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第1章 追放と状況確認
第1話 追放

「……ノア・オリピアージュ! お前をこの家から追放する!」


 そう俺に向かって叫んだのは、このオラクルム王国の公爵、俺の父であるセト・オリピアージュだった。

 俺は彼の子供……オリピアージュ公爵家の長子であり、通常であれば将来はこの家を継ぐことになる……そのはずだったのだ。

 それなのに、父はそんな俺に家からの追放を宣告した。

 これは客観的に見て、大分酷い話で、オラクルム王国において貴族が家から追放されてしまえば、生きる方法などほとんどないと言って良い。

 この国において、貴族の家は神々から強力な加護……恩恵と呼ばれるものを受け取ることが多いのでかなり強く尊敬されているため、そこから追い出されると言うことは神の加護のない者、貴い者ではないと見做されるからだ。

 聞くところによれば、追放された直後、袋だたきにされて死んでしまう元貴族すらいるという……まぁ、これは普段から領民によほど嫌われているとか、他に理由がある場合も少なくはないが。

 ともあれ、そこまでされずとも、働く方法とか食料を得るやり方というのがほとんどなく、生きていくことが厳しいのだ。

 それがゆえに、貴族家からの追放などほとんどないのだが……それでも父は俺に言ったのだ。

 これがどういうことか、分かろうというものである。


「ち、父上……そんなことをされれば、私は死んでしまいます! どうぞ、もう一度ご再考を……俺にチャンスを! 一体俺が何をしたというのですか!?」


 俺はどうにか、自分の命を守るべく必死、という様子で縋ってみる。

 可能性がほとんど僅かであろうとも、いや、僅かすらもないのだとしても、そうしなければ生きては行けないことが分かっている。

 他にやりようなどないのだ。

 そんな風に。

 しかし父は言う。


「……確かにお前には期待していた。小さな頃から学問に長け、優秀であったのは間違いない……」


「で、でしたらっ……」


「だが、お前も分かっているだろう。この国において、アストラル教会より背教者の名を向けられたお前を、我が家に置いておくわけにはいかないということを」


「……それは……」


 まさにそれは父の言う通りだった。

 俺はついこの間、この国の国教、アストラル教会から《背教者》として認定されてしまったのだ。

 もちろん、俺は特になにもしていない。

 アストラル教会はオラクルム王国の建国時から存在し、王権を支える組織だが、同時に恐ろしい存在で、背教者に対しては一切の容赦をしない攻撃的な集団としても知られている。

 抱えている武力、たとえば聖騎士団などは、それが通った後はぺんぺん草も生えないとまで言われるほどで、そんな存在たちを差し向けられれば、いかにこの国の屋台骨を支える大貴族であるオリピアージュ公爵家といえども、無事ではいられないだろう。

 そんな危険を招くことがほぼ確実である根本的な原因である俺を、継嗣にすることはもちろん、このまま家に置いておくことなど出来るはずもない。

 そんなことは俺も分かっている。

 分かっているが……だが、だからといって俺に父に縋る以外、他にやりようなどないことも間違いなかった。

 俺は小さな頃から、公爵になるために様々な事を学んできた。

 それらはきっと市井に出ようとも役立つ知識だろう。

 しかし、俺は高い教育は受けてきても、あくまでも凡庸な人間だ。

 父は優秀だったと言ってくれたが、成績はおしなべて並程度だった。

 俺が世紀の力を持った英雄とかなら、この家を追い出されても、教会から追い立てられてもなんとかやれるのかもしれない。

 けれどそんな力など一切ないことは俺こそがよく知っているのだ。

 だからすがりついてでもここに留まりたい。

 そして父に、どうにか教会を説得して、最悪、飼い殺しでも良いからここに置いて欲しい 。

 そんな情けない思いを表してみたのだが、それすらも父は許す気はないことは彼の様子を見れば誰にでも理解できることだろう。

 ただ……。


「……私とて、本意ではないのだ。だが、ノア。考えてくれ。私のことはいい。だが、お前の母リーンや、弟のゼルドのことを……。教会から一族ごと、背教者と一緒くたにされて追い立てられて、守ることは私にも出来ん……。冷酷なようだが、お前一人を放逐すれば良いのなら……」


「……父上……いえ、申し訳ないです。俺が……我が儘でした……」


 元々、半ば以上分かってはいた。

 はっきりと口にされるまで、少しだけ駄々をこねてみただけだ。

 加えて、これは必要な罵り合いでもある。


 父はこれで悪い人間ではない。

 むしろ俺にだって優しかった。

 母や弟も同じだ。

 それなのにこの場に母と弟がいないのは、いれば確実に俺の側に回るからだ。

 それを父はよく分かっている。

 だから部屋にでも閉じ込めているのだろう。

 俺もあえてそこには触れなかった。

 触れるのは……なんというか、フェアじゃないからだ。

 あの二人に頼まれれば、それこそ家を断絶する覚悟をしてでも国と対立する道を父は選ぶかも知れない。

 それを、俺も、そして父も分かっているから……。


 つまりこの話し合いは、半ば結末が決まっていた儀式だったとも言える。


 侍従や侍女たちが見ていて、彼らの目に愚かな息子が駄々をこねているところを良く見せるためのもの。


 だから完全に愚かな息子はこの家とは関係ないのだと彼女たちの口から喧伝して貰うために。


 そこに父の優しさや、最後に俺が少しでも殊勝な様子を見せたとなれば美談にもなり、人にも受け入れやすいだろうと。


 そんな一通りの演技……を終えたところで、父は俺にもう一度宣告した。


 その声は疲れ果てていて、しかしはっきりと部屋の人間全員の耳に届くような強いものだった。


「ノア・オリピアージュ……いや、お前はたった今から、ただのノアだ。家の外には……いきりたった領民たちがいるゆえ、当主の慈悲として、危険のないところまでお前を送る……それでお前と会うのは最後だ。あとはどこへなりとも行くが良い。教会にもそう伝えておく」


 つまりは、追放して行方は知らない。

 家としては無関係だと教会に言い張ってくれるつもりということだ。

 それくらいの反抗はせめてしてくれると。

 それだけでも、十分だ。

 教会とはそれほどに恐ろしい。


 だから、俺は頷いて、ただ一言、


「……今までお世話になりました」


 そう言ったのだった。

一ヶ月くらいで完結することを目指して書き始めました。


基本的に毎日更新です。


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