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第15章 山積みな課題
第541話 山積みな課題と杯

 当たり前と言えば当たり前だが、聖水の量については気をつける。

 聖水は安いものではないし、ロベリア教のものは余計にそうだからだ。

 まぁ、別に最高品質のものというわけではないし、ニヴ価格で購入しているから一般的なものと比べてもそんなでもないが、あんまり考えなしな使い方をしていると今回の依頼の報酬が吹っ飛ぶ。

 かといってあまりケチケチし過ぎるとせっかくの邪気払いの効果すら発揮できずにまたここで骨人発生、なんて可能性もありうる。

 だから匙加減をしっかりと考えないとな……。

 そしてそのためにはどの辺りがもっとも邪気が濃いかを見極めなければならない。

 まぁ今回は幸い、というべきか、ついていなかったのが逆に良かったと言うべきか、骨人が発生した瞬間を見ることが出来たからな。

 まさに発生したその場所こそが邪気の集約点だと分かるので、そこを重点的に払ってやれば最大限の効果を発揮させることが出来る。

 そういう瞬間を見られなかったときはどうするのかと言えば歩き回ったり観察してどの辺りが集約点かを見極める作業が必要なわけだな。

 ただし、ロレーヌのような魔眼持ちがいれば話は別で、一発でここだと見極めてくれるのでかなり楽になる。

 魔眼持ちは中々いないし、いても使いこなせてない者が大半なのでロレーヌの便利さが際立つな……。

 ともあれ、今はそんなことよりも邪気払いか。

 聖水の瓶の蓋を開け、ちょろちょろとケチくさく聖水を撒いていく。

 すると、徐々に邪気から漂う嫌な感じが消えていくのが分かる。

 これはリブルもほとんど魔力が感じられないとはいえ、分かるらしく……。


「……なんだか、空気が明るくなってきたような気がします……」


 などと言っている。


「今、邪気が消えていっているからな……よし、こんなものでいいだろう。あとは軽く払っていけば……」


 今度は直接撒かず、剣に垂らしてからその剣をぶんぶん振るいつつ、洞窟の中を歩く。

 これで残り香のように漂っている邪気も散らすことが出来る。

 魔物を発生させるほどの濃さではないまでも、放置しておけばまた集約点に集まってしまうからこの作業も必要なのだ。

 ただ聖水を撒いて散らすともったいないのでこういうやり方になる。

 しばらくそういう作業を繰り返すと、辺りはすっかりと清浄な空間になった。

 洞窟特有のジメジメした感じまで消えたような気さえするが、それは流石に気のせいだろう。

 とはいえ……。


「これでもう、ここで骨人が発生することはない……はずだ」


 俺がそう言うと、リブルは安心したらしく、ほっとした表情で、


「本当ですか!?」


「本当だ。まぁ、でもこの洞窟はもしかしたら邪気が溜まりやすいところかもしれないから、年に一度くらいは冒険者をやとって、ここに安物で良いから聖水を撒いてもらったりした方がいいかもしれないな」


「なるほど……村に戻ったら、村長に相談してみます。……あっ!」


 俺の言葉に頷きながらそう言ったリブルだったが、突然、足を捻ってこける。


「おいおい、何をしているんだ……うかれてるのか?」


「いえ、そうじゃないんですが……何かが足に引っかかって……」


「足に? ……なるほど、確かに」


 見てみると、リブルが言ったとおり、彼の足下の地面の土が何か盛り上がっているのが見えた。

 ちょうどそこに引っかかったと言うことだろう。

 気になって掘ってみると、


「……これは……杯、かな?」


「みたいですね……なんでこんなところに?」


 それは鈍い輝きを纏う小さな杯だった。

 あまりいいものには見えない。

 

「ここに以前来た冒険者や戦士なんかの持ち物かな? さっきの骨騎士の元となった者のものかもしれない。ちょうど、この辺から出現したもんな」


「あぁ、なるほど。そういうこともあるんですね……あんまり価値はなさそうですが」


「いや、分からないぞ。磨けば光るかも……とりあえず持って行って、マルトで鑑定でも頼んでみるさ。お宝だったら儲けものだ」


「なんだかそういう発言を聞いているとやっぱりレントさんも冒険者っぽいですね。あんまりお金!って感じじゃない気がしてたので、なんだか新鮮です」


「いやいや……俺だってお金は好きだぞ。特にこういう宝物を見つけたときなんかは嬉しい」


「宝物にはまるで見えないのですけどね……」


 リブルの杯を見る目はただの汚い食器を見る目そのものだ。

 確かにその通りだと思うので、なんとも言えない。

 

「……まぁ、ともかく。これでもうここには用はない。村に帰ろうか」


「そうですね。村の皆にももう、安心だって早く伝えてやらないと。村に戻ればきっと美味しいものくらい出してくれると思いますよ。まだまだ復興できてる感じじゃないですけど、狩りはしっかりしているでしょうし」


「それは楽しみだな……」


 そんなことを話しつつ、俺たちは洞窟を外に向かった。

 しかし……。

 ふと、俺は考える。

 

「……あの骨騎士、妙に強かったな……?」


 骨騎士の強さ、というのはピンキリだ。

 もちろん、最も弱いものでも通常の骨人よりは遙かに強いのが普通だが、それにしても今回の骨騎士は相当なものだったように思う。

 それでも油断せずに戦った結果、勝つことが出来たので良かったが。

 

「レントさん、どうされたんですか?」


 立ち止まった俺に、リブルがそう尋ねたので、俺は慌てて歩き出し、


「……いや、大したことじゃない。さっきの骨騎士に勝てて良かったなと思っただけだ」


 そう言って村へと向かったのだった。


 ◆◇◆◇◆


 レントとリブルが洞窟を出た後、その最奥部に二つの影が現れる。


「……あれだけ色々やったのにこんな結末ってどうなの? 全部水の泡ね」


 片方の影が、皮肉げな声色でそんなことを言った。


「あんな冒険者がこんな時期に来るなど想定外だった。そもそも、外部との接触を可能な限り行わせないよう、村の連中を不自由させるなと私は言ったぞ」


 もう一つの影が苦々しげな声でそう返した。


「だから頑張ってあげたじゃない。行商人のまねごとなんて面倒で仕方なかったけど、言われた仕事はやったわ。悪いのは私じゃないのに責めるのは止めてくれる?」


「……いや、その通りだ。済まなかった」


「そうそう、素直に謝ってくれるならいいのよ。大体、運が悪かっただけでしょう? 戦ってるの見たけど、あんな腕の冒険者がこんなド田舎くんだりまで足を伸ばすことなんてまずないもの。それに、潰れたのがここで良かったんじゃない? あくまでも予備なんだし」


「それでも一番上手くいっていたのがここなんだが……せっかく骨騎士まで進化させることが出来たのに、杯まで失ってしまった……」


「あれって《存在進化》なの? ただの《発生》にしか見えないのだけど」


「何を言うか。あれの元がここで邪気に変化し、集約点で生まれたところはお前も見ているだろう。杯を起点に人工的に促した形だからそう見えるだけで実際のところは……」


「あぁ、難しい話はいいわ。それより、必要なことは出来たと思って良いのかしら?」


「概ねな。最終段階に至る前に終わってしまったが……十分な結果だろう。杯も惜しいが、調べても何も分かるまい。ここも放棄だ。いくぞ」


「はいはい……次は、ウェルフィア?」


「あそこにはいい素体が集まる。研究も更に進むだろう」


「あんたって本当に研究馬鹿ね……まぁ、いいけど。あの方のご指示だし、私は従うだけよ」


「では文句は言うな」


「分かったわよ……」


 そして、二つの影は完全にその場から去った。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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