総務省の検討会でも問題視された羽生結弦ゴシップ「ネガティブな内容でも収入が上がる」ファンは間違っていなかった

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

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総務省の検討会でも問題視される羽生結弦ゴシップ

 総務省のインターネットの問題を話し合う検討会(第5回)で2023年12月25日、「羽生結弦」と名前が挙がった。

 もちろん昨今の羽生結弦に関する一部の行き過ぎた報道と、それに伴う誹謗中傷を目的とした言及、そして書き込みを拡散する一般人の一部を問題視して、である。

 この「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」は総務省により2023年から開催されている。

 2020年の女子プロレスラー、木村花さんに対する誹謗中傷問題はSNSにおける一般人の一部による書き込みが問題視されてきたが、その情報発信源となる「ステークホルダー」(企業、団体、組織)による影響もまた、言及されるようになった。検討会はその名の通り、「デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた今後の対応方針と具体的な方策」を検討するための場である。

 この羽生結弦に関して触れた議事内容は翌2024年1月25日、同検討会の合同開催によるワーキンググループ(第1回)でも配られている。

 その中で、検討会構成員の森亮二弁護士は海外における事例を挙げたのち、「もう一つ御紹介したい」としてこう発言している。

 少し長いが、本稿の大前提となる核心部分なので、略さず記す。

目をおおいたくなるような内容の記事や動画が出てきてしまう状況

 「アテンション・エコノミーはしばしば偽情報の原因であると言われるが、それだけじゃなくて誹謗中傷の原因にもなっているよという徳力さんの記事。「羽生結弦さんの離婚報道で考えるべき、過剰報道と誹謗中傷の『負のスパイラル』」というタイトル。「しかも更に悪いことに、現在のネット広告の仕組みでは、そうした過剰報道の記事がたくさんの人に読まれれば読まれるほど、より広告収入が上がる仕組みになっています」。「こうした便乗ネットメディアの記事や便乗 YouTuber の動画の多くは、過激なタイトルやネガティブな内容のものが多いのが特徴です。メディアの記事にしてもYouTube の動画にしても、基本的にはアクセスが多ければ多いほど広告収入が増える仕組みです。仮にネガティブな記事や動画に対して、ファンが怒って批判してきたとしても、多くのファンが注目してくれて記事のアクセスが増えれば、収入が上がる仕組みなので批判も怖くないわけです。その結果、ファンが軽く検索しただけで、ネットや YouTube 上に、目をおおいたくなるような内容の記事や動画が出てきてしまう状況が生まれてしまうわけです」ということ」

 ここで森弁護士が引用する「徳力さんの記事」とは、ブロガーで「Yahoo!ニュース エキスパート」である徳力基彦氏による『羽生結弦さんの離婚報告で考えるべき、過剰報道と誹謗中傷の「負のスパイラル」』という2023年11月20日の記事のことである。

 ちなみに「アテンション・エコノミー」とは日本語では「関心経済」と呼ぶが、簡単に言えば情報の「質」より「関心」(注目)が経済的に勝るとした概念で、まあ炎上マーケティングや迷惑系ユーチューバー、悪質なインフルエンサーなどが質でなく関心を買うために発信、拡散することなどまさにこれである。言うなれば、ゴシップメディアはその老舗とでも言うべきか。

「羽生結弦さん」の「誹謗中傷の原因」として挙げられた

 読まれれば読まれるほどに、注目を浴びれば浴びるほどに、ネット社会では広告やそれに類する対価が発生する。これはゴシップメディアのネット記事も同様であることは言うまでもない。

 「メディア」という大きな主語を用いれば、もちろん私もそうだし、この徳力氏も加担者となるので「お前が言うな」はもっともな話だが、徳力氏が当のヤフーニュースでこうした記事を書く勇気を私は尊敬するし、私もこれまでもリスク承知で、ときに媒体名指しで反駁文を書いている。

 金より正義云々とかっこいい話にしたいわけではなく、やはりおかしいことはおかしいと声を上げることが物書きの本質と信じるからだ。ドレフュス事件のエミール・ゾラしかり、アルジェリア戦争のジャン=ポール・サルトルしかり。有名無名関係なく、それが物書きなのだと信じている。好き嫌いの問題でなく、矜持の問題だ。

 そして実際問題として、羽生結弦に対するゴシップ記事のほとんどは、メディア側から見ても「おかしい」からだ。そしてそれは、こうして総務省の検討会で「羽生結弦さん」の「誹謗中傷の原因」として挙げられた。やはり傍から見ても「おかしい」のだ。

 これ、大変なことのように思う。

 総務省の検討会は法学や情報学、メディア学の専門家や研究者、そして実務者としての弁護士や関係団体のオブザーバーによって構成されている。世界各国のコロナ禍におけるフェイクニュースやディープフェイクによる政治工作とその大衆化、そしてAIやメタバースの問題を語る専門検討会で「羽生結弦」に対する誹謗中傷も具体例として取り上げられた。

 端緒から声を上げた私たちは、羽生結弦と共にある人々は、決して間違っていなかった。

 権威がどうこうでなく、やはり国の機関が、専門家の集団が取り上げても、それは「おかしい」ものだったということだ。

 これを受けて、クロサカタツヤ慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授はこう述べている。

「質より関心」「中身より注目」「なにより金」

 「例えば、個人の誹謗中傷の一つの大きな要因にもなってしまっているということもあろうかと。つまり産業構造の話だけではなくて、こういう金の回し方、インセンティブの発生のさせ方があるんだということが大きく広がってしまっているということなんだろうということを今日御指摘いただいたんじゃないか」

 これは羽生結弦問題に限らずアテンション・エコノミー全体に対しての意見だが、この「質より関心」「中身より注目」「なにより金」の「やったもの勝ち」が、これまでの老舗ゴシップメディアだけでなく中小ネットメディアや個人メディア、一般人に至るまで拡がっているのではないか、という提言である。

 そしてクロサカ氏は先の森弁護士の意見を踏まえ「我が意を得たりというか、先生(森弁護士)に整理いただいて腹落ちした状態」と発言している。

 そう、実際にゴシップメディアどころか個人すら、そうした「なにより金」「やったもん勝ち」に手を染めている実態がある。私は数年前からそうした個人によるネットバイト、副業としての小遣い稼ぎを取材してきたが、羽生結弦すらそうした小銭稼ぎのための攻撃対象となっている。

 2018年ごろから散見され始めたとされる羽生結弦の誹謗中傷記事募集、オンライン人材マッチングプラットフォームである「クラウドワークス」における事案は、まさにその悪しき端緒であった。

 (続)

※参考資料

「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会(第5回)」

『第5回会合議事概要』総務省,2023年12月25日開催. 

『「『羽生選手』『キモすぎ』で記事書いて」 氾濫するトレ「『羽生選手』『キモすぎ』で記事書いて」 氾濫するトレンドブログ求人、仲介業者も対応強化へンドブログ求人、仲介業者も対応強化へ』J-CASTニュース,2019年4月6日配信.

この記事の著者
日野百草

1972年、千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。国内外における社会問題、社会倫理のノンフィクションを中心に執筆。ロジスティクスや食料安全保障に関するルポルタージュ、コラムも手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。

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