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第15章 山積みな課題
第529話 山積みな課題といない仲間

 周囲から見ていればきっと奇妙に見える光景だろう。

 何せ、弓使いの骨兵士スケルトン・ソルジャーに突き刺さった俺の剣に物理的な刀身はないのだから。

 にもかかわらず、確かにその突きは骨兵士の頭部に命中し、そしてそこから骨兵士の体全体を灰化させていった。

 それはつまり、その剣の刀身が聖気によって作られた擬似的なものであることを示している。

 これこそが俺が挑戦してみようと思った方法で……俺は聖気によって、剣のリーチを伸ばしたのだ。

 もちろん、こんなことが出来るとはクロープのところで試し切りしていたときには思わなかったが、先ほど思いつきでやってみたら出来そうなことが分かった。

 発想自体についても決してそんなに突飛なことではなく、同じことをロレーヌが魔力で行っているところをよく見ていたため、聖気でも同様のことが可能ではないか、と思ったところから来ている。

ハトハラーでも俺の気の師匠であるカピタンがやはり《気》で同じようなことをやっていたのも見たというのもある。

 それで試しに聖気でもやってみたところ実際に出来たわけだ。

今のところ《気》はそこまで自在に形状を操れるところまでいってないので出来ていないが、魔力でも聖気でも出来た、ということはコツをちゃんと掴めば《気》でも同じことがそろそろ出来てもいいはずだ。

 《気》の力は人に宿る生命エネルギーを基礎とする力であるため、体から遠く離すこと自体が難しいので難易度は高いわけだが……練習をする価値はあるだろう。

 そのうち練習してみることにしよう。

 その際には、ハトハラーに行って俺の《気》の師匠であるカピタンに相談してみてもいいかもしれない。

何せ実際にあの人はやっていたからな……。


 そんなことを思いつつも、俺は体の動きを決して止めない。

 一体の骨人スケルトン、それに骨兵士を確かに仕留めたことを確認すると、とりあえず俺は少し引くことにした……といっても、引き際にまだ剣が届く位置にいたもう一体の骨人に斬撃を加えるのを忘れない。

 聖気はやはり消耗が激しく、残念ながらもうほとんど残っていないので、気に切り替えての攻撃だ。

 しかしそれでも通常の骨人に対しては十分な攻撃力を持つのは言うまでもない。

 俺が人間だった頃から気は骨人の頭部を砕くくらいの力を俺に与えてくれていたのだから。

 昔から使ってきた力には信頼性があっていいものだな……。

 ちなみに今回命中したのは頭部ではなく腹部であったが、これはこれで問題ない。

 なぜならその骨人の魔力の源たる魔石は頭部ではなく腹部に、まるで心臓のように収められていたからだ。

 実のところ彼ら骨人の魔石の位置は、必ずしも頭部とは限らないのである。

 動物型の魔物は大抵、魔石の位置は固定していることが普通だが、それは彼らが肉の体を持つが故に、臓器の位置などがある程度決まっているためだ、とロレーヌに聞いた記憶がある。

 しかし、骨人にはそういった縛りはないというか、臓器なんて初めから持たないが故に空いた空間のどこに収めても問題ないということなのだろうと言っていた。

 ただ、それでも頭部に収まっていることが一番多いのは事実で、それは彼ら魔物にも大事な器官は最も丈夫なところに置いておくべきだという本能というか感覚というかそういうものがあるからなのかもしれない。

 まぁ仮説だな。 


 バラバラと崩れ落ちる骨人を前に、俺がさらに引いて間合いを取ろうとすると、骨人と槍使いの骨兵士がそんな俺との距離を詰めるべく前に踏み出す。

 骨人の方はともかく、やはり骨兵士の方は中々の速度だ。

 だが、そんな彼らの進路を阻むように、彼らに向かって横合いから矢が放たれる。

 二本の、しかしそれほど破壊力を持たない矢の攻撃であり、しっかりと骨人の頭部に命中したにもかかわらず、まるで金属製の盾にぶつかったように、カン!という高い音を立てて弾かれてしまった。

 けれどそれでも全くのノーダメージというわけではないようで、二本の矢は骨人の体を構成する骨を多少、削り取った。

 狩りの腕がある、といったのはどうやら本当のことのようだなと思った。


 骨を削り取られたことは骨人も察したようで、ぐりん、とその頭部を動かして、矢が放たれた方……つまりは、数人でまとまって弓を構える村人達の方を、その恐ろしげな落ちくぼんだ眼窩で睨みつけ、そして方向転換をしてそちらに走り出す。

 村人達を先んじて倒そうとしているわけだ。

 もちろん、その選択はあまり正しくないだろう。彼ら村人には結局大した攻撃力はない。

 一撃で骨人たちを戦闘不能にしうる俺の方が彼らの立場からすれば危険なはずだ。

 翻って骨兵士の方はと言えば矢が当たってないから、というのはもちろんだが、しっかりと俺より村人の方が危険性が低いことを理解しているのだろう。

 俺の方をしっかりと見て、決して目を離さず、さらに走り出す骨人に身振りで戻るように指示していたくらいだ。

 しかし骨人の判断力は低い。

 その指示に従うことはなく、俺に背を向けた。

 もちろん、そんな大きな隙を俺が見逃すわけもなく、即座に地面を踏み切り、がら空きの背中に向かって剣を振り下ろし、骨人の体を両断する。

 骨人は何が起こったのか理解できない様子で体の動きを止め、しかし最後に少し俺の方に首を動かして、その骨で構成された体を崩れ落ちさせたのだった。


 骨兵士はそんな中、ギリギリまで骨人を救うべく俺の方に距離を詰めていたが、骨人が一撃で崩れると一転、後退して俺との間に距離をとった。

 骨兵士が骨人を助けようとしていたのは何も骨人に対して親愛の情があるから、などというわけではなく、戦力の低下を抑えたかったからだろう。

 しかし、こうしてやられてしまった以上は、一騎討ちで決着をつけるしかない。

 それを理解して下がったわけだ。

 極めて冷静な骨兵士に、生前はそれなりの戦士だったのだろうか、と考える。

 骨人が発生する理由は様々だが、生前、通常よりも高い魔力を持った生き物の骨が、何らかの理由で不死者アンデッドとして新たな命を得て起き上がるというのはその代表的なものの一つだ。

 だからこそ冒険者の肉体は放置すると危険で、その生死についてしっかりとした確認を成すべく、死した冒険者証を冒険者組合ギルドは集め、見つけてきた者に報償を与える。

 特に元々強い力を持っていた者が、さらにその死に際に深い恨みを残して死ねば、強力な不死者アンデッドと化す場合もあるからだ。

 ……俺もその亜種なのだろうか? 

 とたまに思うこともあるが、不死者アンデッドとして新たに生まれ落ちた者に生前の記憶は残らない。

 別のものになるのだ……。

 俺は一体何なのだろう。

 いくら考えても分からないその疑問。

 しかし、今は目の前の魔物を倒し続け、いずれ人へと戻るしかないのだ……。

 構える骨兵士にも、俺のような意識があったら……。

 そんなことを相談できたのかもしれないが、判断力はあってもやはり、人に仇なす者。

 俺は慈悲を一切加えることなく、身に宿る力を気で強化し、骨兵士へと走り出す。

 この村にいる魔物はこいつで最後。

 残った力を出し惜しみすることなく飛びかかった俺の一撃に、骨兵士は反応することが出来ずに、その頭を飛ばされたのだった。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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