前編では、米議会のフレイザー委員会(1977~78年)をもとに、旧統一教会が韓国朴正熙政権下でKCIAの庇護を受け、米国政治工作を展開してきたことを述べた。
ここからは委員会の「報告書」の結論と提言部分を中心に、報告書が教会の本質をどう見抜いたか、またその後の米国政治は旧統一教会とどういう付き合い方をしたのかを見ていきたい。
まず報告書はその「要約と提言」で、旧統一教会の「組織的特性」を端的にこう指摘している。
「文鮮明率いる統一教会や関連世俗団体は、基本的に単一の国際組織である。この組織は各部所の相互流動性、すなわち、人事・資産アセットを国際間で動かしたり、営利組織と非営利組織の間で動かすことで成り立っている」(387)ページ
この分析ほど、旧統一教会の本質を射抜くものはない。今、自民党の多くの国会議員が統一教会の名称変更で、同一団体だという認識がなかったと言い訳している。政治家としてその弁明が通用するとはとても思えないが、多くの日本人にとって上記のような旧統一教会組織の特徴が、その実像をつかみきれずにいる理由のひとつになっていることはまちがいないだろう。
ワシントン・ポスト紙が「無数のタコ足のような触手をもつ宗教的・金融的グローバル帝国」と表現したように、旧統一教会は世界平和統一家庭連合、天宙平和連合といった関連団体、友好団体と称するダミー団体を無数に持っている。
この特性を包括的に把握するため、フレイザー委員会報告では、統一教会を含むすべての関連団体を包摂する概念として文鮮明機関(Moon Organization)という言葉を使用している。
その上で、フレイザー報告書はこの機関の活動ぶりをこう記す。
「文鮮明機関は営利事業や世俗組織を設立したり、(法人の)株主支配権を得る試みも行ってきた。また米国では政治活動も行ってきた。これらの活動の中には韓国政府に資するものや米国外交政策に影響を与えるものもあった。
(中略)ディプロマット・ナショナル銀行の株主支配権を得るため、信者の名義を使い買収資金源を隠匿した。(中略)協会などの非課税団体を使って政治的・経済的活動を維持している。(中略)その目的や活動の多くが合法的とはいえ、同機関は組織的に、連邦政府の税法、移民法、銀行法、外為法、外国政府代理人登録法や、慈善事業関連の州法等に違反してきた」(387~88ページ)
「課税対象の文鮮明機関が、免税団体への資金移動により、免税特権を得ていると信じるに足る理由がある。課税対象組織と免税組織を使い分けることで、文鮮明機関は連鎖反応的に財力を増やし、競合する組織に比べて大きな強みを持っている」(391ページ)
タコ足のように無数の関連団体(彼らの用語でいう「摂理機関」)を使い分け、資金、マンパワー、情報を自由に動かして全体としてのMoon Organizationを維持・拡大させる。こうした旧統一教会の実態が、70年代のアメリカですでに分析されていたことはもっと注目されるべきだろう。
税逃れ、メディア戦略、ビジネス展開…旧統一教会がアメリカで行ってきた巧妙な政治工作
今から約40年前、アメリカでも政治と旧統一教会の関係が問題となり、これに強い危機意識を持った「フレイザー委員会」によって綿密な調査が行われた。委員会はこの宗教カルトの本質をどう結論づけ、米議会はその後、教会とどう向き合ってきたのか?
米「フレイザー報告書」(1978)が見抜いていた宗教カルトの本質
委員会に協力しなかった日本政府
その非協力ぶりは「日本当局は当初、アメリカ大使館内での米国人ビジネスマンに対する聞き取りすら、ビザ条件外として却下したほどだった」と、報告書は特記している。
日米両国の親密さを考えると、この日本政府の対応は不可解だ。フレイザー委員会の活動を制約したいという政治的思惑が日本政府側にあったのではないか。
もっとも可能性が高いのは1972年8月、朴正熙(パク・チョンヒ)の政敵で韓国民主化を訴えていた金大中(キム・デジュン)が東京で拉致・誘拐され、5日後にソウルの自宅前で発見された事件との関連だ。
当時から、KCIAや在日系組織暴力団・右翼の大物などの関与が取り沙汰されてきたが、日本の保守政権が拉致を黙認していたのではないかという説も根強い。
事件の事後処理が日韓双方の微妙な曖昧決着で終わったこと、KCIAと旧統一教会が密接な関係を構築していたことなどを考えると、日本政府当局がフレイザー委員会による事件の「掘り起こし」を牽制した可能性は充分考えられる。
フレイザー委員会の仕事はけっして完全ではなかったし、その提言も多くは実現することはなかった。文鮮明機関全体としての金の流れは解明できなかったし、税務当局を含む省庁横断的タスクフォースも実現しなかった。それほど統一教会の実態解明は一筋縄ではいかないということだろう。
ひるがえって現在、岸田政権は「宗教法人取り消しに繋がる質問権行使」という初手の段階で右往左往している。宗教法人以外の関連団体(フレイザー委員会の言うMoon Organization)総体の人・モノ・金の調査にはまだまだ及び腰だというのが実情だ。
1970年代、アメリカ民主党は上下両院・大統領府を握り「トリプル・ブルー」の政権与党だった。その政治基盤を生かし、与党のフレイザー委員長は文字通り、身を挺して旧統一教会に対峙し、できるかぎりの調査を行った。今、与党自民党内に「日本のフレイザー委員長」がいないことがこの国の悲劇なのだろう。
文・小西克哉 写真/共同通信社 AFLO
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