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第15章 山積みな課題
第539話 山積みな課題と爆発

 今俺が使える手札は三つだ。

 魔力と気……それに魔気融合術。つまりはいつも通りだ。

 切り札として聖気も他に手がなくなったときは出し惜しみするつもりはないが、骨騎士(スケルトン・ナイト)相手であれば使わずに倒すのが最も望ましい。

 これについては奥の手としておいて、基本的な三つで攻めよう。

  

 頭の中でアバウトにそう決めて、まずは剣に魔力を注ぐ。

 身体強化も勿論かけて……俺は地面を踏み切る。

 先ほどまでよりも素早く距離を詰めた俺に、骨騎士は警戒を強めたのか確実に盾で身を守ろうと半身になって盾の影に出来限り多くの体を隠して相対してきた。

 やはり、一筋縄では行かなそうだ。

 俺が振り上げた剣は再度、骨騎士に弾かれてしまう。

 そして骨騎士は俺がこの後、改めて距離を取ろうと下がることを予想していたように、前に出ようとした。

 先ほどよりも速度を上げたとはいえ、この攻撃は一撃目の焼き直しだ。

 骨騎士には人のような思考も感情も存在しないと言われているとはいえ、それは何も学習しないことを意味するわけではない。

 骨騎士も、戦えば戦うほど経験を積み、強くなる。

 たった今、俺がやったことを記憶し、それに対応する方法を即座に考えつくくらいには成長するのだ。

 

 だが、当然のことに俺もまた成長する。

 一撃目で骨騎士の実力を知って、今回の攻撃が絶対に防がれないだろうと思うほど愚かではない。

 では、なぜ同じような攻撃を仕掛けたか、と言えばそれは骨騎士の動きを限定するためだ。

 同じ行動に対しては同じような反応に出やすい。

 それは通常の生き物のみならず、骨人のような魔物も同じだ。

 反射を完全に制御するのは難しく、武術はその辺りの矯正に果てしない反復練習を課すことによって乗り越えさせるが、骨人のような魔物は中々そのようなことは出来ない。

 もちろん、骨の体になった結果、人には出来ないような動きが出来るようになって、反射的にどのように動くのかを予測するのは簡単なことではなくなる。

 たとえば俺が誰も見ている者がいないとき、首や腕をグルグル回したり、腰が折れるほど仰け反ったりなどするように、骨人にも同じことが出来るからだ。

 けれど、俺は骨人相手に果てしないほど戦ってきたし、実際に自分が骨人としてやってきた経験がある。

 何が出来るのか、どう動くのか、それが自分のことのようによく分かる、わけだ。

 そんな俺の経験からして、今回の一撃を盾で防いだ後、骨騎士は俺へと距離を詰め、突きを放ってくると……。

 しかも、先ほどよりもずっと素早く行おうとするだろうと。

 そしてそのためには、いかに骨だけの体になったとはいっても従わなければならない物理的法則がある。

 骨騎士は、俺に向かって速度を上げるために、地面を思いきり踏み切ろうとするはずだ、と。

 そうでなければ、バックステップとは言え、距離を取ろうとする俺との距離を詰めることなど出来ないから。

 骨騎士として、通常の骨人よりも位階が高くあって、鎧などを身につけた結果、踏ん張るためには余計に強く地を踏まなければならない……しかしそこには落とし穴があるのだ。

 比喩的な意味ではなく、そのままの意味で、落とし穴が。

 俺はその瞬間、魔力を込めた剣を使い、骨騎士が踏もうとしていた地面を深く沈み込ませた。

 まだそれほどこの手法になれていないし、魔力量の問題もある。

 だが、概ね脛辺りまで入るような穴を局所的に作り出すくらいなら十分に可能なのだ。

 特に、この洞窟の中の地面のように、土が滞積したに過ぎないような地面なら余計に。

 

 骨騎士は案の定、その穴にうまく嵌まってくれ、がくり、と体のバランスを崩した。

 流石と言うべきなのはそこまで大きくは崩れていないということだろう。

 穴の深さを理解するやその底に着いた足の力と向きを即座に調整し、またもう片方の足に力を込めてすぐに抜け出そうとしたのだ。

 だが、たった一瞬であっても、俺にとっては大きなチャンスである。

 バックステップで下がった俺だったが、初めからこの状況を想定していたため、即座に反転するための準備は出来ていた。

 魔力で自分の足下に思い切り踏み切るための土塊の突起を作り、そこを蹴り飛ばして骨騎士の元へと突っ込む。

 これは予想していなかったらしい骨騎士は、しかしそれでも盾を俺の方へと向け、防御しようとするが、俺はその骨騎士の盾を握る手にあまり力が入っていないことを理解し、剣に魔力と同時に気を注いだ。

 魔気融合術である。

 やはり力の入れにくさはあるが、前よりはずっと維持するのは楽だ。

 その剣を骨騎士の盾に向かって、横薙ぎにすると……。

 剣が盾に触れると同時に、盾の表面に爆発が生じ、そして骨騎士の腕から盾が吹き飛ばされた。

 やはり、しっかりと握れていなかったようだ、というのがそれで分かる。

 攻撃から身を守る手段を一つ失った骨騎士。

 しかし、それでも鎧は纏っているし、剣も持っている。

 ここで更に突っ込むか、それとも安全をとって間合いを取るかという選択肢が生まれるが……。

 もう俺の心は決まっていた。

 ここで戻ったらきっと対応されるだろう。

 それくらいの学習能力が、この骨騎士にはある。

 だからこそ、俺は更に踏み込んで、骨騎士の懐まで入った。

 その選択が正解だったと確信できたのはその瞬間。

 そこまで入って、骨騎士の鎧の間に隙間が見えた。

 剣を差し込める隙間が。

 その隙間の先には、骨騎士の心臓部であろう魔石も覗いていた。

 ただ剣を差し込んだだけでは致命傷にならないだろうが、これなら……。

 俺は迷わず剣をその隙間へと差し込むと、魔石に向かって一直線に突きを進めた。

 剣には未だ、気と魔力が込められている。

 そのため、剣が魔石に触れると同時に、骨騎士の鎧の中で爆発が起こった。

 鎧の内部であるため、爆発のエネルギーは内部に籠もる。

 多少は外にも漏れるが、それは頭部へと続く鎧の隙間からだったので、俺にとっては都合が良かった。

 爆発のエネルギーは、骨騎士の鎧の中の骨を全てバラバラに砕き、さらには頭部もいくつかの破片に砕いてしまったからだ。

 魔石は砲弾のように吹き飛び、洞窟の壁にぶつかってから、転がった。

 

「……レントさん! やりましたね!」


 リブルがそんな言葉を叫びつつ近づいてきたのを見て、

 

 どうやら、なんとか勝てたらしい。

 

 そんな実感がやっと湧いた俺だった。

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