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第15章 山積みな課題
第528話 山積みな課題と剣先

 とりあえず村人全員が落ち着いたところで次を探し始めたが……。


「……もう行くしかなさそうだな」


 村の中、その中心に広場があった。

 そこは村で何かしらの祭りや集会があるときに使われる場所なのだろう。

 俺たちは今、そこを家屋の後ろに隠れながら覗いているのだが、骨人スケルトンが全部で五体いるのが見える。

 三体は通常の骨人であり、事前に情報があったものだろう。

 そして残り二体が朝、新たに見つけた骨兵士スケルトンソルジャーだ。

 朝に確認したとおり、弓と槍をそれぞれ持っていて、油断なく周囲をきょろきょろと見つめている。

 通常の骨人はそんな骨兵士を守るように囲んで、骨兵士と同様に、しかし少し鈍く周囲を警戒していた。

 なんであんな体勢になっているのか、と言えばその理由はなんとなく予想がつく。

 俺がひっそりと三体の骨人を倒したからだろう。

 いずれの骨人もしっかりと倒された痕跡が見つからないように処理したわけで、埋めた骨人の体や灰になったそれを見つけた、というわけではないと思う。

 しかしそれでも奴らは気づいたのだろう。

 どうやってか、と言えば人間の見張りと同じだな。

 事前に見回りルートを決めておけばそこを通って戻る時間が概ねどのくらいなのかはなんとなく分かる。 

 にもかかわらず戻ってこなかった、しかも一人のみならず数人が、となればもうこれは誰かにやられたのだろうと推測して当然というわけだ。

 骨兵士の知能がどの程度なのかは個体によって大きく異なる。

 少なくともある程度の武術や指揮能力をもっていることは確かだが、そういった戦略的思考を出来るか否かについては場合によると言われる。

 今回の骨兵士については出来るタイプ、だったようだ。

 そうなると個体としての戦闘能力も高い、ということが多い。

 運が悪いことに定評のある俺だが、やはりそれは正しいようだ。

 もっと弱いタイプの骨兵士の方が遭遇確率が高いというのに……。

 まぁ、それでもいるものはいるで仕方がないだろう。

 それに、相手が強いなら俺の経験にもなる。

 相手の力を吸収できるこの体、相手が強ければその効率も間違いなくいいのだ。

 問題はやはり、村人達のことだが……やはり可能な限り、弓使いの骨兵士を早めに片付けるしかないだろう。

 剣や槍持ちの奴とて武器を投げてくる可能性はあるが、手放せば戦闘能力が下がることくらいは通常の骨人でも理解しているからかあまりそういうことはない。

 村人にとって一番危険なのは、やはり弓使いだろう。

 問題はどうやって、ということだが……。

 セオリー通り、しっかりと後衛の位置にいるんだよな……。

 回り込んで後ろから、というのは広場の中央の開けたところにいるから難しそうだ……。

 出たとこ勝負で行くか?

 というのも一瞬浮かばなくもなかったが、流石にそれは危険だ……俺が、ではなく村人たちが。

 しかし、状況的には一見それしかなさそうな場面である。

 こうなれば、多少不安であってもやれそうな手段に頼るべきだろう。

 実のところ、さっき聖気を剣に込めた際にちょっと変わった手応えがあった。

 なんとなく、行けそうだな、という手応えが。

 試しに剣に聖気を通してやってみると……やはりなんとかなりそうな感じだ。

 ただ消耗は激しそうなので一発勝負になりそうだが。

 まぁ、そもそも失敗したらしたでもう出来るだけ速攻で全部倒すしかないのだし、腹をくくってやることにしよう。

 俺は後方にいる村人達に今から突っ込むことを合図する。

 村人達が頷いたのを確認し、俺は骨人たちの集団へと飛び込んだ。


 ◆◇◆◇◆


 やはり、しっかりと警戒していたらしく、すぐに骨人たちは俺を発見してこちらに向かって構えた。

 特に弓持ちの骨兵士はすぐに弓を構えて俺に放ってくる。

 かなりの技量だ……が、ロレーヌが魔術を放つ速度よりもずっと遅い。

 最近、たまに火弾フォティア・ボリヴァスを至近距離で撃ってもらったりして、避けたり弾いたりする練習をしているのだ。

 それに比べれば全然……ここだな。

 矢が目の前に来たところで俺は剣を振って叩き折った。

 魔術であってもある程度までの規模なら弾けるようになっている俺だ。

 普通の矢くらいであればこれくらい余裕……とまでは言えないが、危なげなく対処できる。


 そして、弓持ちの骨兵士が次の矢を番える前に俺は骨人たちの集団の前へとたどり着く。 

 もちろん、目の前に来てしまったので骨人たちは俺に向かって剣を振り下ろそうとするが、俺はその前に剣に聖気を込め、そして目の前の骨人に向かって思い切り突いた。

 狙いは首筋であり、俺の剣は吸い込まれるようにそこに入っていく。

 骨人の首が飛んだ。


 本来であればここで一旦、剣を引くべきだ。

 次の一手のためにである。

 しかし俺はそこから更に、剣を押し込んだ。

 その先には弓使いの骨兵士がいる。

 二体まとめて、倒すつもりだった。

 けれど俺の持つ剣の間合いでは、どうやってもそこまで届かない。

 そのことを弓使いの骨兵士も理解したようで、弓を番える行動を落ち着いてこなそうとしていた。


 恐怖をまるで持たない骨人の恐ろしいところは、ピンチに陥っても慌てるようなことがほとんどないことだろう。

 こういう乱戦の中で最も怖いのは、混乱して普段出来る行動がまるで出来なくなることである。

 しかし骨人にはそういうことはあまりない。

 単純に技量不足で、とか魔力で骨と骨の接合を保っているのでそれが乱れてしまって武器を落としたり転んだりと言うことはあるけどな。

 それをもって慌てている、と見ることもあるが……本質的に彼らにはそういう感情の動きはないわけだ。

 まぁ、そう思っているのは俺たち冒険者の側だけで、本当は慌てているのかも知れないが。

 少なくとも俺が骨人だったときはそういう感情の動きがあったわけだしな。 

 俺と同じような存在ならそういうこともありえないではないだろう。

 ただし、今目の前にいる彼らにはそういうことはなさそうだ。


 骨弓兵士の矢が番えられる。

 しかし、あとほんの数秒で放たれる、と思われたその矢先、決して届かないはずの俺の剣の剣先が骨弓兵士の頭部に突き刺さった。

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