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第15章 山積みな課題
第544話 山積みな課題と伝言

「あぁ、それについてなんだが……骨騎士(スケルトン・ナイト)が現れたんだ」


 俺がそう言うと、シェイラは目を見開く。


「えぇっ! 大丈夫だったんですか!? いえ、こうしてここにいるということは大丈夫だったのでしょうけど……」


 最初に大げさに驚いたが、状況を把握してからシェイラは冷静にそう呟き、俺の顔を見て先を促す。


「まぁ、その通りだ。昔の俺がソロで挑んでそんなものが出たらそれこそ一瞬でやられていたんだろうが、今はな……昔に比べたら俺も大分強くなれたらしい。普通に倒すことが出来たよ」


「本当ですか……?」


 それこそ昔の俺の実力をよく知っているシェイラが疑わしげにそう尋ねたので、俺は魔法の袋から今回の戦利品を取り出して言う。


「ほら、骨騎士の魔石だ。若干、普通のものよりも大きい気がするが……」


 俺が取り出して受付台の上に置いた魔石。

 大きく赤く、低位の魔物のものと比べると質が違うことがよく分かる。

 

「確かに……少し大きめですね。もちろん、魔物の魔石は個体によってまちまちですけど……それにしても見たことがないくらい大きいような。私の経験が足りないだけかもしれないですけど」


「シェイラから見てもそうなのか? 俺は標準的なものをいくつか見たくらいだから、こんなものかなと思っていたよ。しかしそうなると……やっぱりあれは少し強い方だったと考えた方がいいのかもな」

 

 少なくとも、骨騎士として最も低位のものだ、という考えは捨ててもいいかもしれない。

 その程度の相手にあそこまで苦戦したとすれば、本当に銀級試験は危うい。 

 今回は見送るべきだということにもなりかねないのだ。

 これにシェイラは、


「そう、ですね……標準的なものよりは確実に大きいので、少なくとも銀級下位程度はあったと考えていいと思います。もちろん、私は専門の鑑定員ではないので確実ではないのですけど」


「いや、それだけ分かれば十分だよ。ちょっと、自信がなくなりかけていたからな」


「そうなんですか? またどうして」


「かなり強かったんだ、その骨騎士。全力を出し切ってやっと……とまでは言わないけど、油断していたら勝てなかったと思う。村人に案内役になってもらっていたから、緊張感を保って相対できたから無傷でいけたけど、いつものような気楽さでいっていたらと思うと、少し怖いくらいだ」


「レントさんがそこまで思う骨騎士ですか……。ヤーランでは理由は分かりませんが、比較的他の国よりも不死者アンデッド系統は突出した個体が出現しにくいはずなのですけどね……。何かの異変か、他に理由があるのか……よくよく調べておかなければなりませんね。ちょうどルテット草のこともありますし、この際ですからその辺りに専門家達で調査団を組んでも良いかもしれません。いい情報をありがとうございます、レントさん」


「いやいや。そうしてくれると俺も後々の心配をしなくて済んで助かるよ」


 しっかり骨人の発生源を散らしたとはいえ、はっきりとは言えないが違和感のある部分が多かった今回の依頼だ。

 一応、完了したと戻っては来たが、これから先何も起きない自信はそこまで強くはなく、だからこそしっかりした調査は入れて欲しかった。

 そんな俺の考えを察したらしく、シェイラが目を光らせて、


「……ルテット草のことをすんなり話したのはそういうことが理由でしたか? やっぱり油断ならない人ですね……」


 と言ってくる。


「そんなに大層なことでもないさ。誰も損しないだろう?」


「まぁ、そうなんですけどね。うまく動かされた感じがしちゃいますよ」


「まさか、そんなこと俺には出来ないさ」


「レントさんが言うとちょっと怪しいですが……ま、今回は確かに誰も損がないので由としましょう。報告はこれで終了と言うことで大丈夫ですか?」


「ああ。報酬もしっかり受け取ったしな。じゃ、シェイラ、またな」


「ええ、レントさん。また……あっと、忘れるところでした」


 冒険者組合ギルドを後にしようとした直前、シェイラが慌ててそう言った。

 何か用事があったらしい。

 振り返って、


「まだ何かあるのか?」


 と尋ねると、シェイラは言う。


「いえ、冒険者組合からではないのですが、クロープさんから伝言を預かってまして」


「クロープ? 鍛冶師のか?」


「ええ、レントさんが今回の依頼に出られた直後で、ちょうど入れ違いになってしまったのですけど」


「それはクロープに悪いことをしたな。で、何だって?」


「マルトに戻ってきたならクロープさんのところに顔を出して欲しいそうです。何でも冒険者組合ギルドを通しての依頼があるということで……」


「だからシェイラが伝言を預かってたと……しかし何だろうな? 直接俺に言っても良いのに」


 冒険者組合ギルドを通して依頼を受けることが大半の冒険者だが、直接に冒険者に依頼をしたとしてもそれを取り締まる法は存在しない。

 倫理的にも何ら責められることはない。

 だから普通に行われているし、クロープも普段、何か素材を取ってきて欲しい、くらいの依頼であれば俺に直接依頼をする。

 直接依頼をするメリットは依頼主の側から見れば依頼料の低減であり、受注者の側から見ると、反対に報酬の増加であろう。

 クロープが頻繁に俺に依頼をしてくれていたのは、俺が稼げなかったから少しでも報酬を多くもらえるようにと言う人情だった。

 ただ、今はもう、そんな必要はない。

 そして、冒険者組合ギルドを通さなければ冒険者組合ギルドでのランク上昇のためのポイント稼ぎには当然ならない。

 昔の小さな依頼程度では何度受けてもポイントにならないし、俺がそもそも銀級を受けられる程度のポイントをためられるかどうか、ということもあってクロープは直接に依頼する方が俺のためになると考えてそうしていたのもあったのだ。

 しかし今は……もう銀級試験を受けられる資格を得た。

 報酬という面でも、冒険者組合ギルドの手数料などの中抜きがあっても十分にやっていけるようになっている。

 銀級になった後にカウントされるポイント稼ぎという意味でも、冒険者組合を通して依頼をした方がいい。

 クロープはそう考えて依頼をしようとしている、ということだろう。

 けれどそれでも若干の違和感を感じる……。

 なんでだろうな?

 ただの勘だが、そういうのは馬鹿には出来ない。

 ともあれ、俺はシェイラに言う。


「分かった。そういうことなら後で訪ねることにするよ。じゃあ、今度こそ、またな、シェイラ」


「はい」


 そうして、俺は冒険者組合を出た。

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