マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.3

 惑星ラグナのどこまでも青い空に、不釣り合いな黒をしたVF-25Xが悠然と飛行していた。

 

 アラドから直接飛行許可を取ったシノブは、空域慣熟飛行という名目で自身の愛機を格納庫から引っ張りだし飛んでいた。

 

 胴体下部に装着されているハワード 58㎜ガンポッドと、主翼基部に搭載されているラミントン社製25㎜高速機関砲には、無人標的機への射撃訓練用にペイント弾が装填されている。

 

「さっさと、この空域に慣れないとな」

 そう言ってシノブは、スロットルをカチッというメカニカルな音がするまで押し込み、メサイアを増速させた。

 

 強烈なGがEX-ギアを通してシノブの体に襲い掛かるが、それをものともせずに機体をシノブの思い描く通りに振り回す。

 

「コブラからのクルビット、ハンマーヘッドからの海面までの急降下……」

 絶え間なく変化する速度域でも安定性を失わずに飛行する事が出来るのは、20度から78度まで任意に翼の角度が変えられる可変後退翼とマイナス45度からプラス90度まで可変する垂直尾翼のおかげであろう。

 

「……ワルキューレがオーディションをしている間に、入隊試験か……」

 機体に乗り込む前に、メッサーから言われた言葉を思い出したシノブは、機体を操りながら撃墜プランを考え始める。

 

「相手は『死神』だ。――生半可な戦術は通用しない」

 

「では、どうする?」

 誰かに語りかけるように話す癖は、マクロス・オリンピア船団が入植した惑星ガイノス3にて、VF-25飛行隊の教導部隊『バニッシャーズ』に在籍していた時に染み付いたものである。

 

「執拗に敵を追いかけミスをさせるのも一考。だが……熱くなりすぎて目標以外の敵機に……ッ!?」

 突如、コックピット内をアラームの音が満たす。シノブはレーダーを一瞥し、ロックオンをしている敵機の位置を確認した。

 

「上か!」

 すぐさま、機体を80度近い角度で急上昇させる。

 

 VF-25の心臓が唸りを上げ、身体がシートに押さえつけられるのに耐えながら、1機の機体とすれ違う。

 

「……のってくれた……」

 VF-31A カイロスのコックピットに座る女性は、すれ違うVF-25を見ながら微笑んだ。

 

 シノブは、交錯したVF-31Aのカラーリングに見覚えがあった。

 

「白一色!? まさか!?」

 オープン回線を開き、機体を振り回しながら言葉を発する。

 

「なんで! 貴女がこんな辺境に!」

 VF-31とVF-25は激しいドッグファイトにもつれ込んだ。

 

 互いに後ろを取り合い、ISCフル稼働一歩直前の機動でそれぞれの銃撃を躱しあう。

 

「君こそ! 左遷でもされたかしら!」

 シノブの機体がVF-31Aをオーバーシュートする。実体弾式のガンポッドが漆黒のメサイアへと向けられるが、ISCを作用させたシノブは、機体を旋回させ、ガウォーク形態で無理やりペイント弾をカイロスへと放った。

 

 両者の機体が、それぞれ赤と青のペイント弾で汚れる。VF-31Aはコックピット周辺が青く染まり、VF-25Xは右の胴体部と垂直尾翼が紅く変色していた。

 

 戦闘機動を終え、水平飛行に戻った2機のバルキリーが上空で並ぶ。

 

 シノブは、オープン回線でVF-31Aのパイロットを呼んだ。

 

「……ハル義姉さん……」

 

「シノブ君……なんで此処に来たの?」

 

「ケイオスから依頼です。デルタ小隊の人員補充という名目で」

 

「ふーん……フロンティアの皆は元気? アルト君とかミハエル君とか」

 

「アルトはガイノス3で教導隊の教官やってますから、全然会ってないです。それと、ミシェルやルカ、オズマ隊長も元気ですよ」

 

『あー、2人とも? 模擬戦の許可を出した覚えは無いんだが……』

 それぞれの無線にアラドの声が流れた。

 

「アラド少佐、新人への歓迎という事で許してもらえません?」

 ハルは、目線をシノブに向けながら言う。

 

 その言葉を聞いてシノブは、今にも吹き出しそうなのを堪えながら、VF-25Xを上方宙返り――ループさせた。

 

『9年もバルキリーに乗ってる奴が新人か?』

 

「此処では新人でしょう?」

 

『……そうだな。それから、シノブ中尉』

 

「なんでしょうか?」

 

『ハル大尉との関係、後で詳しく聞かせてもらうからな?』

 

「……義理の姉という説明じゃ足りませんか?」

 少しの間をおいて、足りんな、という声がアラドから返ってきたが、シノブはそれに答えることなくVF-25Xのエンジンを切り、風の流れに機体を預けていた。

 

 数時間後

 

 ラグナの美しい海が夕日に染まるなか、シノブはチャックに案内され、少しの荷物と共にデルタ小隊の男子寮でもある飲食店船『裸喰娘娘』の前に来ていた。既に店は多くの客で賑わっており、威勢の良い声が外まで響いている。

 

「ここが俺の家であり、我がデルタ小隊男子寮の『裸喰娘娘』だ」

 

「……別に俺は、ハル義姉さんの家でも良かったんだけどな……」

 チャックの説明に耳を傾けながら、シノブが呟く。

 

「そういえば……ハル大尉の弟ってどうゆう事なんだよ!?」

 シノブの言葉にチャックが面食らった顔になった。両肩を掴まれ、ぐっと顔が寄せられたシノブはチャックの顔を見ないように顔を背ける。

 

「義理の弟だ! あの人は俺の兄貴の嫁だった」

 チャックの手を振りほどきながら答える。

 

「嫁……だった?」

 

「S.M.Sフロンティア支部所属ウルフ小隊隊長、ツカサ・鏡大尉――兄貴は……8年前、バジュラ戦役の最中に、中型ボドルザー級要塞の残骸に潜んでいた準女王バジュラ達との戦闘で殺された。乗っていた()()のVF-25Sごと……それも2番機だった義姉の前で」

 

「……じゃあ、シノブのメサイアの――」

 

「弔いの意味を込めて、兄貴のカラーを引き継いだのさ。それくらいしか出来なかった」

 語り終えるとチャックに背を向けた。シノブは紅く照らされている海を眺め、大きく息を吸い、そして吐く。それを何度か繰り返した。

 

「……あぁー!! 腹減った!! なぁ、チャック?」

 振り向いたシノブは、はつらつとした笑みを浮かべながらチャックに聞いた。

 

「なんだ?」

 

「お前の店のおススメは?」

 

「……全部だ!!」

 

「選びきれないなぁ……」

 ボストンバッグ片手に、シノブは再び歩き出し、『裸喰娘娘』へと入っていった。

 

 

 1時間後

 

 チャックお手製のクラゲラーメンを頬張ったシノブは、割り当てられた自室のベッドに腰掛けメッサ―との模擬戦へと向けた準備をしていた。

 

 ベッドには、数冊のノートと自前のタブレット端末が置かれており、その中にはとある男達と纏めた教導隊員専用のノートも交じっている。

 

「どんな動きをするか分かっていないから、具体的な対策は取りずらいな」

 パラパラとノートを捲っていると、ドアがノックされた。

 

「入ってよろしいでしょうか」

 声の主はメッサーであった。

 

「どうぞ」

 乱雑に置かれていたノートを、備え付けの机の上に移動させる。

 

「失礼します」

 ドアが開けられ、191㎝の長身を誇るメッサーが入ってくる。その手にはタブレットが携えられていた。

 

「見てもらいたい映像があります」

 そう言ってメッサーはシノブに、携えていたタブレット端末を手渡した。

 

 画面には、多数のムービーのサムネイルが表示されており、そのどれもが、模擬空戦の映像であることをシノブは瞬時に理解する。

 

「Δ4――ミラージュ少尉の映像なのですが……」

 

「ひよっこだろ? デルタの中でも特に」

 

「やはり、分かりますか」

 

「最初に見た時からな。大体雰囲気で分かる」

 タブレットをメッサーに返したシノブは、自身のタブレットを手繰り寄せ、何かを調べ始めた。

 

「何が悪いんだ?」

 

「応用力が圧倒的に足りず、教科書通りの飛び方になる点です」

 

「……一朝一夕で身に付く能力ではないから、やはり日頃からの努力、としか言えないな。だが、素質はあるんだろ?」

 

「はい」

 頷くメッサーにシノブはとある映像を見せた。

 

「ホントはダメなんだが、この際いいだろう。『バニッシャーズ』在籍時の訓練カリキュラムと週一であった模擬戦の映像だ」

 それと同時にシノブは、一冊のノートをメッサ―に差し出した。

 

「これは?」

 表紙を捲ったメッサ―は、最初に飛び込んできたページの情報量に驚く。一ページ丸々、文字とマーカーのラインで埋め尽くされており、それが最後のページまで続いていた。

 

「スカル小隊から『バニッシャーズ』に移籍した同僚と毎日取り続けたノートだ。多分、その一冊が完全に理解できれば、そいつはもっと強くなれる。使ってみてくれ」

 その後、メッサ―とシノブは夜遅くまで、戦術の談義に花を咲かせていた。

 

 




どうもセメント暮らしです。
激情のワルキューレ 特装限定版Blu-ray&DVDが発売決定になりましたね!!
上映している映画館が近くに無いので、是非とも購入したいな、と
感想や質問待ってます!

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