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第15章 山積みな課題
第560話 山積みな課題と促成栽培

「……分かるのですか」


 ロレーヌがインゴの言葉に少し驚いたようにそう呟いた。

 少し、というのは予想していた部分もあるということだ。

 ここまでインゴが話したことから、彼が魔物に対する知識がかなり豊富で、しかもそれが一般的に常識、と呼ばれるものとは異なるものであることは察せられている。

 であれば、今回連れて来たスライムを見て、その特殊性を見抜く可能性も十分に考えらえる。


「もちろんだ……と言いたいところだが、特殊な方法で成長したものの全てを見ただけで分かるわけではない」


 インゴがそうロレーヌに言う。


「では、どうしてこのスライムがそうだと?」


「無理に育っているような感じがするからな……そう、まるで促成栽培されたかのような……。まぁ、魔物の成長が早いことは必ずしも悪いことではないのだが、このスライムはな。これ以上進化させるつもりなのであれば、少し休ませた方がいいだろう」


「そこまで分かるのですか……。しかし、このスライムの成長の何が悪いと? 早く育つのは必ずしも悪いことではないとおっしゃいましたが……」


「魔物に限らないことだが、一般的に動物というのは人間に比べて成長が早いだろう? 人は生まれた直後はまるで独立できていない。移動すら生まれてから一年は経たなければままならない。だが、動物は生まれた直後、数十分、数時間もあれば、自らの足で立ち上がるようになる……。彼らの世界は厳しいからな。せめて移動くらい自分で出来るようでなければすぐに死ぬからだ。特にそれが魔物ともなれば……分かるだろう?」


「早く一匹で戦えるようにならなければすぐに死ぬと……。確かにそうですね。彼らは、他の魔物を倒すことで力を取り込んでいく性質もある。余計に他の魔物を狙いやすい」


 実のところ、魔物は人間や通常の動物よりも、魔物の方を狙いやすいと言われる。

 ただ、人が目の前に現れた時だけ結託し、襲い掛かってくる。

 それ以外のときは、魔物同士で血で血を洗う戦いをしていることも少なくない。

 そしてそれは彼らが他の魔物を倒すことにより、その魔力を吸収することが出来るからだ。

 もちろん例外はあるし、共生している魔物同士などではその限りではないが。

 また迷宮などの特殊な状況だとまた異なったりもするので一概には言えないところではある。

 ただ一般的にそのような傾向があるのは事実だ。

 そしてだからこそ、魔物には早いうちに独り立ちできるだけの能力が必要だと……。

 納得できる話である。

 インゴはロレーヌの話に頷いて続ける。


「その通りだ。だから、成長が早いことは魔物にとって決して悪いことではない。ただ、これも人間でもそうだが、あまりにも早い成長は負担にもなる。ロレーヌほど魔力を持っていれば分かるだろうが、魔力が急激に成長したとき……色々と不具合が出たのではないか?」


「インゴ殿は魔術についても造詣が深いのですね……確かに。私の場合は三歳ほどのときでしたが、それまで一般的な魔術師程度しかなかった魔力が、一年ほどで何倍にも膨れ上がって……体中に激痛が走ったのを覚えています。そのせいか、その一年の記憶は痛みにのたうち回っていたことばかりになってしまいましたが……」


「それはお気の毒にな。ただ、それで理解できるだろう。魔物とて、生き物。その成長にはおのずと自然な形がある。そこから逸脱した成長をした時……それなりの歪みが出て、負担になる。このスライムにも、今、大きな負担がかかっているのだ」


「……ちなみに、このまま同じように成長させ続けたらどうなるんだ?」


 俺がふと気になって尋ねる。

 これは必ずしもスライムのことだけが気になっての台詞ではなかった。

 インゴは少し考えてから、答える。


「いくつか可能性は考えられるが……最もありえそうなのは、成長が頭打ちになることだな。《器》……と私たちは呼んでいるが、魔物には成長の土台となる器があり、それが壊れてしまえば二度と成長しなくなる、と言われている。一般的な従魔師モンスターテイマーが魔物を従えたとき、魔物が存在進化しなくなるのもこれを壊してしまうことが大半だからだ」


「《器》……」


「そう、《器》だ。私が飛竜ワイヴァーンをリンドブルムへと存在進化させられたのは、その《器》を破壊しない従魔テイムの方法を知っているからだ、というわけだな」


「それを私に教えていただけると思っても?」


 ロレーヌが尋ねると、インゴは頷いた。


「そのつもりだ。本来、一朝一夕で出来ることではないのだが……ロレーヌは卓越した魔術師だからな。やり方さえ分かれば、あとは実地でなんとか出来るだろう」


「ということは、魔力を使って行うということですか?」


「私が知っているやり方はそうだ。かなり複雑な魔力操作が必要になってくるから、普通なら年単位の修行が必要になってくる。だが、もとからそれが出来るのならばあとは方法を知るだけだと言うことだな」


 インゴの言葉にロレーヌがほっとしていた。

 俺もだ。

 従魔師モンスターテイマーの技法を教えてもらう、というつもりでいた俺たちであるが、身に着けるには十年の修行が必要だ!とか言われたらどうしようかという不安は当然持っていたからだ。

 もちろん、そのときは諦めるか他の方法を探すかということも考えていたが、やはり当初考えていた通りにことが進められる方が楽でいい。


「良かった……では、ぜひお願いします」


 ロレーヌがそう言ったので、インゴは頷いて答える。


「あぁ、こちらこそ……と、それについてはいいのだが、このスライムの成長について教えてくれないか? どうやって成長させた? 私も促成栽培的に魔物を成長させる方法はいくつか知っているが、それらとは様子が異なる。方法が気になってな……」


「いくつか方法を知っている、というのが私からすると驚愕なのですが……それは置いておきましょうか。このスライムを成長させた方法は……これです」


 ロレーヌはそして、魔法の袋から例の杯を取り出してインゴに見せた。

 

「それは……?」


「杯です」


「それは分かる」


「で、しょうね……と言っても話せば長くなるのですが……」

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