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第16章 港湾都市
第569話 港湾都市と追跡者

「……よぉ。よく分かったな」


 現れた冒険者達のうちの一人がそう俺に言ってくる。

 ……全部で三人か。

 多いのか少ないのか……。

 

「そりゃあ、あんだけあからさまに追跡されたら、な。俺に何か用か? 今日この街についたばかりで、恨まれるようなことをした覚えはないんだがな」


 これからしないとも限らないが、今のところは無い。

 なんだか追いかけてきたらしいが、無理に喧嘩しようとも思っていない。

 可能なら話し合いでどうにかしたい……と思ったのだが、向こうとそんな俺とはあんまり意見が合わないようだ。


「……別に。ただ大通りで気前よく金払ってるの見かけたからな。獣人に金貨三枚も払えるんだ。俺たちに少しばかり都合してくれねぇかと思ってよ」


 そんなことを言ってくる。

 困ったものだが、その台詞のお陰で彼らの目的は分かった。

 つまりは金か。

 確かに山羊人の獣人の露店で同額払っているが、よく見ていたものだ。

 

「なんだ、お前達も何か薬草でも売ってくれるのか? だったら考えないでもないが」


 勿論、そんな訳はないのは分かっているが、出来る限り穏便に、だ。

 まぁ、ここでこんな受け答えをするのは……。


「はぁ? 本気で言ってやがるのか、お前……! いいから金を出せって言ってんだよ!」


 男達は腰のものに手を伸ばして、こちらに近づいて来る。

 まぁこうなるだろうな、と思っての若干の悪ふざけだったので自業自得だ。

 

「……本気でやるのか?」


「いつまでも余裕ぶりやがって……お前ら! かかるぞ!」


 そう言って、男は俺に向かってきた。

 見上げたところは手下っぽい二人に先に行かせるわけではなく、この男が一番に向かってきたところだろうか。

 こういう奴らは大半、ボスっぽい奴はふんぞり返って何もせず、手下に手を汚させるものだからな……。

 まぁ、だからといってやることが何か変わるわけでも無い。

 俺も剣を抜いて、地面を蹴る。

 彼らの実力のほどは分かっている。

 大けがをさせるつもりはない……まぁ、しばらく活動できないくらいボコボコにした方がいいのかもしれないが、あんまりやり過ぎるのもな……。

 足に魔力をつぎ込んで、一瞬で先頭の男に肉薄した俺。

 男は俺の骸骨仮面が唐突に目の前に現れたことに驚いたのか、目を見開いてた。

 しかし、男の剣はまだ、振り上げられる途中だ。

 

「……流石に遅過ぎるかな」


 俺が剣を横薙ぎに振るうと、男の腹部の鎧にぶつかり、吹き飛んでいく。

 男はそのままの勢いで壁に追突し、そして気を失ったらしくずるずると壁を伝って行くように倒れた。

 残るは二人だが……。


「ひっ、ひぃっ!」


「……こんな、なんで……」


 と言った様子で、カタカタと震えながら俺を見ている。

 どうも彼らにとってこの展開は予想外だったようだが、俺からすれば自明だ。

 別に俺が強いというわけでは無く、彼らの実力がさほどでは無いことは、初めから分かっていたからな。

 動きからもそうだし、金貨三枚程度を依頼で稼げないことからも分かる。

 つまり、昔の俺くらいか、それよりも弱いほどだ。

 今の俺に勝てるわけが無い。

 ただ、倒れたボスと同様に見直すところもあり……。


「……なんだ、お前たち、逃げないのか?」

 

 片手剣を威嚇するように上げ、二人を指してみた俺。

 そうされれば次はお前らの番だぞ、と言われていることは子供でも分かるだろうに、男達は逃げない。

 

「ば、馬鹿野郎……仲間をやられて黙ってられるかよ!」


「そ、そうだ……ニーズ、今、助けてやるからな!」


 などと言いながら、視線を俺に向けた。

 ……なんだか俺の方が悪者みたいじゃないか。

 路地裏で、骸骨仮面を被った黒いローブの男に立ち向かう三人の冒険者。

 一人はすでに意識無く、仮面男の足下に転がっている。

 怯えながらも残る二人は仲間を助けるために立ち向かおうとしている……。

 誰かに見られたら勘違いされそうな状況だな。


「……い、行くぞ……う、うわあぁぁぁ!!」


「……食らえこの野郎ぉぉ……!!


 そんなことを叫びつつ、こちらに走り出そうとした二人。

 しかし、現実にはそうなることはなかった。

 次の瞬間、


――ドサリ。


 と二人はその場に崩れ落ちたからだ。

 何故か。

 俺が遠くから魔術でなんとかした……というわけではなく。


「……やっぱりな。なんかおかしいと思ってたんだよ。あんたも俺に何か用か?」


 倒れた二人の背後から、一人の男が現れる。

 暗がりでも見える俺の目に映ったのは人族ではなく……獣人だった。

 漆黒の、しかし手触りの良さそうな滑らかな毛並みに、人族の目とは異なる猫科の虹彩の輝きが目につく。暗がりの中であるだけに余計にその光は目立ったからだ。

 体の大きさはそれほどではなく、身長も人族の平均より少し高いかな、というくらいだ。

 体型はしなやかで、腕力よりも俊敏性に重きを置いた体の鍛え方をしていることが分かる。

 要は、たった今俺に襲いかかってきた冒険者などよりも、遙かに腕が立ちそうだ、ということだ。

 こいつが俺に襲いかかってくるとしたら、あまり手加減は出来そうにない。

 

「……俺にも気づいていたのか?」


「こいつらの他にも気配があることにはな。ただ、あんたの明確な居場所は分からなかったが」


 それくらいに隠密にも長けていた、ということだ。

 ただ、気配だけは感じていた……いや、あえて分かるようにしてくれていた、のかもしれないが。

 

「そうか……あまり意味はなかったようだがな。聞くまでも無いことかも知れないが大丈夫だったか?」

「そう聞くって事は、別にこいつらの仲間だとか、俺を襲いに来たって訳じゃなさそうだな」


 むしろ逆で、気配を出していたのはだからこそ、ということのようだ。

 男は言う。


「あぁ。家に帰る道すがら、こいつらがお前を追跡しているところを見かけてな。不穏な気配だったから一応、様子を見てた」


「助けてくれるつもりだった、ということか」


「余計なお世話だったようだが……」


「いや、助かったよ。最後、こいつら変に怯えてたしな。ああいうやけになった奴ってのは何をするか分からないから、後ろから一撃で気絶させてくれたのはありがたかった」


「ならよかった。ところで……」


「ん?」


「こいつらは、どうする? 官憲に突き出すか?」


 昏倒している奴らを見ながら、男は言った。

 俺は少し考える。

 突き出してもいいのだが……。


「俺は最近ここに来たばかりなんだが、こいつらを突き出したらどういう扱いになる?」


「そうだな……まぁ冒険者のようだから、その資格は剥奪されるだろう。それと、一月前後、牢屋に放り込まれる……くらいだろうな。残念なことに……というとあんたには悪いが、あんたは無傷だ。大した被害はないって見られる可能性が高いな」


 それじゃあ、突き出したところであまり意味が無い。

 冒険者の資格を剥奪されるのは大きいだろうが、それだと収入源がなくなったこいつらはまた同じ事を繰り返しそうだしな……。

 面倒だが、これも縁かも知れない。

 それに、そこまで悪い奴らではなさそう……というとあれだが、まだたたき直し甲斐は残ってそうな奴らだったし……。

 俺は男に言う。


「……とりあえず、こいつらが起きるまで待ってることにするよ」


「何?」


「こいつらが俺に襲いかかってきたのは金が無いから、だからな。最低限の金の稼ぎ方だけ、教えてやろうと思う。じゃないと、次の被害者は俺みたいにあしらえないかもしれないからな……」


 男はそう言った俺に呆れた顔をして、


「……お人好しだな、お前」


「そういうわけでもない。性根が変わらなそうだったら、責任持って迷宮の深部にでも置き去りにしてくるよ。あんまりこの街に長居するつもりもないしな」


「……確かにただのお人好しでもなさそうだ……そうだな。ここで起きるのを待つのも退屈だろう。そういうことならこいつらは俺の家に運べ」


「あんたの? いいのか。変に因縁つけられる可能性もあるんだぞ」


 その結果、家に放火、なんてことをする可能性もある。

 しかし男は、


「そうしたらそれこそ俺がこの手で息の根を止めてやるさ」


「……まぁ、あんたなら出来るだろうが……」


「いいから運べ。俺はこっちの二人を運ぶから、お前は最初に気絶させた奴を頼む」


「……あぁ、分かった。済まないな」


「それはこいつらが言うことだろうな」


 気絶している男二人を肩に担ぎながら、獣人の男はそう言った。

 

「違いない……目覚めたら言わせることにしようか」


「拷問でもする気か?」


「うーん……まぁ怪我をさせても治すことは出来るから、それもいいかもな……」


 そんなことを話しながら、俺も倒れた男を担ぐ。

 それから、獣人の男の先導に従って歩き始めた。


「……おっと、そういえばあんたの名前は? 俺はレント・ファイナ。レントって呼んでくれ」


「……ディエゴだ。ディエゴ・マルガ。ディエゴって呼んでくれ」


「……マルガ? もしかしてマルガの呪物屋って……」


「知っているのか? それは俺の店だな。だが、呪物屋というのは心外だな……うちは雑貨屋だ」

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