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デジタル格差、震災で再び脚光

アプリ・機器の選択、明暗分ける

編集委員 小柳建彦

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東日本大震災を機に、新たなデジタルデバイドに脚光が当たりそうだ。いろいろな機器やアプリでインターネット上の様々なサービスを使えるかどうか――。パソコンを通じたネット活用の可否という一般的な意味でのデジタルデバイドも被災した中高年層を中心に改めて問題になっているが、クラウド時代、ポスト・パソコン時代に特有のアプリやサービスを活用できるかどうかという、別のデバイドもあぶり出された。

震災後数日たってもテレビでしばしば映し出されたのが、離ればなれに暮らす家族や親類、友人と安否の連絡を取り合えなくて途方に暮れる被災者の姿だ。もちろん、電気が通らず、固定電話の線も携帯電話の電波も届いていない避難所は、放送画面やラジオ、張り出しや伝言板、さらには人を別の場所に派遣することくらいしか情報交換の道はない。しかし、より大規模な避難所の大部分には数日後には携帯電話の電波が届き始め、ネットにつながったパソコンもワークし始めていたはずだ。

ここで情報格差を生んだのが、ネット上に情報を集め、それを利用者が共有するクラウド型のサービスを使えるかどうかという点だった。各携帯事業者が提供する携帯メールやショートメール、SMS(ショートメッセージサービス)などのサービスは震災直後から極めて利用が難しい状況に陥った。このため直接の被災地以外の場所ではネット電話サービスのスカイプで連絡を取り合った人も多かった。だが最も利用急増の影響を受けずに機能していたのは、ネット上のサーバーに情報を保管しておき、かつ接続時間がなるべく短くて済むサービスだった。

最も代表的な例がミクシィや米フェイスブックといったSNS(交流サイト)だ。SNSは基本的にサービスを提供する側のサイト上に、個人が書き込みなどのデータを蓄積して他人と共用する仕組みだ。利用する道具はパソコンでもケータイでも、スマートフォンでもよい。何かネットに通じるものがありさえすれば使える。

そもそもミクシィが日本で急速に普及した理由の1つが、早くからいわゆる「ガラケー」(従来型携帯電話機)で十分使えるようにしたことだった。フェイスブックも2010年夏からガラケーで使えるサービスを開始した。一方、役所や避難所のパソコンが少しでも使えれば、そこからそれぞれのサービスにアクセスして、自分の情報を書き込め、友達や家族の情報が見られる。各サービスとも、今回の震災に関連した情報ページを開設しており、そちらも活用できる。

これらSNSの延長線上にツイッターがある。これもガラケー用公式アプリがあり、パソコンやスマートフォンがなくても利用可能だ。ただ、ツイッターはものすごい勢いで新しい情報が流れてくる、いわゆる揮発性が高いメディアだ。特にたくさんの人を「フォロー」していると、入手可能なはずの情報を見逃すリスクが高い。それでも、情報更新のリアルタイム性では、震災ぼっ発直後も一貫して高水準を保っていた。我々日経電子版も、ツイッターを情報発信経路の重要な柱と位置づけて、ニュースやお知らせを積極的にツイートした。

フェイスブックやミクシィ、ツイッターは今や多くの人が多くの人を「ともだち」や「フォロワー」にしているため、家族などごく少数のグループ間でリアルタイムに近い速さで情報を共有するには難がある。そこで今回、特に首都圏で帰宅難民になった人々から高い評価を得ていたのが、少数の任意のグループ内でチャットを共有するサービスだった。

代表例は米国ベンチャーが提供する「ベルーガ」と国内ベンチャーのカヤック(神奈川県鎌倉市)が提供する「ナカマップ」だった。

2つとも個々人のチャットと居場所情報を、任意のグループ内で携帯端末を使って共有できる仕組み。ナカマップはガラケー用のアプリもある。携帯用や無線LAN用のデータ回線でやりとりされるチャットは、ほぼリアルタイムで伝わり、プッシュ告知できる。つまりネット接続回線さえあれば、音声電話が通じなくても情報をリアルタイムで伝えられる。チャットの場合、メールに比べて通信確立の手続きが簡素でほんの一瞬の接続があればメッセージが伝わるので、携帯メールよりもはるかにリアルタイムで伝わる確率が高い。震災当日、筆者もそれを実感できた。

あの日、携帯メールは携帯電話事業者のメールサーバーがアクセス集中で反応が鈍かったほか、プッシュ機能がいつのまにか停止されていて連絡がつくのにかなり時間がかかった。またメールをグループで使う場合、複数人のアドレスをもれなく入力するのに手間がかかる。そのうえ誰かが「全員に返信」と単なる「返信」を間違えたりすると、そこで情報共有が止まってしまう落とし穴もある。

震災当日の夜、家族間で連絡を試みたという、都内で飲食店経営のグレイス(港区)を経営する中村仁さんは、「SMSも音声通話もまったく使えませんでした。いろいろ試した結果、家族や会社など特定少数のグループで素早く情報共有するにはベルーガが最も便利でした」と振り返る。ベルーガはグループメンバーの位置情報を全地球測位システム(GPS)を使って全員で共有できる。このため、学校にいる間に災害がおきても、子供の居場所が確認できる。同時にグループ全員に向けたチャットもリアルタイムでつながった。スマートフォンに最適化されたサービスだが、ガラケーでも使えなくない。開発した米ベルーガ(カリフォルニア州)はこの3月1日、フェイスブックに買収されたと発表。今はフェイスブック上のアプリとしても使える。

ナカマップの位置情報はGPSと携帯基地局から割り出す方式を併用している。11日夜に徒歩で何時間もかけて帰宅を試みた横浜市在住の会社員は、「ナカマップで会社の仲間や家族と情報共有できた。私の場合、これだけが頼りになった」と振り返る。カヤックは震災後、ナカマップの1グループの人数上限を200人に増やし、会社の部署など比較的大きなグループでの活用も可能にした。一方、「ナカマップは電力消費量が多く災害時に向かない」(中村氏)という指摘もある。使用端末が常時位置情報を取りにいっているためだとみられ、改善が可能だ。

ベルーガもナカマップも、メッセージはサーバー上に置いて、グループで共有する仕組み。ベルーガは半永久的に保管メッセージを閲覧できる。一方、ナカマップは過去30本のメッセージを表示する方式にしている。ともにリアルタイム性と同時に時間差のあるコミュニケーションも可能にしているといえる。

これらの新種のサービスの普及が進めば、市民のコミュニケーション手段は格段に多様化する。そうすれば携帯電話網が利用急増でマヒするという事態も減るだろう。日本の政府やIT企業は、基本的なデジタルデバイドの解消に対する努力不足を痛感したはずだ。今後は基本的なデジタルデバイドと新時代のデバイドの両方の解消に向け、取り組みを期待したい。

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