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第2章 《煉獄の森》の魔物たち
第44話 一月が近づいて

「……《飛舞剣》!」


 技能名を口にしながら、剣を技能が教える通りに振るう。

 更に、アトに教えられた要訣も意識しつつ魔力や闘気を動かしていくと……。


 木剣からいくつもの斬撃が放たれ、かなり先にある太い幹を持った樹木の中程を切り裂いた。

 そして……。


 ズズン!という音と共に、樹木は倒れる。


 俺の一撃が確かにそれをやった。

 やり遂げたのだ、俺は。

 それを認識すると……。


「……はぁ、はぁ……」


 へなへなと腰が抜けるような感じがして、身体に力が入らなくなり、その場に膝をついたのだった。

 そんな俺の元に即座に駆け寄ってきて、支えてくれたのは、アトだった。

 こんな森の中で一月近く生活していながら、彼女からは何か、良い香りが漂う。

 一体どうやってそんな状態を維持しているのか。

 俺は多分、汗臭いし獣くさくなっていると思うのだが……。

 何かの技能か?

 いや、そんなはずは……だけど、これは申し訳ないな。


「アト、支えてくれなくてもいいよ。汚れるぞ……汗臭いしな、俺」


 そう言った。

 しかしアトは優しく微笑みながら、


「いいえ、お気になさらず。それに汚れているのは私も同じですから。森でずっとサバイバル生活をしているのです。似たようなものですわ」


「……悪いな」


 これ以上言っても、多分聞かないだろう。

 アトはあの日から、俺に対する態度がかなり変わった。

 以前も俺に従属している姿勢を崩さなかったし、俺たちのためにという態度も何も変わってはいない。

 ただ、俺個人に対する献身というか、そういうのがより深くなった気がするのだ。

 例えば、今のように支えてくれたりとか。

 距離が近くなった気がする。

 俺としてはありがたくも思うが、それ以上にちょっと困るところも出てきている。

 こんな生きるか死ぬかの生活の中で、何を考えているんだと思われるかもしれないが、アトがあまりにも美少女過ぎるためだ。

 今までの人生の中で、これほどに魅力的な同年代の少女に、ここまで近くで慈愛を持って接された経験が、実は俺にはない。

 公爵家にはメイドたちがいたし、その中には普通に近い年齢の少女もいた。

 気安く話すこともあったが、彼女たちはあくまでも使用人と主人との関係を崩すことがなかった。

 手を出したところで問題ない、と看做されていただろうけれど、俺はこれでも公爵家の継嗣だった。

 そういう自制心の部分も見られているだろう、と常に考えていたので、そんなことに至ることはついぞなかった。

 また、令嬢たちもたくさん近づいてくることはあった。

 貴族令嬢たちの仕事といえば、可能な限り条件の良い婚約をもぎ取ってくるとか、家のために様々な家の内情を世間話の体で拾ってくるとか、そういうところにある。

 だからこそ、公爵家の、一応令息であった俺は、彼女たちから見ればいい物件であったし、噂の仕入れ先としても優秀なこと間違いなかった。

 そうなると当然、もうこれでもかというくらい、貴族令嬢たちは群がる。

 これをモテている、と表現する者たちも確かにいて、パーティーなどに出るといわゆる浮名を流している貴公子たちもいることはいた。

 けれど俺はやはり、自衛のためにもそれはすべきではないと考えていたから、如才ない対応だけして、それ以上深く付き合うことはなかった。


 ……友人がいなかったわけじゃないからな?


 ともあれ、まぁ、万事においてそういう感じだったのが俺の公爵家令息時代の生活だったわけで、同年代の美しい女性に対する免疫、というものが実は一切ついていなかった。

 俺はそのことを、アトがいるこの生活の中で、心の底から気づいた。

 女にうつつを抜かしながらやらかす貴族家の友人たちを見ながら、奴らは愚かだとか、自制心のかけらもないなとか、思ってきた。

 けれど……実際にこれほど近づかれて、かつ、可愛らしい顔で微笑まれて、好意を示され続けて、自制できる人間など人間としての感情が欠けているのではないか?

 あの頃の俺は、人というものをよく分かっていなかった……。

 友人たちよ、申し訳なかった。

 お前たちは正しかったんだ。

 僧侶や神官のように澄んだ、遠い目で、そんなことすら考えてしまうくらいには、俺はアトの魅力にやられかけていた。

 

 だが、それでも俺はまだしっかりと自分を保っているのも事実だった。

 そもそも、そんなことにうつつを抜かしている余裕がないからだ。

 もうそろそろ、アトがこの森に来てから一月が経つ。

 これはどういうことかといえば、彼女はここを去り、教会に行かなければならないということだ。

 彼女を信じると決めはしたし、その通りに過ごしてはきたが、彼女が教会に行くことは変更しないことにした。

 なぜかといえば、やはり俺の死亡を伝え、追手が今後かからないようにする、というのは大事だからだ。

 そのあと、アトは教会をうまいこと抜けてくればいい。

 数日でとか、数週間で、とかなると俺の死亡情報について疑われたりするので、一年二年のスパンで考えるべきだ、ということになったが。

 そしてそうだということは、それくらいの期間、アトがいなくても俺たちが十分に生きていける状況を整える必要があった。

 これから、そのための見極めを行うことになっていて……。

 たった今までは、必要な技術が身についたかを見ていたのだ。

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