村に戻り、ことの顛末……もう骨人が出現しなくなったことを伝えると、リブルが予言した通りと言うべきか。
村長が今日の夜は宴会だと言って、今、村にいる者全員を集めてその準備を始めてしまった。
応急処置的に村の重要な部分は修復し終わっているとは言え、まだまだ復興にはほど遠いのにそんなことに人と時間を割いていいのだろうかと一瞬思わないではなかった。
しかし、きっとこれは一種の区切りなのだろう。
骨人に襲われ、村や人にかなりの被害が出て、一時はもう完全に村を放棄しなければならないかもしれないというところまでいったのだ。
そんな中、一縷の望みを捨てずに出来ることを全てやった結果、こうして村に戻ってくることが出来、さらにこれからの魔物の心配もなくなった。
今日から彼らには明るい未来が広がっている。
そのことを全員で改めて確信するために、宴会が必要なのだ。
その気持ちは俺にも分かる。
だから結局はありがたくご相伴に与ることにした。
宴会で出てきた料理は、まだほとんど生活できるような場所が復興していない村にあって、意外なほどに美味しいものがたくさん出てきた。
そのことに驚いていると、リブルが言った。
「こんな僻地ですからね。不便なのは慣れているんです。料理も手の込んだものではなく、狩人料理ですが……素材がいいですから」
「なるほど、今日狩ったばかりってことだな。美味しいわけだ。しかし大丈夫なのか、こんなに色々出して。備蓄に回しておいた方がいいような気がするけどな」
「確かにそうなんですけど……今日くらいはいいでしょう。記念すべき、村が僕たちの手に完全に戻った日なんですから。永遠にここには戻れないと思っていたときと比べれば、明日からの生活なんてなんとでもなります。そう思えるのも、全部レントさんのお陰ですよ……本当になんとお礼を言ったら良いのか」
「だからお礼はもういいんだって」
すでに村長以下村人達全員に何度となく言われている。
これ以上はもらいすぎというものだろう。
大体報酬通りの仕事をしただけだからな。
多少はサービスも入っているが。
「ところで、レントさんは明日帰られるんですよね?」
リブルが話を変えてそう尋ねてきたので俺は頷く。
「ああ、そのつもりだ。予定より少し時間はかかってしまったが、後顧の憂いを断つことが出来た。もう俺がここにいても出来ることはない」
「そうですか? 色々な技能をお持ちなので、出来ることはたくさんあるように思いますよ。大工仕事一つとっても中々様になっていらっしゃいますし」
冒険者になるために身につけた色々な技能は、確かにこういうときも役に立つ。
出来れば手伝っても良いのだが、今回は時間がそれほどない。
「まぁ、次にこの辺りに来たときにまだ人手がいるようなら手伝いにでも来るさ。ただ、これからしばらく忙しいもんだからな。早めにマルトに戻りたいんだよ」
「そうなんですか? 何か次の依頼でも?」
「いや、今度、銀級昇格試験を受ける予定でな。まだ少し先なんだが、基礎を見直す時間をとっておきたくてな……。今回、骨騎士と戦ったが、思いのほか強く感じたし、修行不足を痛感したんだよ」
「私の目から見れば、危なげなく勝利されていたように感じられましたが……」
「そうでもないぞ。ギリギリだった……とまでは言わないが、技量が高いと感じたのは確かだ。あんまり骨騎士とは戦ったことがないからなんとも言えない部分はあるが、あれくらいが平均的な強さだとすると、このままじゃ銀級昇格試験も厳しそうだからな……。骨騎士は、銅級上位から銀級中位程度の実力があれば倒せる魔物だと言われている。それなのに少し怪しかったというのは……不安でな」
まぁ、今回の奴が上限いっぱい……つまりは、銀級中位程度の力を持った骨騎士だったという可能性もある。
それにイレギュラーな個体であればもっと強いと言うこともないとは言えない。
しかし、俺はずっと銅級としてやってきたから、骨騎士くらいまでくると戦った経験が不足している。
だからその辺りのことをはっきりと断定することが難しい。
そしてもしもあれが銅級上位程度から銀級下位程度の実力だったとしたら、今度試験を受けても俺は落ちることだろう。
銀級昇格試験の内容については受けたことがないので分からないが、それでも単純な腕っ節が求められないと言うことはまずありえない。
冒険者であれば、とりあえずそれが第一に必要なものだからだ。
加えて筆記や、銅級昇格試験の時のような嫌らしい試験内容に対応することも要求されてくるとなれば、骨騎士くらいに苦戦しているようでは話にならない。
だからこそ、俺は試験までに色々と見直す必要があると考えていた。
そのうちの一つが基礎だ。
ここのところ、色々な敵と戦う経験に恵まれているが、その反面、基礎をみっちりとさらう時間を中々取ることが出来ていなかったように思う。
身についた力も特殊なものばかりで、使いこなす、というよりかはなんとか使いどころを見つけることに注力してきた。
それはそれで悪いことではなかっただろうが、今概ねの自分に出来ることの全体像を掴めてきた中で、いずれについても使いこなせるようになるための訓練が必要だろうと思った。
たとえば、クロープに作ってもらった剣。
使い方は今回の試し切りで分かった。
しかし適切なタイミングや使いどころ、どれだけの消耗があるか、そういったところを可能な限り精密に把握することが必要だ。
それが出来たら、身につけた剣術のどこに組み込めるか、試行錯誤の上に、よく反復しておく必要もあるだろう。
いざというときにすんなりと使うことが出来るようになるために。
そういったことをすることが、銀級試験までの過ごし方になってくる。
そしてそのためには、できるだけ早くマルトに戻っておきたいのだ。
そんな話をリブルにすると、彼は納得したように頷き、
「……寂しくなりますが、それなら仕方がないですね。私たちも村の復興に向けて全力で頑張ります。レントさんも、銀級昇格試験、頑張って下さい! 応援してますから」
「それはこっちの台詞でもある。銀級になれたらきっとまた来るから、そのときは何かごちそうでもしてくれよ」
「はい!」
そうして、俺の今回の依頼は終了した。
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