビングでは、マキナとレイナが絨毯に寝ころび寛いでいた。

 

「毎回こうなのか?」

 

「ええ。ほら、二人共、準備は手伝ってね?」

 ハルの言葉に、はーい、と返事をするマキナは立ち上がると、キッチンへ駆けて行った。レイナは何も答えずにマキナの後を追っていく。

 

「少し待っててね」

 ああ、と答えるシノブの目に、キャビネットの上に置かれた写真とガラスの線香立てが映った。キャビネットに近づき木製の写真立てを手に取る。

 

「……夫婦二人の旅行はどうだった? 兄さん」

 S.M.Sの隊服を着て、優しい顔をしている兄の写真に、シノブは語り掛けた。

 

 出来たよ~、というマキナの声を聴いたシノブは写真立てを元の位置に戻し、ダイニングへと向かうのであった。




どうもセメント暮らしです
ハル・鏡とノーラ・ガブリエルの画像を公開いたします

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