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第15章 山積みな課題
第535話 山積みな課題と灯り

「……中は、やっぱり暗いな。明かりを採っておくか……」


 俺はこの状態でも全く問題ないのだが、流石にリブルはそうはいかない。

 足下も見えない状態で前に進むのは危険だ。

 そう思った俺は、魔法の袋から灯火の魔道具を取り出し、小さな魔石をセットする。

 すると周囲数メートルを照らす程度の光が魔道具から静かに放たれ始めた。

 

「結構見えるようになりましたね」


「あぁ……」


 そうは答えつつも、俺にとっては大して見え方は変わっていない。

 今もさっきまでも同様に昼のように見えていたからだ。

 だが、それをリブルに伝えるわけにも行かないから適当に頷いておく。

 それから、灯火の魔道具の扱いについて、リブルに伝えることにした。


「今のところ、これは俺が持っておく。前の方から魔物が来たら、俺に注意が向いて襲ってくるだろう。だが、戦闘に入ったらリブルに手渡す。これを持ちながらじゃ戦えないからな。頼めるか?」


「……は、はい……」


 これを持っておくと魔物の注意が向いてしまう、という情報から少し怖くなったのだろう

 けれど俺は言う。


「怖がらなくてもいい。基本的にリブルの元まで魔物がたどり着けないように十分に注意して戦うつもりだからな。魔物はリブルの方に誘導されるだろうから、むしろ俺は戦いやすくなるだろう。要は、村での戦いと同じだ。あのときもリブルだけは冷静に戦っていたから、問題はないと思うんだが?」


 どこまで本当に問題がないのかは微妙なところだが、あまり脅かす必要もない。

 俺の話に村での戦いを思い出したらしく、少しだけ震えていたリブルは平静を取り戻し、頷いて答えた。


「……そう、ですね。大丈夫だと思います」


「ならいい。あぁ、でもあんまり無理はしなくても良いからな。俺がやられると思ったら普通に逃げていい。助けようなんて思わなくて良いぞ」


 気負われてそういうことをされてもしょうがないからだ。

 リブルは比較的村人達の中で冷静だったとはいえ、かつての父親のことが頭の隅に残っているだろう。

 いざというとき、絶対に見捨てたくない、とか思ってしまうかもしれない。

 そのことを心配しての台詞だった。

 もちろん、俺としてはそんな事態に陥らないようにするつもりではある。

 負けそうなら俺がリブルを小脇に抱えて一目散に逃げ出すつもりなくらいだ。

 依頼が失敗しても死ぬよりは全然いい。

 勝てないような奴がいるならそれこそマルトから応援を呼べば良いだけの話だ。

 誰も受けないとしても、ロレーヌを呼べば来てくれることだろう。

 そうすれば何とでもなる。

 無理は禁物、というのは俺も同じと言うことだな。

 リブルがそれを理解してくれたかは分からないが、とりあえずは、


「……はい。分かりました」


 そう頷いてくれたのでよしとし、先に進んでいく……。


 ◆◇◆◇◆


「……おっと、やっぱりいたな。どうやらここで当たり……かな?」


 前方からガシャガシャと骨人スケルトンが進んでくる音がした。

 俺は手に持っている灯火の魔道具をリブルに手渡し、剣を構えた。

 しばらくして近づいてきたのは、何か業物を持っている様子もなく、感じられる魔力量も普通の、ごく一般的な骨人二体だった。

 まぁ、これくらいなら何とでもなる。

 俺は他に伏兵がいないことを確認した上で、骨人たちに向かって素早く近づき、その首を刎ね、頭蓋骨を砕いて魔石を取り出した。

 するとすぐに骨人の体は接合を失い、がしゃりと崩れ落ちる。

 我ながら鮮やかに決まった気分で、見ていたリブルも、


「……すごい……」


 と感動した様子で見てくれたのでなんだかちょっと嬉しくなる。

 当然ながらこれで満足して、油断してしまってはならないが。

 そもそも骨人二体くらい、銀級になるつもりならこれくらいの速度でやれないと話にならないからな……。

 まだまだ、俺は冒険者として最低限を満たしているに過ぎない。

 そのことを忘れてはならないのだ。

 初心を忘れた冒険者は、驕り、もしくは油断し、一瞬の後に全てを失うものだ。

 それに気づくのは、冥界の川を渡る船の上にたどり着いてからだ。

 それでは意味がない。

 魔石を魔法の袋に突っ込みつつ、俺はリブルから灯火の魔道具を受け取り、言う。


「大したことはない。先へ進もう」


「あ、はい……」


 歩きながら、恐ろしさを紛らわすためかリブルが俺に話しかける。


「……やっぱり、ここが骨人の発生源、で決まりでしょうか……?」


「どうだろうな。その可能性が高そうだが……まだはっきりそうだとまでは言えない。他のところで発生して、ここを探索していただけ、という可能性もある」


「……骨人が何のためにこんなところを探索するのですか?」


「以前はゴブリンが住んでいたんだろう? またゴブリンの巣になっていたら、骨人はそういうものも襲うからな……。魔物同士が常に仲がいい、というわけじゃないんだ。迷宮の中でも、魔物同士が同士討ち……と言って良いのかどうかは分からないが、そんなことをしているところを見かけることもある」


 だからこそ、魔物の《存在進化》が発生し、次の段階の魔物に成長してしまうのだと言われる。

 実際にそういう場に出会した者はもちろん少ないだろうが、ゼロではないのだろう。

 なぜそういうことが起こるのかについてはやっぱり、誰も解き明かせてはいないが……。

 魔物の本能か、世界のルールか、それとも何か別の……。

 考えても分かりそうもないような気になってくるが、そういうものを解き明かしてきたのが人間である。

 いつか、分かる日が来るかも知れない。

 それかロレーヌが解いてしまうかも。

 彼女の頭脳と、俺という珍しい存在がいれば……核心とは言わないまでも、そのほど近くまでならたどり着ける可能性は十分にある。

 そしてそうでなければ俺は人に戻れないかもしれない……。

 普段は考えないようにしているが、今でも堪らなく不安になるときがある。

 俺は戻れるのだろうか、人に、と。

 このまま永遠に魔物のままで……いや、百歩譲ってそれはいいだろう。 

 しかし、精神まで変質し、いつか人に仇なす存在になりやしないかというのが怖い。

 そうならないのであれば別にこのままであっても諦めはつくのだが……。

 分からないというのは怖いな。

 ラウラやイザークという存在もいることだし、すぐにどうこうということは多分ないのだろうとは思うが……。

 まぁ、今は頑張ってコツコツやっていくしかなさそうだ……。

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