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第15章 山積みな課題
第533話 山積みな課題と形見

「……あんまり良い仕事じゃない、とも言いにくいか。その冒険者の事情も分からないしな」


「私たちとしても、ゴブリンを倒してくれただけでありがたかったですから。ただ、今回のことがそのときのことを遠因としているなら……もっと色々お願いしておくべきだったなと思います」


 リブルが言うのはつまり、亡くなった父の埋葬を、ということだろう。

 そうしておけば確かに今回の骨人騒ぎはなかったかもしれない。

 骨人は一匹出現すれば徐々に増えていくことが多い。

 どこかから呼び寄せたり、土深くに埋まっている昔の骨が呼応して動き出し、骨人になったりするなどして。

 リブルの父の骨兵士が一番最初の起点になったのなら……しっかり埋葬しておけば発生しなかっただろう、とはそういう意味だ。

 

「まぁ、本当にリブルの父親が理由だったのかは分からないからな。あんまりその辺りは気にしないで良いだろう」


「そんなものですか?」


「あぁ。生きてれば後悔なんていくつもあるものだしな。そういうときはさっさと忘れて次に移った方が効率的だぞ。特に冒険者をやっているとそんなこと数え切れないくらいある」


 ああしていればあの村人は、仲間は、友人は助かったのではないかと。

 そんなことを思ったことが一度もない冒険者など、ほとんどいないだろう。

 だが、いつまでもそんな気持ちに執着しているといずれ自分も冥府へと手を引かれてしまうことを多くの冒険者は本能的に知っている。

 だから忘れるために浴びるように酒を飲み、遙か遠くへと旅だった仲間達が生きていたときのくだらない話をし、忘れ、そしてたまに墓に酒を飲ませに行く。

 傷は塞がらない。

 だがそこに傷があることを普段は忘れておくのだ。

 それが、人が前に進むために取れる唯一の方法だと知っている。

 

「現実的な話に戻ろうか。リブル、今回の骨人騒ぎ、何が理由なのかはまだはっきりとはしないが……やらなきゃいけないことがある」


「ええと……父が亡くなった場所に行かなければなりませんよね。少なくとも、そこが発生源である可能性が高いでしょうから」


「そういうことだな。だが、俺はそこがどこだか分からない。地図に書き込んでもらっても良いんだが……こういう森の中だと少しずれても分かりにくいからな。出来れば誰かに案内してもらいたいんだが……」


 誰か、と言いつつ誰に案内してもらいたいかははっきりしている。

 だから俺はリブルに視線を合わせた。

 リブルも話の流れから察していたようで、


「それを私に、というわけですね。大丈夫です。行きます。場所も……行ったことはないですが、何度も聞いていますから……」


 自分でもそこに父の亡骸や遺品を探しに行こうとしたことがあるのだろう。

 しかし、自分の実力と相談してやめたわけだ。

 そういう冷静さを持っている、というのは同行者として心強い。

 村で骨人たちと戦っていたときも、加勢に回っていた村人達の中で、リブルだけが冷静だったからな。

 他の村人達は前のめりと興奮の間にいて、冷静ではなかったように見えた。

 やはり、いつかリブルの父を見捨てたときのことが、魔物を見ると思い出されるということなのかもしれない。

 人の見えない傷というのはやっぱり、消そうとしても消せないものだ……。


「よし、それなら話は決まりだな。身の安全については俺が命を賭けて守る。その心配はしなくて良い」


 まさに何度かなら肉の盾になることも可能だ。

 その場合は正直言って言い訳に困るだろうが、余程の深手を負わない限りは軽傷だったでなんとかなるだろう。

 深手の場合は……まぁ、聖気が俺にはあるからな。

 神のご加護で押し切ればいいさ。

 複数人に観察されていればどこかで疑問を抱かれる可能性もあるだろうが、リブル一人しか見ていないなら何とでも誤魔化せる……はずだ。

 一番いいのは勿論、誰も何のピンチにも陥ることなく、無傷で帰ってくることだけどな。

 覚悟だけはしておかなければならない。

 そんな俺にリブルは、


「無用な危険を生み出さないように、注意しようと思います」


 と俺にとって一番ありがたいことを言ってくれた。

 他の村人達のようにそれこそ身を挺しても、なんて覚悟でいられると却って迷惑だからな。


「いい同行者になりそうだな……それじゃあ、明日の朝一番に行こうと思うがいいか?」


「はい。しっかりと準備をしておきます……とりあえず、今日中に村長には報告をしておいた方がいいですよね?」


 骨人がまだ来そうな状況で村を守る戦力である冒険者が突然消えるわけには行かない。 

 しっかりと説明しておく必要があるだろう。


「そうだな。とりあえず、ここが一通り片付いたら二人で村長のところに行こうか」


「はい」


 ここが、というのはもちろん、即席レント商店のことだ。

 まだ見ている人がいる中でいきなりお開きでーすというのもあれである。

 今日出るわけではないのだし、元々やる予定だった時間までやって、その後に、でも問題ないだろう。


「そういえば、リブルはこの弓、いらないか?」


 弓使いの骨兵士が持っていた弓をリブルに差し出す。

 そこそこいい作りで、村の骨人と戦っているとき、リブル達が持っていた弓よりは数段よいものだ。

 リブルも弓使いなら気になるだろうと思ってのことだった。

 これにリブルは、


「いえ、勿論欲しいですけど……槍の方がやっぱり。それを買うと私の手持ちはもうなくなってしまうので……」


 そう言った。

 父の形見の槍か。

 俺としてはもうその話を聞いた時点でリブルのものだという認識だったのだが、リブルからすれば買わなければならない商品、という感覚だったようだ。

 確かに原則的にはそれで正しいからな……。

 冒険者が魔物から奪ったものはその冒険者に所有権がある。

 魔物が他の……それこそ人間から奪ったものでも、その後に他の冒険者がその魔物から奪えば、その冒険者のものだ。

 つまり、この槍の所有権は俺にある。

 だがそれはあくまで原則であって、相談や話し合いの余地が全くない強制的なものではない。

 冒険者のルールの大半はそういうものだ。

 お互いが納得するなら、そのルールから外れていても特に咎められはしない。

 もちろん、いきなり殺しにかかるとかそういうのはその限りではないが。

 そもそもそういう行為は冒険者のルールというより国のルールで禁じられているが。

 まぁ、そんなわけで、俺としてはリブルにこの槍については普通に渡すつもりだったので、金はいらない。

 俺はリブルに言う。


「……これは確かに俺が魔物から手に入れたものだが、リブルの親父さんの形見だろう。そんなもの、金なんて取れないな」


「いや、でも……」


「いいから受け取っておけ。そうしてくれればこの弓だって買えるんだろう? 安くしておくぞ」


「……レントさん。それじゃあ、レントさんの儲けが……」


「そもそもなんちゃってレント商店だからな。そこまできっちり商売する気はないんだ。それに……明日はお互いに命を預け合う間柄になる。リブルの戦力強化は俺にとって重要な話なんだよ。ほら」


 そう言って俺はリブルに弓と槍の両方を押しつけた。

 リブルは少しの間、困惑していたが、最後に言った理由には納得したのだろう。


「……分かりました。では、今回はありがたく……」


 そう言って頷き、頭を下げたリブルだった。 

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