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第15章 山積みな課題
第534話 山積みな課題と森の奥

 次の日、俺とリブルは朝早く村を出た。

 その目的は勿論、村を襲った骨人スケルトンの発生源を発見するためだ。

 村長であるジリスにも相談し、とりあえず村の防護については柵などをある程度修復し、若い男達が警戒して見回るので問題ないということになった。

 それでも骨人スケルトンが三体以上この村にやってくるようなら村人だけでどうにかするのは難しいだろうが、それでもしっかりと見回りをしておけば早めに襲来を察知し、逃げることは出来るだろう。

 骨人スケルトンは暗闇でも戦える魔物ではあるが、それほど遠くまで目が見えているわけではない。

 若い村の男連中で殿をしつつ、女子供を先に逃がしてしまえば、町まで引くくらいのことは無理ではない。

 本当であれば俺に村にいてほしいとは言われたが、その場合、俺がマルトに帰ってしまった日以降も村は危険にさらされたままであり続けるということはジリスも分かっていた。

 どこから骨人が発生したのかを明らかにし、可能であればそれを潰してもらえると今後とも安心であるので、村が多少の危険にさらされても必要なことであると最後には納得していた。

 

「……こっちです、レントさん」


 森の中をリブルとともに進んでいく。

 流石、リブルは村一番の狩人らしく、森の歩き方が堂に入っている。

 足音を殺し、気配を殺し、それでいながら自分の位置は見失っていない。

 俺も森の歩き方にはそこそこの自信がある方だが、普通の動物の狩りであったらリブルには敵わないだろうと思わされた。

 途中、何匹か鹿や猪などを見かけたとき、リブルはそれらの動物に一切気配を察知されることはなかったからだ。

 狩ろうと思えばいずれも一発でやれただろうな、と思う。

 俺も森で野宿を、というときは食糧確保のために狩りはするが……リブルほどには出来ないだろう。

 やはり俺の本質は魔物相手の冒険者だな、と思う。

 

 そんなことを考えながら森をしばらく歩くと、俺たちはとうとうその場所へとたどり着いた。

 

「……レントさん。あそこだそうです……」


 下草の影に隠れながらリブルが視線で示した場所は、ぽっかりと口を開いた、奥の見えない暗い洞窟だった。

 中がどれくらいまで続いているのかは分からないが……なるほど、と思う。

 以前、村の周りに出現したのはゴブリン、という話だったが、彼らはこういった自然洞窟を住処として活用することが多い。

 ゴブリンは骨人たちと異なり、普通に繁殖して増えていく魔物だからな。

 子育てするにはこういうところが必要だろう。

 ゴブリンは生まれてから一月ほどで成体になってしまう恐るべき繁殖速度を持つ魔物だが、やはり赤ん坊のときは無防備であり、容易に他の魔物や、場合によっては動物にも狩られうる矮小な存在である。

 だからこそ、そういった外敵から身を守るために巣が必要になってくる。

 人間と交流を持つようなゴブリンの個体群ともなれば、小さな集落を築き、質素ではあっても自らの建物を作って暮らしている者もいるくらいだが、そうではない者はこういった自然洞窟を主な住処としているのだ。

 集落を作るようなゴブリンの群れと、そういうことをせずに洞窟などに住み、人を襲う群れのどの辺りに違いがあるのか、というと結構難しいところだが、やはりゴブリンにも個体差があるということだろう。

 人間にも町人と盗賊がいるのと同じようなものだ。

 だからゴブリンだからと言って全て悪というわけでもない。

 そういった魔物というのはいくつかいて、亜人として扱われているわけだが……区別が難しいこともあって人との仲については場所によって様々だ。

 完全排斥主義のところもあれば、持ちつ持たれつでやっているところもある。

 我らがヤーラン王国は比較的緩め、持ちつ持たれつ寄りだな。

 国自体が割と色々緩めなこともあって、魔物に対する価値観もそこまで厳しくないのだ。

 それでも襲われれば容赦なく反撃するのは当然のことだが。


「リブルの親父さんは、あの中に?」


「当時の話を聞くに、中に置き去り……というと言い方が悪いですが、そんな感じだったらしいです。そしてだからこそ、他の村人が逃げるまで時間を稼げたというのもあるんじゃないかなと」


「中はあまり広くなさそうだし……四方八方から襲いかかられる、ということはなさそうだもんな。確かにそうかもしれない。ただ一旦閉じ込められるとどうしようもないというか、外に伏兵がいて入ったところを見計らって洞窟の中で挟撃されたら終わりだろうな」


 ゴブリンは人に近い知能を持つ魔物だ。

 多少、愚かなところもあるとは言え、狩りについての機転というか、知恵というか、そういうものは人間と遜色ない。

 したがって挟み撃ちとか、罠とか、そういうものは普通に仕掛けてくる。

 まぁ、技術力が足りずにお粗末なものであることも多いのだが……。

 集落を作るようなゴブリンだと製作物もかなりの細工であることが少なくないので種族自体にそういう技能がないというわけでもないのだろうが……。

 ゴブリンは研究しがいのある魔物だと言われるが、それはそういうところなんだろうな。

 ともあれ、今回はゴブリンと戦う必要はおそらくなさそうなので、その心配はあまり要らないだろう。

 以前、ここにゴブリンが発生したときにしかけられた罠がまだ残っている可能性はあるだろうが、それにしたって何年も経っているわけだし、耐久性的に未だ動くようなものはないだろう。

 魔道具の類は流石に並のゴブリンには作ることは出来ないからな……。


「……私たちが中に入って、骨人に挟み撃ちに、なんてことはないでしょうか……?」


 不安になったらしく、リブルがそう言ってきたので俺は答える。


「周囲に骨人の気配はない。他の魔物のそれもな。だから基本的にはそこまで心配する必要はないだろう。もちろん、だからと言って油断は禁物だぞ」


 今、周囲に気配がなくとも後からやってくる可能性は十分にある。

 後ろを全く警戒しないで洞窟の中を探索するのは危険だ。

 本当だったら、冒険者が数人いたら外で見張ってる組とで別れるのだが、ここには俺とリブルしかいないからな。

 まさかリブルを置いていくわけにもいかないし、かといってリブルだけ中に入れという訳にもいかない。

 俺はそこまで鬼ではない。

 吸血鬼ヴァンパイアもどきではあるが。

 だから選択肢は一つだ。


「……じゃあリブル、観察も済んだところで、中に入るぞ」


「はい……!」


 そうして、俺たちは洞窟の中へと足を踏み入れたのだった。

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