開票が続くアメリカ大統領選挙をめぐり、民主党候補のバイデン氏が「アメリカ政治史上、最大規模の不正投票組織を用意した」と発言したとする動画が広がっている。
しかし、この情報は「ミスリード」だ。動画は、バイデン氏が不正を防ぐために実施している取り組みを紹介した際の発言を一部切り取り、トランプ陣営のYouTubeなどを通じて拡散されたものだ。
日本国内でもTwitterで動画が拡散され、まとめサイトなどが取り上げたことによってより広がった。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
「最大規模の不正投票組織」を用意?
ネット上に拡散しているのは、オバマ大統領元上級顧問のダニエル・ファイファーさんがホストの一人を務めるポッドキャストに、バイデン氏が出演した際の映像の一部を切り出したものだ。
番組終盤、ファイファーさんは、バイデン氏に「まだ投票していない人や投票する人には、どんなメッセージを送りますか?また、すでに投票した人にできることはありますか?」と質問した。
バイデン氏は「トランプ大統領は、有権者に『投票しても自分の票は集計されない』と思わせたり、票の正当性を争う姿勢を見せたりすることで、有権者に投票させないようにしている」とコメント。
さらに、今回の選挙では、新型コロナウイルス対策のために、何百万人もの有権者が期日前や郵便ですでに投票していることに触れ、「多くの人が投票したら、いつか選挙制度が圧倒されてしまうかもしれない」と述べた。
そうした背景から不正が発生する可能性に備えて、陣営では、千人規模の弁護士を集めて、有権者が自分の票が脅かされていると感じた時に相談できる団体を組織していることを紹介し、ぜひ利用してほしいと語った。
バイデン氏が、団体の相談ダイヤルとして紹介した「1-833-DEM-VOTE」という番号は、民主党全国委員会内で「市民参加と有権者保護」を担当する部署のもので、選挙権の剥奪や有権者名簿における不正、投票所でのトラブルなどについて相談できるホットラインだ。
しかし、拡散された動画には、団体の詳細や「不正投票」を主張するトランプ陣営に対抗する意図を説明した部分は含まれておらず、冒頭で「We have put together, I think, the most extensive and inclusive voter fraud organization in the history of American politics(今回、私たちはアメリカ政治史上、最大規模と思われる不正投票組織を組織した)」と述べた部分だけが切り取られた。
実際の発言中でも「voter fraud organization(不正投票組織)」という言葉は述べており、バイデン氏側にも誤解を招く要因があるのは確かだ。しかし、その後の発言や全体の文脈も踏まえれば、不正投票を防ぐための取り組みについて話していることは明らかだ。
この動画について、ファクトチェックをしたワシントンポスト紙は「操作された動画(manipulated video)」と分類し、「長い動画から短い部分を切り出して、実際の出来事や発言とは異なる物語を作り出している」と指摘した。
トランプ陣営が意図的に拡散
元の番組が10月24日にポッドキャストのYouTubeに公開されると、同日には、トランプ氏本人とトランプ氏の選挙キャンペーンの公式YouTubeに「ジョー・バイデンが大規模な不正投票組織を組織したと自慢」などのタイトルで、問題の動画がアップロードされた。
トランプ陣営が運営するこれら2つのチャンネルを合わせて、すでに80万回以上再生されている(11月5日現在)。
トランプ陣営はFacebookページにも動画を投稿したが、Facebook社は「背景の説明不足」がある動画だという警告を表示し、ロイターなどが実施したファクトチェック記事へのリンクを掲示している。
Twitterでは、インターネット発の陰謀論「Qアノン」を支持していることで知られ、今回の大統領選と並行して行われた連邦議会下院議員選挙で当選したマージョリー・グリーン氏が、動画を拡散したことでさらなる広がりを見せた。
しかし11月5日現在、グリーン氏のツイートにもTwitter社による警告が掲示されている。
日本でも「最大規模の不正投票組織」がトレンド入り
日本でもツイッター上で動画が拡散。8000以上リツイートされた10月25日のツイートは、まとめサイト「保守速報」でも掲載され、さらに広がった。
なお、保守速報の記事はすでに削除されている。また、投票がはじまった後にも再び拡散。
フォロワーが20万人以上の作家の「法廷ではこの映像も話題を呼ぶだろう」などとするツイートが8000リツイートされるなど拡散し、これは同日のまとめサイト「アノニマスポスト」に引用された。
動画は広く拡散され、11月5日午後には「最大規模の不正投票組織」というフレーズが日本のトレンドに入った。
なお、バイデン陣営の広報官はニューヨークタイムズ紙に対して、元の発言は「不正投票を防ぐための取り組みについて語ったものだ」と明確にした。
トランプ政権下で「フェイクニュース」の広がりが問題視される中、今回の大統領選挙でも多くの根拠が不明、あるいは間違った情報が拡散されている。
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