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第2章 《煉獄の森》の魔物たち
第43話 誓い

 信頼を、か。

 その言葉で理解できることがある。

 アトは分かっていた、と言うことだ。

 俺がアトを味方として扱いつつも、その実、どこかでずっと疑いの目で見つつ、怯えていたということに。

 当たり前といえば当たり前の話だろう。

 アトの頭の回転であれば、彼女の観察力であれば、それくらいのことは簡単に気づく。

 俺がよほどの詐欺師とかだったらまだしも、俺はその辺によくいるような凡人にすぎない。

 たまたまおかしな技能を得たが故にこの森でも生きていられるだけの、運だけでなんとかなっているような人間だ。

 それに比して、アトはその腕っぷしと頭脳と度胸でもって、傭兵としていくつもの戦場を駆け抜け、さらに聖女としても尊敬されるべき成果をたくさん残している。

 そもそもからして、役者が違うのだった。


 けれど、少しばかり笑ってしまうというか、滑稽なのはそんな彼女が俺のような人間に信頼を求めるところだろう。

 なぜ、とか、俺にそんな資格があるのか、とか。

 色々と思うところはある。

 全ては技能や神の手のひらの上で無理やり踊らされた結果にすぎないのではないかとも。

 けれど……。

 アトの瞳を見る。

 そこにあるのは正しく、人間の感情だった。

 どこか狂気的な光ではある。

 俺に対する、極度の感情がそこには浮かんでいる。

 だがそれこそが、人が持っていて当然の感情の輝きで、アトが教会の聖王にしたがっているときはそれがなかったというのなら……。

 俺の存在も、彼女にとって少しはプラスになったのかもしれない。

 それくらいは思っても、もしかしたら許されるのかもしれない。

 そんな気になった。


 もちろん、俺のこの所業が、そもそも許されない類のものなら、どこかから、何かから、罰が下される日が来るのだろう。

 けれど今は……。

 縋ろう。

 そして、求めにしたがって手を握ろう。

 彼女を頼ることと、彼女に頼られることは、想像してみると思いのほか、しっくり来ることだった。

 そのために俺が手渡せるのが信頼だけだというのなら……。


「……分かった、アト。俺はお前を信頼するよ。疑うのを止め、お前を信じて生きよう。それで……満足してくれるか?」


 答え方がこれでいいのかはわからない。

 そもそも、聞き様によってはとてつもなく軽い言葉だろう。

 どこにも裏付けなどない、ただ俺が言っただけの言葉だ。

 契約書も存在しないし、これを強制する権力も何もありはしない。

 あるのは俺とアトの間だけの、裸の感情の取引だけだ。

 あると分かっているのも、多分俺とアトだけだ。

 それでいいのか。

 そういう意味も、知らずこもっていたのかもしれない。


 俺の言葉を聞いたアトの表情が、少しずつ微笑み、そして冷たくも狂気的な笑顔ばかりが浮かんでいたその顔に、ほとんど初めての純粋な笑顔が浮かぶのを俺は見た。

 さらにその大きな瞳は徐々に潤み、大粒の涙が一筋、流れ……。


「そのお言葉だけで、十分です。私は、ノア様よりも先に死に、ノア様の敵全ての前に身を晒すでしょう。それをどうぞ、後ろで見ていてくださいませ……」


 そう言ったのだった。

 ここに、俺とアトは結ばれることになった。

 多分、永遠の契約がなされた。

 そんな感覚が、そこからしばらく漂っていた。

 それは悪くない気分で、水の上に浮かんで暖かな日差しを浴びているような、そんな心に染み入る経験があった。


 ******


 だからと言って、別にアトからの指導というかな。

 それが優しくなるとかそんなことは全くなかった。

 誓いの後、アトは早速と言った様子で俺に色々と提案をしてきた。


「ところで、これからのことですが……」


「切り替え早いな……」


「当然ですわ。今までが真剣でなかったとかそういうことは一切ないのですが、出来そうなことが急に色々と増えましたから」


「出来そうなこと? 技能を借りることか?」


 それ以外にはとりあえず俺に出来そうなことはないので流石の俺でもすぐにピンとくる。

 これにアトは深く頷いて、


「その通りです。それだけ有用な技能を、眠らせておくなど愚の骨頂。使い倒してこその技能ですわ」


「ってことは、アトから技能を借りまくって鍛えていく感じか。アトに追いつけるかな……?」


 言いながら、まぁ無理だろう、とは思った。

 そもそもアトの技能はいずれも高ランクのものばかりというのはもちろんだが、それ以上にレベルも高いのだ。

 俺の技能は借りることはできてもいきなり同じレベルまで上がるとかそんなものではない。

 借りて自分のものにすることはある程度鍛えればできるが、そのあとは自分で鍛えるしかないのだから。

 一応、自分のものにした技能をさらに借り受けることで、魔力量などを増加させた上でなら高威力を出せるということも確認しているが、せいぜいその程度だ。

 即座に最強になれるとか、そういう便利さはない技能なのだった。

 しかしアトは言う。


「確かに私から借りられるだけ借りていただきますが……同じレベルまで上げる必要はありませんわ。もちろん、いつかは私など超えていただかなければ困りますが、まずは、私の全ての技能を自らの技能にしていただく。それを最優先に致しましょう」

読んでいただきありがとうございます!

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