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第15章 山積みな課題
第555話 山積みな課題と郊外の家屋

 俺の義父……インゴ・ファイナは俺の故郷、ハトハラーの村長であると同時に、リンドブルムという強力な魔物を使役することができる従魔師モンスターテイマーだ。

 マルトを強力な吸血鬼シュミニが襲ったとき、ハトハラーからマルトまで、リンドブルムで運んでくれた。

 当然、その後、彼はハトハラーに戻ったわけで、会いに行くためにはハトハラーまで行く必要がある。

 しかし問題がある。

 ハトハラーはかなり遠い。

 真っ当に馬車で向かえば片道一週間はかかるのだ。

 まぁそれでも普段なら問題ないかもしれないが、俺は銀級試験を控える身である。

 その日までもう、一月もなく、したがって二週間も移動だけにかけていられない……。


「だが、それを解決する手段を私たちは持っている、というわけだな」


 ロレーヌが、そう言った。

 手にはぱっと見ではその辺に転がっているようにしか思えない青い石を持っている。

 あれは以前ハトハラーに里帰りしたとき、薬師のガルブと狩人のカピタンからもらった、一種の魔道具である。

 その効果は、恒久的な転移魔法陣を任意の場所に作り出せる、というもの。

 現代においてそのような効果を持つ魔道具を作り出せる者など存在せず、もしもオークションにかけたら天文学的な値段がつきそうな品であるが、だからこそ表に出すわけにいかないものだ。

 それに、俺にしろロレーヌにしろそんなに金を欲しているわけではなく、むしろその魔道具の本来の効果の方が魅力的であるのでこれを使うことにそれほどの躊躇はない。

 ただ、どこに作るか、という点については優柔不断に決めかねてきた。

 いくら使うことに躊躇はない、と言ってもゼロではないからな。

 これを売ればいくらになるのかぁ、みたいなことが使おうとするとふっと頭に浮かぶことを止めることは出来ない。

 しかし今度ばかりに限っては使わざるを得ないだろう。

 それに、これを使っても出口はすでにカピタンによって設定されてしまっていて、自動的にレルムッド帝国に存在する《善王フェルトの地下都市》になる。

 あそこには出口全ては確かめ切れていないが、いくつもの転移魔法陣が存在しており、ハトハラーのみならず王都につながるものも存在する。

 しかしマルトにつながるものはなく、したがってマルトに転移魔法陣を作っておけば、マルトから様々な都市に容易に行くことが出来るようになる。

 これはかなり便利なことであるし、そこまで悩む必要もなくさらっとやってしまっても問題ないとも考えられる。

 それでも多少の躊躇が残るのはやはり、俺がどこまでも貧乏性だからだが……。

 ロレーヌの方は決めたらちゃっちゃとやるタイプだ。


「では、使うぞ」


 と言って、青い石を床に投げる。

 ちなみに、ここは先ほども言ったがロレーヌの持つ、マルト郊外の土地であり、そこに建てられている家屋、その地下だ。 

 家屋それ自体は外から見ると通常の一軒家だったが、地下室が存在しており、中に入ってみるとかなり広くて驚いた。

 ロレーヌが危険な実験を行うために購入した土地と家屋と言うことなのでおかしくはないのだが、よくこんな家がこんなところにあったなと思って、彼女に尋ねてみれば、上物はともかく、地下室の方はやはりロレーヌが注文して拡張したらしい。

 それを聞いてそりゃそうか、と思った。

 こんなところにこれほど丈夫そうで広い地下室が必要な者など滅多にいるわけもなく、ちょうど良く存在しているはずもない。

 ただ、今回はロレーヌがそういう不動産を所有してくれていて非常に助かった。

 なにせ、転移魔法陣の設置場所は難しい。

 街中の方のロレーヌの家にする、という選択肢もまず浮かんだ。

 あそこにも地下室はあるし、簡単に人の眼には触れないので隠匿性という意味では問題なさそうだからだ。

 しかし、もしも転移魔法陣が誤作動を起こして、魔物がマルトの中心部に唐突に出現しても困るだろう。

 転移魔法陣を使うには特別なもの……ハトハラーの人間の血液が必要なわけで、そう簡単に起動するということもないだろうが、ハトハラーの人間を襲った魔物が、その返り血を浴びた状態で転移魔法陣に乗れば起動するという理屈である。

 絶対に起こらないとまでは言えない。

 また転移魔法陣自体についても、なんらかの理由で崩壊して大爆発が起こる、なんてことがないとも言えない。

 記述に失敗した魔法陣なんかが周囲の魔力を暴走させてとんでもない事故を引き起こす、なんていうのは絵本にも出てくるようなありふれた話だ。

 実際にそんな状況に出会したことは流石にないとは言え、やはりこれも有り得ないとは言えない。

 そういう諸々を考えると流石に街のど真ん中に近いロレーヌの家に設置するのは気が引けた。

 しかし郊外のこの場所なら、そういうことが起こってもまぁ、なんとか抑えきることも出来るだろう。

 土地もかなり広く、周囲にはほとんど何もないので被害は小規模で抑えられるだろうし、何なら色々と結界や魔道具を設置することも出来る。

 隠匿性という意味でも最高だろう。

 ここに来るような人間などまずいないし、いたらいたで確実に怪しいと判別できるしな……。

 そんなわけで、この場所に転移魔法陣を設置することを決めた俺たちだった。

 ロレーヌが投げた青い石が、床の石材にぶつかるとパキリ、と音を立てて粉々に割れる。

 ロレーヌはそこまで力を込めて投げた訳ではなかったが、跡形もなく割れたことで普通の石ではないことが分かる。

 直後、青い石が割れた地点を中心にして、もの凄い勢いで床に魔法陣が描かれ始めた。


「何度見ても圧巻だな……しかし、やはり転移魔法の仕組みはこれだけ見ても分からん……」


 ロレーヌが自嘲するように呟いた。

 この魔法陣の描き方を完全に解析できれば現代に転移魔法を蘇らせることも可能らしいが、ただ模様だけ分かっていればいいというわけではなく、描く順番や魔力の込め方から始まって、様々な見えない技術も使われているため、見れば分かるだろう、というわけには行かないのが難しいところだ。

 ロレーヌですら未だに完全な解析には至っていないというのだから、転移魔法が蘇る日は遙か遠いのかもしれない。

 

「さて、完成したようだ。ハトハラーまで挨拶に行こうか、レント」


 転移魔法陣が完成し、ロレーヌがそう言ったので、俺は頷いて、


「あぁ」


 そう答えた。

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