俺が短剣で頭部を狙った意趣返しだろうか。
骨小魔術師の放った魔術、岩弾もまた俺の顔面を狙ったものだった。
比較的短時間で撃ったために威力はさほどでもないが、普通の人間であれば命中した時点で顔が吹き飛ぶくらいの力はあるようだ。
もちろん、俺の場合あれの直撃を受けても顔が吹き飛ぶだけで死にはしないだろうが、そんなシーンをリブルに見せるわけにもいかない。
俺は腰を思い切り仰け反らせて岩弾を避けた。
若干、角度的に体が柔らかすぎ、と言いたくなるような感じに背中を曲げたが、人間ではないとまで言われるほどではない程度に抑えたのでセーフだ。
気持ち悪!とは言われるかもしれないけどな。
岩弾を避けると、仰け反った体をすぐに引き戻し、俺は骨小魔術師の方に向かって足を踏みきる。
骨兵士の横を通り過ぎるとき、こちらに剣を差し込んできたが避け、それから骨小魔術師の頭に向かって剣を振りかぶった。
素早く倒すなら突きであろうが、骨小魔術師がローブを身に纏っているせいでどこに心臓部に当たる魔石があるのか分からないからな。
大体頭部に収まっていることが多いのは事実だが、絶対ではない。
特に通常の骨人ではなく、骨兵士や骨小魔術師のように上位の個体になって来れば来るほど、その傾向は強くなる。
それでも全体が見えていれば問題ないのだが、鎧やローブを纏い始めるからな……それだけで結構倒しにくくなる。
急所が丸見えなのと、予想がつかないのとでは大きく異なるのだ。
それでも骨人は骨人。
その身を構成する骨を砕かれれば行動することが出来なくなるのは言うまでもない。
だからこその頭部からの一撃だった。
幸いと言うべきか、振り下ろした俺の剣を骨小魔術師は避けることが出来ずに、まさにその頭に命中する。
バキリ、と頭蓋骨をたたき割る感触がし、そのまま地面まで振り切ると、その体の大部分を砕くことに成功した。
それでも手に持っていた杖から小さな火弾が放たれたが、俺はそれも横に軽く位置をずれることによって回避し、杖を持った手を杖ごと踏み潰した。
骨小魔術師の方はこれでいい。
まだ微妙にずりずりと動いていることから魔石は頭部以外のどこかにあったらしいことが分かるが、これ以上行動することは出来ないからだ。
一日も二日も放っておけば砕かれた骨も修復し、再度、骨小魔術師として活動し始めるだろうが、そんなに長い間放置するつもりはない。
骨兵士の方を倒したら魔石を抜き取って埋める。
そしてその骨兵士だが、仲間の骨小魔術師をやられていきりたった……ということはないだろうが、若干迫力を増して俺の方へと向かってくる。
先ほどまではあまり俺の方へと自らは近づいてこない消極的な戦い方だったが、もうそうするつもりはないようだ。
さっきまではあくまでも骨小魔術師を守る動きに徹していた、ということだろうな。
しかしもう骨小魔術師を守る意味はない。
まだ生きている……と言って良いのかは分からないが、まだ完全に動きを止めたわけではないにしろ、戦力としての価値はゼロだ。
それをこの骨兵士も認識しているということだろう。
素早い突きを放ってくる骨兵士。
俺はそれを弾きつつ、その頭部を狙う。
こいつの体は骨小魔術師のそれと違って丸見えだ。
どこにも魔石があるのは見えないので、頭部に入っている……で間違いない。
だからとりあえず頭部に向かって突きを放った……のだが、そういう俺の狙いはお見通しらしい。
しっかりと弾かれた。
骨兵士の実力は結構幅があるもので、こいつはそこそこやる個体のようだ。
体に込めている魔力の段階を一つ上げ、再度、骨兵士に斬りかかる。
頭を狙って……と見せかけて腹部へと剣を突き込む。
骨兵士は予想外だったためか、これには反応できなかった。
と言っても、これだけでは肋骨を多少折った程度で終わってしまうので、さらに俺はそこから剣を横薙ぎにする。
背骨を巻き込み、バキバキと骨兵士の骨が折れていき……バランスが保てなくなった骨兵士は上半身のみがずり落ちるように地面に着地した。
下半身の方は、上半身が離れた時点で接合を失い、バラバラと崩れ落ちている。
上半身のみになったからといって、戦意がなくなったわけではなく、その状態でも骨兵士はまだ剣を手放さず振っている。
骨兵士には感情はない。絶望もない。
その身が動く限り延々と人を狙い、攻撃を放ち続けるだけだ。
それを体現するような様子に何か深い哀れみを感じる。
俺も一歩間違えばまさにこのような存在になっていたかも知れないと思うからだ。
もちろんだからと言って、このまま放置していくわけにもいかない。
俺は骨兵士の上半身に素早く近づき、そしてその頭蓋骨を叩き割ったのだった。
ころり、割れた頭蓋骨から魔石が落ち、骨兵士は永遠に動かなくなる。
それを拾った俺は、今度は未だ動き続ける骨小魔術師の元に歩み寄り、ローブを剥がして、魔石の位置を確認し、抜き取った。
こちらもそれと同時に体を崩壊させ、バラバラと白い骨だけがその場に転がった。
「……リブル。もういいぞ」
そう言うと、遠くで弓を引き絞っていたリブルがそれを下ろし、こちらに駆け寄ってくる。
「レントさん……! すみません。結局撃てなくて……撃ったら邪魔になりそうだなと思ったものですから……」
戦闘の最中、彼の矢は結局一度も飛んでこなかった。
そのことを言っているのだろう。
しかし全く問題ない。
「確かにさっきは俺に注目が集まるように戦っていたからな。撃たれた方が迷惑だったさ。むしろ撃たないという判断をしたリブルは正しい」
「……良かった。間違いだったらどうしようかと……骨小魔術師に至近距離から魔術を放たれていたようだったので……」
岩弾のことだな。
確かにあれはリブルからすればかなり危なく見えたのだろうとは思う。
「いや、近づいた時点で撃たれるだろうとは思っていたからな。避ける覚悟も決まってたから、リブルが感じたより危ないところじゃなかった」
「そうだったんですか……!? あんなものをはじめから避ける気だったなんて……その、命知らずですね……!」
言い淀んだのはあんまり褒め言葉ではないからだろう。
しかし、俺は言う。
「そいつは冒険者にとっては褒め言葉だな。もちろん命を大切にするのも大事だが、行けるところで行かないのは問題だ。俺は行けると思った。だから俺にとっては危なくなかった。なんて、結果論に思えるかもしれないが……」
「……レントさんについてきて、私も冒険者になれるかもしれない、なんて一瞬でも思っていたのが間違いだと強く思い知らされますね……。あんな恐ろしいこと、出来る気がしませんよ」
「なんだ、そんな気があったのか?」
「いえ、そこまで本気ではないですよ。というか昔、夢だったので、もしかしたら可能性くらいは……というか。夢のまた夢だったようですけどね」
「そんなに捨てたものでもないと思うけどな」
「いえいえ……」
そんな話をしながら、俺たちは洞窟をさらに奥へと向かって進んでいく。
最奥は近い。何が待っているのかは分からないが、骨人だけのつもりが、骨小魔術師なんてものまで出現したのだ。
気を引き締めなければ。
深くそう思った。
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