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春のような旅をしなさい。

旅の先生が教えてくれた三つのことがある。電波が飛んでいる先に行きなさい。春のような、そして風のような旅をしなさい。高いところに登って、全体を見なさい。先生の名前は、山口県の周防大島に生まれた宮本常一。岩波文庫の「忘れられた日本人」に収録されている土佐源氏という短い物語は、私のバイブルになった。先生は、行く先々をとにかく歩いた。幼少期、実の父親から「人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ」と言われて育った。

二十代の後半に家を失い、そこから全国各地を旅するようになった。やりたくてはじめたことではなく、仕方がないからはじめたことだったが、旅は自分に合っていた。家を失ったおかげで、出会いに恵まれた。「ある」が恵みなら、同様に「ない」も恵みであることを学んだ。その後、熱海に家を与えられた。旅で出会った方が与えてくれた家だった。私物化するのは変だと思い、誰でも使える家として開放した。今日からまた新しい利用者がいる。家主の私は家を出る。再び、家のない放浪の日々に入るのだ。

家を失う体験や土石流災害に被災して、この世の儚さみたいなものを実感した。形あるものはいつか過ぎ去る。それ以来、コレクションというものをしなくなった。大好きだった本も「俺が持っている間は、俺しか読むことができないんだよな」と思って、人に譲るようになった。本当に良いものは、溜め込むのではなく、どんどん外に出していくのがいいのだなと思った。体は一つしかない。胃袋も一つしかない。甲斐性のない私には、たくさんのものを所有しても生かしきることができない。持っているものを生かしきれていないという感覚は、罪悪感になる。家にいると「待つ」ようになる。旅に出ると、自分から「行く」ようになる。私の場合、引き寄せるより、押し寄せる方が合っていた。

重度の病で入院し、来る日も来る日も寝るかぼけーっとするかしかやることがなく、鬱気味になっていた男性が和歌で回復した話を聞いた。マンネリ化した日々に嫌気がさし、生きることに絶望をしていたのだが、和歌を学び始めた途端、窓から見える外の景色が一変した。目に映るすべてが創作のヒントとなり、世界を見る目が変わった。何気ない人々の仕草や、何気ない日常の風景に、男性は美を探すようになった。やがて、回復不能と言われた男性の病状は回復を遂げ、和歌を始めた二年後に退院した。周囲は「奇跡だ」と驚いた。創造することの喜び、希望の力がもたらすパワーは、計り知れない。誰かに認められるための創造とは違う。生きる喜びを思い出すための創造が、あちらこちらにある。夏には夏の美しさがあり、冬には冬の美しさがある。人にはそれぞれの美しさがある。

これから京都に行く。水仙の花束をたくさん作ったので、ご希望される方に配りたいと思う。「おはなちょーだい!」という方はご連絡ください。心ある方が「これも一緒に配ってくれ」と言って、たくさんのはっさくを持って来た。バイク事故の怪我も、気管支炎の症状も、外を出歩ける程度には回復した。歩けることが、動けることがこんなにも幸せなことだとは知らなかった。京都では、六波羅蜜寺と河井寛次郎記念館に行きたいと思う。興味のある方がいたらご一緒しましょう。宮本先生が書かれた「父の十箇条」を読むと、外に出たくなる。たくさんのモノやカネを持っている豊かさもあれば、たくさんの花の名前を知っている豊かさもある。電波を超えた先に、リアルな命の息吹がある。

「父の十箇条」

1・汽車に乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。

2・村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようようなことはほとんどない。

3・金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

4・時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。

5・金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。

6・私はおまえを思うように勉強させてやることはできない。だからおまえには何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。

7・ただし病気になったり、自分で解決のつかないことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。

8・これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。

9・自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。

10・人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。

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おおまかな予定

2月4日(日)京都府京都市界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)

連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com

SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z

バッチ来い人類!うおおおおお〜!

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