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第15章 山積みな課題
第545話 山積みな課題と土産

「……ただいま、っと……」


「ん? レントか。戻ったか」


 ロレーヌの家の扉を独り言染みた一応の言葉と共に開くと、たまたま玄関近くを歩いていたロレーヌが気づいてそう言った。


「あぁ、いたか。ちょうどいい。ほら、お土産だ」


「土産だと? またぞろ特殊な田舎料理だったりしないだろうな? まぁ、ここのところそれほど抵抗はなくなっているが……」


「いや、そうじゃないぞ」


 俺が魔法の袋からクラスク村近く、骨人の発生源で手に入れた杯を手渡すと、ロレーヌは首を傾げる。


「これは……杯か? プレゼントにくれるにしてはボロいぞ」


「流石に俺だってそこまで見るからに汚れたものをプレゼントに持って来たりはしないからな……」


 俺が肩を落としてそう言うと、ロレーヌも笑って、


「分かっている。冗談だ。だが……なぜこれが土産なのかは分からん」


「それについては今から話そう。長くなるかもしれないから座っての方が良いな」


「そうか。じゃあ荷物を置いてくるといい。茶を入れておこう」


 ◆◇◆◇◆


「……ほう、結構大変だったのだな。元は数匹の骨人退治の依頼だったのに」


 ロレーヌが紅茶をすすりながらそう言った。

 俺が今回の依頼の大まかな概要と、杯を手に入れた経緯を聞いた上での言葉だ。


「俺も予想外だったよ。まぁ、骨人がどこかの発生源から湧いてる、くらいは予想はしていたけど、骨騎士まで出てくるとは思わなかった」


「確かに珍しいな。数十匹の群れが出来あがっているくらいの規模になっていたらあることだろうが、そこまでではないようだし……」


 これは、魔物の群れというのは規模が大きくなればなるほど、強大な魔物が生まれやすくなるという性質のことを言っている。

 たとえばゴブリンなんかは数が多くなればそれを統率する個体である将軍ジェネラルキングと呼ばれる個体が出現したりすることがあるし、どんな魔物でも多かれ少なかれそういう傾向がある。

 魔王、というのはその究極であると言われており、したがって配下の数はとてつもなく多く、一国を滅ぼすような存在であると言われるのは魔王の個体そのものの強さのみならず、その持つ軍勢の強大さにも基づいている。

 ただ、実際に魔王がどのように生まれるかを目撃した者はいない……。

 いや、実際にはどこかにいるのかもしれないが、少なくとも文献などには残ってはいないな。

 ともあれ、魔物とはそういうものであるので、強い個体がいる場所にはそれなりの魔物の集団があるというのが必然だ。

 けれど、今回はそのような状況ではなく、だからこそ珍しい、というわけだ。

 ただ、絶対ありえないというわけでもない。


「発生場所が洞窟の奥の方だったからな。邪気が溜まりやすかった、ということかもしれない。実際、かなりの邪気が感じられたし……」


「地形的にそういうところだったというのはありうるだろうな。迷宮の深層に強力な魔物が出現する理由の一つだとも言われていることだ」


 もちろん、それだけが理由だとは、いわゆる魔物同士が争い強くなっていく《存在進化》も関わっているので一概には言えない。

 魔物のことははっきりとは分かっていないことだらけだ。

 今日の常識は明日の非常識だという感覚が最も強い分野である。

 それだからこそ研究するのが楽しくてロレーヌみたいなのを惹きつけてやまないのだろうが。

 

「何にせよ、邪気は散らしておいたからしばらくは問題ないはずだ。何かありそうなら冒険者組合ギルドが調査団を組んでくれるらしいから、分かることもあるかもしれないな」


「ほう、なら後で情報をくれるように頼んでみるか……。それで、この杯はそんな場所に埋まっていたということだが……もしかして、お前、これが何か今回のことに関係していると思って持ってきたのか?」


 ロレーヌが期待に満ちた目で俺を見てきた。 

 しかし、俺は首を横に振って答える。


「別にそういうわけじゃない。ただ、何か色々と違和感が多かったからな。調べられることは調べておいた方がいいというのは勿論あるが……その程度だな。それに、ああいう場所にあったからには何かのお宝かもしれないじゃないか。いい値段で売れたら良いなと」


「……なんだ。普通の鑑定仕事というわけか。確かにぱっと見ではそこまで怪しいものは感じないな。呪物の類いというわけでもなさそうだ」


「やっぱりただの古いだけの杯か?」


「いや、それはまだ分からん……というか、少なくともただの杯ではないぞ。最低限、魔力を通すことは分かる。そこまでおかしな構成でもない……ように見えるが、細かく調べてみたくなる程度には変わっているところも見受けられる。あまり見たことがない作りだな」


「それで怪しくないのか?」


「こういう魔道具の類いはな……お前も知っているだろうが迷宮産のものだと見たことがない構成のものなどありふれている。多くが無意味な欠陥品だったりすることもざらだ。だからこれもそういうもの……という可能性が高い。だが、調べがいはありそうだ。そういう無意味な作りの中にも他の魔道具を作るときに参考になりそうなところがあったりすることも少なくないのでな」


 つまり、ロレーヌの趣味を満足させられる程度には面白そうな品だと言うことかな。

 

「土産にはなったか?」


「あぁ、十分だ。しばらく暇が潰せそうだな……」


「なら良かった。持ってきた甲斐があったよ」


「こういう土産はありがたい。ところで、今日はこれからは休暇か?」


 ロレーヌが杯をテーブルに置いた後、話を変えてそう尋ねてきたので俺は答える。


「いや、クロープのところを訪ねる予定だよ」


「ん? この間、その剣を受け取りに行ったばかりではないか。まさか壊したのか?」


「流石にこんな短期間で壊したらクロープが泣くだろ……そうじゃなくて、呼び出されたんだよ。何の用かは知らないが、依頼があるらしい」


「ほう、依頼から戻ってきてそうそう、指名依頼とは景気が良いな」


「必ずしもそうとは言えないぞ。ゴブリンの腰布を集めてこいとか言われるかもしれない」


「流石にそれはないんじゃないか……?」


 眉根を顰めるロレーヌだが、あり得ないとは言えない。

 ロレーヌもあれだが、クロープもあれで結構な変わり者である。


「前に似たようなことを頼まれたことがあるからなんとも言えないな……ともかく、行ってみることにするよ」


「あぁ、分かった。戻ってくるまでには私もこいつを調べ終えておこう」


 杯のことだ。


「そんなに早くできるのか?」


「……出来てなかったら、夕食はレント、お前が作ってくれ」


「そういうことか。分かったよ。帰りに材料を買ってくることにしよう」

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