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第2章 《煉獄の森》の魔物たち
第23話 収穫、焚き火

 夜の闇の中、深い森をぼんやりと照らすように、小さな赤い炎がパチパチと燃えている。

 炎の周りには木の枝で作られた串に刺さっている肉が、じゅわり、とその身に宿る油を汗のように吹きながら、香ばしい匂いを周囲に撒き散らしていた。

 勇猛果敢な冒険者たちすら滅多に立ち入ることのない危険地帯《煉獄の森》で、こんな風に肉の焼けるいい匂いを広げて大丈夫か、という気もしたが、コボルトソルジャーの二人に聞くと、肉の焼ける匂いは頻繁にそこらからするから平気だ、と来た。

 なんでこんな森でそんな匂いがするのか。

 人間でもいるのだろうか。

 一瞬そう思ったが、


「わふ(火を吐いたりする魔物もたくさんいますからな)」


「わふわふ、わふ(飛竜の奴らなんか、空から洞窟にいる生き物を蒸し焼きにしたりするのが好きですしね。洞窟は危ないです)」


 二匹からそう返ってくる。

 

「……もしかしなくても、俺たち相当危険な場所で生活してたみたいだな、キャス……」


「にゃ」


 お互い顔を見合わせてため息をついた。

 ちなみに、火を吐いたりする魔物には、よく考えてみるとキャスも入るな。

 実際、ゴキブリ焼いてたし、それ以外の肉だって俺と出会う前は焼いてただろうし。

 肉が好きだということは、オークの肉を彼女もまたむしゃむしゃ食べていることから分かる。

 オークの肉はうまいんだよな……。

 オラクルム王国でも結構流通している魔物の肉の一つだが、通常の家畜のそれと比べると貴重であるのは言うまでもない。

 したがって値段も相応に高く、庶民が毎日食えるようなものではなかった。

 それでも、たまの贅沢にと口に出来る程度の価格であって、庶民の間では祝いの席で食べる食材としても有名なものだ。

 もちろん、魔物の肉にはさらに高級なものが色々ある。

 オークの肉だって、通常のオークのものだけでなく、その上位種のものの方がうまい傾向にある。

 絶対にそうだとは言えないのは、毒を帯びた進化を遂げたものなんかもいるからだが。

 ただ人間の欲望というのは尽きないもので、毒を含むオークすらも、なんらかの方法で加工して珍味に加工したりしている地域もよくある。

 俺は食べたことはないけどな。

 というか怖くてそれは流石に食べられない。

 毒の恐怖は、何度も暗殺されかかったことからもよく分かっている。

 俺なんか暗殺したところで、と俺は思ってしまうが、それは今の立場だからそう言えることで、以前は公爵家の跡取りとみなされていたのだ。

 俺を殺すことで得をする者たちはたくさんいる。

 そういう奴らはきっと、俺がこんな風に追放されていい笑顔を浮かべているんだろうなと思うと若干腹が立つ……。

 まぁ、言っても仕方がないことだが。


「マタザ、それにリベル。コボルトの子供たちはちゃんと食べてるか?」


 俺が、コボルトソルジャーの二匹にそう尋ねた。

 ちなみにマタザ、それにリベルというのは彼らにつけた名前だ。

 魔物というのは特殊な個体以外、名前がついていないことが普通だが、流石にこうして意思疎通まで出来るようになった相手に名前がないとこちらもやりにくい。

 だから二匹に名前をつけたのだ。

 古風な話し方をし、俺のことを《殿》と呼ぶ方が、マタザである。

 東方由来の名前で、本で見たことがあるものだ。

 マタザは大層気に入ってくれているようだった。

 そして騎士のような雰囲気を持ち、俺のことを《主》と呼ぶ方がリベルである。

 これはオラクルム王国に伝わる、古い時代の英雄の名前からとった。

 その話をリベルにすると非常に喜んでくれて、やはり名前も気に入ってくれたようだった。

 この二匹が名前をだいぶ喜んだからか、他のコボルトたちも物欲しそうな目で俺のことを見つめ始めたので、そこからは仕方なく、全員に名前をつけることにした。

 一人一人、ちゃんと真面目に考えたのでだいぶ時間はかかってしまったが……しかも覚え切れる気がしないんだよな、とも思ったりしたが、俺がつけた名前は全て《カード》の情報として反映されていたから、何も問題ない。

 非常にありがたい話だが……やっぱり誰かが、俺のことを、というかこの世界の全てを、見ているのかな、と感じさせるものだった。

 まぁ、誰も見ていない、よりはいいのかな。

 たった一人、というわけではもちろんない。

 今では俺にはキャスやコボルトたちがいるから。

 それでも、人間が周囲に誰もいないことは少し寂しい、と思わないでもなかった。

 群れから離れた悲しみというのはこういうことを言うのかもしれないな。

 王都や公爵領にいた時は、家にいることが大半で多くの人と接したりすることはそれほどなかったが、それでも俺は群れの中にいるとどこかで認識してたのかもしれない。

 それが追放によって完全に群れから追い出された、そう感じているから……本能的な寂しさを感じてしまうのかも。

 そんなことを思った。


 そんな俺に、


「にゃ? にゃにゃ」


 キャスがペシペシと叩いて、それから俺の膝の上に寝転んだ。

 撫でろ、と言うことか。

 こしこしと腹をさすってやると、気持ちよさそうにデロリと体を伸ばす。

 彼女なりに、俺を慰めようとしてくれたのかもしれなかった。

 コボルトたちも近づいてきて、肉をくれようとする。

 リベルとマタザも、


「わふ(主、どこかお具合でも……?)」


「わふわふ(なっ、どこか悪いなら言ってくだされ、殿!)」


 そんなことを言ってくるので、俺はなんだか悩んでいるのが馬鹿らしくなって、苦笑して言う。


「いや、気にするな。ただなんとなく、昔のことを思い出しただけだよ」


 そして、昔の知り合いたちは、それに王国は、俺のことなどもう忘れているだろう。

 こんな森に捨てられた貴族の末路など、決まっているからな。

 死んだものとして扱われている可能性が高い。

 これは寂しい話であると同時に、助かる話でもあった。

 だからそうあってくれて欲しいと半ば思っていたのだが……。

 

 実際にはそうでなかった、と言うことを俺はこの後知ることになる。


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