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第15章 山積みな課題
第532話 山積みな課題と骨人の出所

「どうかしたか?」


 リブルが手に取ったそれに気づいた俺は不思議に思ってそう尋ねた。

 というのもリブルが武器の類を手にすること自体は別におかしくはない。

 彼はこの村で曲がりなりにも腕利きの狩人として村長に評価されている人物であるのだから武器に対する興味は普通よりは強いだろうと理解できるからだ。

 しかし、まず初めに手に取ったのが槍だ、というのが不思議だった。

 ここに並べているのは俺がたまに仕入れる適当な数打ちや小さな料理用のナイフなどの他には、昨日、骨人を倒すことによって得ることの出来たものしかないのだが、その中には骨兵士の持っていた弓がある。

 改めて見てみるとその弓は結構悪くない品で、買えばそこそこ値の張りそうなものだ。

 弓の扱いのうまいリブルならそれもある程度分かるはずで、まず興味を持つのであればそれが最初であるのが自然だろう。

 それなのにリブルは先に槍を取った。 

 それが俺は気になったのだ。

 そんな俺の疑問に、リブルは矯めつ眇めつ槍を見た後の一言で答えてくれた。


「……この槍を、私は見たことがあります。いえ、見たことがあるなんてもんじゃない……これは……私の、私の父のものだ……」


 それを聞いて、なるほど、と思った。

 骨人というのは色々な発生の仕方をする存在であるが、その最も悍ましいものとして死した人の遺体が何らかの理由でそうなる、というものがあるのは広く知られている。

 まぁ骨人に限らず、不死者一般がそういう風に生まれることがあるものだ。

 吸血鬼ヴァンパイアなど、人にかなり近く高位のものについてはまた事情が異なるが、骨人や腐肉歩き(ゾンビ)などの低位のものに限っては、かなりそういう生まれ方をすることが多い。

 だからこそ、墓所は宗教団体が厳重に管理したり、またこういった村であっても季節毎に祭りを行って自然精霊などによる浄化を希うことによって生まれる危険性を低くする。

 まぁ、ヤーランに限ってはあの《杖》のお陰もあって、元々かなり生まれにくい訳で、だからこそ宗教団体の権力が弱いという事情もあるのだろうなと思うが……。

 ともあれ、そういう感じで生まれる存在であるために、死ぬ前に持っていた武器などを持っていることが少なくない。

 つまり、リブルの父の持っていた武器を、骨兵士が持っていたと言うことは……。


「……あの骨兵士スケルトン・ソルジャーはリブルの……」


「多分、父だったのでしょうね……。まさか死した後、自らの住んでいた村を荒らす羽目になるとは父も予想外だったでしょうが……こうなってみると、レントさんには本当にいくらお礼を言っても言い切れません……」


 と、何度目になるか分からない礼を言った。


「もうお礼はいい。しかし……リブルの親父さんは……いつお亡くなりに?」


 これを聞くのは別に俺にデリカシーがないとういわけではない。

 まぁ、もの凄くあるとも言えないだろうが、少なくとも人の過去の傷を抉らないことを心がけている程度にはある。

 しかし、今回に限ってはその信念を外しても聞く必要があった。

 なぜなら、骨人たちの発生源がこの情報をもとに分かるかも知れないからだ。

 リブルは言う。


「三年ほど前に亡くなりました。当時は……この辺りをゴブリンが一体、うろついているのを見つけて、群れになる前に村人で倒そうということになりまして……。ゴブリン一体くらいであれば村人でも徒党を組めば倒せます。それに父は……私よりも遙かに腕の良い狩人でした。若い頃は都会で兵士もしていて、剣や槍も使えたんです。私の弓も父に習ったものでした……」


 十代二十代を街の衛兵として過ごし、故郷の村の両親を支えるため、妻をもらって戻る、というのは割とありがちなルートだ。

 冒険者も同じような道筋を辿ることが良くある。

 というか、都会に出た者全般にその道は用意されているな。

 やはり、田舎から出てきて一攫千金や名誉の獲得を求めても、成功できる者というのはほんの一握りに過ぎないからだ。

 大半はいずれ自らの限界を理解し、身の程を知って、しかしささやかな幸せの在処に気づいているべき場所へと戻っていく。

 リブルの父もそのような人生だったのだろう。

 ただ、故郷に戻って息子に自分の修めた技術を教え、立派に育っていく様を見るというのは悪くない。

 受け継がれていくものがあると思うと、人間はどこかに安心が生まれる。

 幸せはそういうところから湧き出てくるものだ。

 

「……立派な親父さんだったみたいだな」


「レントさん……ええ。私にとっては、誰よりも自慢できる父でした。でも、そんな父でも、出来ないことはありました。特に魔物に対しては……」


「というと、そのとき親父さんは……」


「ええ。まさにそのゴブリンにやられました。しかし一匹ではなかった。十匹ほどいたそうで……命からがら逃げてきた他の村人の話によると、父は一人で殿を引き受け、逃がしたそうです。父以外は皆、大けがを負いながらも帰って来れたものですから……そのときの皆には何度も謝られましたよ。未だに謝られることもあるくらいで……」


 まぁ、端的に言ってしまえばリブルの父を見捨てて帰ってきた、とも言えてしまうからな。

 自責の念が抜けない者も多いのだろう。

 しかしだからこそ健全とも言える。

 自分を正当化して反対にリブルに辛く当たる者が生まれないとも限らない状況だったはずだ。

 そうはならなかったのは……おそらく、そのリブルの父の人柄や、リブル自身の人柄によるものだろう。

 また、村人達の性質もだ。

 俺が骨人を倒そうとしたとき、加勢を絶対にする、盾になってでも、と勇んでいたのはそのときのことが関係しているのだろうな。

 もしかしたらその助けられた村人というのは、村の近くの丘の下で見張りをしていた彼らたちだったのかもしれない。

 

「まぁ、もう吹っ切れた話というか、私は全く彼らを恨んだりしていないのでいいのです。私が同じ場所にいても同じことしかできなかったのは間違いありませんから。それよりも、父は最後まで立派な人だったんだと嬉しかったくらいで……もちろん、亡くなった悲しみはありますけど」


「リブルも立派だよ。俺だったら恨んでしまいそうだ」


「レントさんだって……同じ立場ならきっと、恨んだりしないですよ。私には分かります」


「それは買いかぶりだ……しかし、話を総合すると分かるのは……その親父さんの槍がここにあるということは、親父さんが骨兵士になった……つまり、その親父さんが亡くなった場所で、骨人たちは生まれている可能性があるということだ。やっぱりしっかり埋葬は……?」


「出来ませんでした。ゴブリン達はその後、依頼した冒険者に倒してもらったのですが、村から少し離れた場所で……村を襲うようなものはともかく、他の魔物の危険もあってそこまでいくのは厳しくて。冒険者の方に頼むわけにもいきませんでした」


「……そうなのか? マルトの冒険者ならそれくらいやるものだが……」


「そのとき頼んだのは流れの方でしたので。言っては悪いですが、魔物を倒す以外のことに関心があるような方々ではなくて……」

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