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第16章 港湾都市
第565話 港湾都市と正門

 実際、俺はそれほど歩かずに森を抜けることが出来た。 

 そこから少し先に城壁があるのが見えたので、そこまで進んでいく。

 早朝であるから空は晴れていて、辺りは良く見える。

 街道も延びているようで、城壁に近づくにつれてそこを進む人も徐々に増えていく。

 馬車に限らず、徒歩で進む人も多い。

 また、意外……というか、マルトで見られなかった光景として、そこを進む人種の違いがある。

 いわゆる、獣人がかなりいるのだ。

 獣人、とは獣の因子を持った種族のことを総称した名称であり、正確にはもっと細かく分かれているのだが、人族、と一般的に呼ばれている俺たちのような者からすると獣人、と分けてしまった方が分かりやすかったのか、そういう風に括られている。

 細かく分けると、狼人とか、翼人……などといった感じになる。

 特に珍しいものだと竜人というのもいるが、これについては俺も見たことがない。

 他の獣人についてはたまにマルトでも見るが、かなり少ない。

 というのはヤーランという国もそうだが、マルトがど田舎であるからで、いわゆる獣人にとってはあまり住みよいところではないというのがあるだろう。

 まぁ、一番大きいのは単純に田舎だからわざわざ他の地域から転居してくるようなところではないというところだろうが。

 他種族にも色々いるが、獣人は比較的どこにでも住むことが可能で、数も多い方である。

 マルトでだって問題なく住めるはずだが、来ないのはやっぱり……田舎だというわけだ。

 それに比べてここ、ルカリスは都会も都会だからな。

 やはりそれなりに獣人にとっても魅力的なのだろう。

 マルトももっと栄えたら獣人が増えていくのだろうか……。

 そうなってくれたらありがたいのだが。

 何せ彼らは身体的に優れた者が多い。

 彼らが多くいる、ということはその地の冒険者組合ギルドの実力が上がることにもつながる。

 良い冒険者が多くいれば、それだけ街の人間も助かるからな……。

 まぁ、先の話だ。

 とりあえず、ルカリスの中に入らなければ。

 

 ルカリスへの入り口である正門に並ぶ多くの人々に紛れ込む。

 マルトであればこのまま進んでいき、門番である兵士に身分証を示すなどすればそれで問題ない。

 ルカリスもアリアナ自由海洋国という他国とはいえ、大まかな仕組みは変わらない。

 税や手続きなどが異なる部分はあるかもしれないが、そもそも国名に自由と入っているだけあって外国人にもかなり寛容であることで知られている。

 貿易で栄えていることもあり、あまり厳しく取り締まる感じにはならないのだろう。


「……次の者。こちらへ!」


 徐々に列が進んでいき、そう呼ばれたので向かうと、門番の兵士に胡散臭そうな目で見られる。

 何でだろう、と一瞬考え、あぁそうかとすぐに合点する。

 マルトではもう門番も慣れっこになっているが、俺には……。


「……その仮面は外してもらえるのか?」


 そう、これがあった。

 マルトでも最初のときはすったもんだあったっけ。

 リナのお陰で切り抜けることが出来たが、ここではそういうわけにもいかない。

 しかし、今の俺にはしっかりと身分証もあるし、そうそう魔物とばれることもないということは分かっている。

 だから堂々と対応すれば良いのだ……。


「外したいところなんですが、どうもこの仮面、呪われているらしくて。外れないんですよ」


「それは本当か? いや、疑うわけではないのだが……」


 嘘つけ、凄い疑っているだろ、と言いたくなるが、失礼にならないようにそう言ってくれていることは分かるので突っ込みはしない。

 

「証明するのは簡単です。思い切り引っ張ってみて下さい。絶対に外れませんから」


「……外れたらどうする?」


「それはもう、万々歳ですね。私もどうにかこれを外そうと色々とやってみたんですよ。でも全く外れなくて……。力尽く、魔術、聖気……もうキリがないくらいで。挑戦してみて下さい」


 これは全く嘘ではないのですらすらと出てきた台詞だった。

 俺の言葉に兵士は面白いものを感じたらしく、


「ほう、なら挑戦させてもらおうか」


「どうぞどうぞ。あ、誰か私の体を押さえておいてもらえますか?」


「じゃあ、私が」


 別の兵士がそう言って俺の肩に手を回し羽交い締めにする。

 それから、


「では失礼する……ふんっ……ぬぬぬぬぬ!!」


 と言いながら俺の仮面の端をひっつかみ、引っ張るものの、まるで外れる様子はない。

 俺の方はといえば全く痛くないのだが、これ、考えてみると普通の人間がつけてしまった場合は相当な激痛が走るのではないだろうか。

 顔の皮を思い切り引っ張られているのと同じだからな……。

 まぁ、そういう被害者を出すことなく、俺の顔にひっついたのだからよしとするか……全然良くないけど。

 しばらく兵士は続けて、しかし、最終的に……。


「……確かに、全く外れん。嘘ではないな……魔術の気配もないようだ」


「でしょう? 困ったものですよ。そうだ、このルカリスには様々な呪物が流れてくると聞きます。こういったものもどうにか出来る人とかいませんかね?」


「ん? そうだな……マルガの呪物屋であればなんとか出来るかもしれんな。まぁ、行ったら行ったで、出てきたときには新たな呪いを背負う羽目になっているかもしれんから気をつけた方がいいが」


「なるほど……是非行ってみようと思います……って、そうだ。私は入ってもいいんでしょうか?」


「おっと、そうだった。まぁ、仮面が外れんというくらいで特段、怪しげな点もないしな。構わないだろう。身分証も確かに冒険者組合ギルドのもののようだし……ちなみに一応聞いているのだが、滞在の目的は?」


「一つ目は迷宮ですね。それから調薬の材料集めをするつもりです」


「ほう、その見た目で薬師か。人は見た目では分からんものだな」


「まぁ、見習いみたいなものなんですけどね。基本的なものなら師から売っても構わないと言われているので、ご入り用でしたらお声がけ下さい。冒険者組合ギルドに依頼を出してくれれば、いれば受けるので」


「それは悪いな。そのときは頼りにさせてもらおう。では、ルカリスにようこそ。仮面の冒険者兼薬師殿。良い滞在をな」

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