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第15章 山積みな課題
第527話 山積みな課題と説教

 二体目は確認できる限りの他の骨人スケルトンの位置から大分離れたところを見回っていたため、俺はちょうどいい獲物を見つけた、と喜ぶ。

 何のためにちょうど良いかと言えばそれは勿論、試し切りのためだ。

 一体目も新しい剣での気の運用を見るのに十分役に立ったが、本来は聖気を注いだ場合に不死者アンデッドに何か効果があるのかを確認するために受けた依頼である。

 予想外の村人達の熱意という横やりというか、想定外の事情が挟まってしまったために安全性を考えて挑戦できないかも、と思っていたがこいつ相手なら多少音がしても他の骨人には気づかれないだろう。

 そう思って俺は剣に聖気を注ぎ、骨人が近づいてくるのをまった。

 そして目の前に来ると同時に飛び出し、聖気で何も起こらなかったとしても剣の基本性能で十分に破壊できるように力を込めながら武器を振り下ろした。

 すると、剣は俺が考えていたよりもずっと軽い手応えで骨人の体に入っていく……というか、剣が触れた部分から骨人が灰になっていった。

 剣を完全に振り下ろした時点で、骨人の体は頭部から真っ二つになっていて、しかも切り口から徐々に灰化していき、数秒の後、全体が完全に灰となって風に流れた。

 残ったのは魔石だけだ。

 骨部分も素材として使えるので残しておきたかったことを考えると、少しばかり問題かもしれないが……まぁ、そちらの方はついででやっていたことだし、これならこれでいいだろう。

 それにしてもやはり、この剣に聖気を注いだ場合、発揮される効果は不死者アンデッドに対する強力な加護、ということらしい。

 もちろん、骨人以外にも使ってみなければ不死者アンデッド一般に効くとは言い切れないし、相手の力によっては効果のほどが異なることもあるだろう。

 しかし、今回の依頼においてはかなり有用そうなのは間違いない。

 なんと言っても何の音もさせずに骨人を滅ぼすことに成功したのだ。

 こんなことなら初めからこちらを使っておけば良かったかな、という気がした。

 

「あぁ、でもそんなに都合良くは行きそうもないか……」


 一人、小さな声でそう呟いたのは、消費した聖気の量を把握してのことだ。

 あまり燃費の良さそうな力ではないのである。

 骨人一匹にこの消費、となるとそうそう多用もしていられなさそうだ。

 元々、俺の聖気の量自体が大したことなく、結構な割合で伸びていると感じられる魔力や気と比べると増加量もわずかだという問題がそもそもあるので、この辺りは難しい。

 やはり普段は魔力や気を基礎に据えて戦い、不死者などが相手である場合に限って聖気を使っていくのが正しいだろう。

 ともあれ、今回、この村の中の掃除については聖気をここからも使っていくつもりではある。

 なんと言ってもほぼ無音で敵をやれるというのは今この状況においては最善手であるし、試し切りという意味でもある程度、多様な使い方を試して経験を蓄積しておきたいからだ。

 そう思った俺は一旦、剣から聖気を抜き、後方に隠れている村人連中に合図を送りながら三体目を探し始める……。


 ◆◇◆◇◆


「……うわぁっ!」


 三体目は残念ながら俺が見つけるよりも先に、村人の方を見つけてしまったらしい。

 そうと知れたのは、後ろの方からそんな叫び声が聞こえてきたからだ。

 大分離れた位置にいたし、村の中には可能な限り入らずに外側にいるように指示を出しておいたので大丈夫なはず、と思っていたがそれは油断だったらしい。

 ただ、振り返ってみる限りそこまで危機的な状況でもなさそうだ。

 村人は確かに見つかったようだが、それでも位置は大分離れている。

 もたもたと弓を番えて撃ち出そうとする余裕もあるようだ。

 そんなことをしている間に、俺が彼らの方へと走り、村人と骨人の間に割り込んだ。

 骨人はどうも、村の中からではなく、村の外……森の方から来たようだ。

 というのは、骨人の背後にしか通れるような場所はなく、村全体を簡易的にだが覆っている人の背丈ほどの木の杭が破壊されているような隙間もないからだ。

 やはりこの近くに、骨人が発生するような場所があると思って間違いないだろうが……村の中ではなく、外のどこかなんだろうな……。

 後々、この骨人が来た方角を調査することを頭に入れつつ、俺は剣に聖気を注ぎ、振りかぶる。

 骨人も今回は正面からなので俺に対抗すべく、持っている錆びた剣をゆっくりと持ち上げたが、流石に普通の骨人に速度で負けるようなことはない。

 ちょうど振り下ろそうと力を入れかけた骨人の腕と一緒に、俺はその頸骨を横薙ぎにして切り離した。

 聖気に満ちた剣の一撃はやはり、骨人の体の直接触れた部分を一瞬にして灰化させ、さらにその灰化現象は体全体に広がっていった。

 骨人の体全てが完全に灰化し、最後に残されたのは骨人を動かしていた魔石だけだ。

 地面にぽとりと落ちたそれを拾い、村人達に振り返って俺は言った。


「……少し遅れて申し訳なかったです」


 それに対して、やっと弓に矢を番え終わった状態でぽかんと構えていた村人達の中で、ジリスが言う。


「い、いえ……私どもも油断しておりました。次は必ず……」


「無理はしなくても大丈夫です。それよりも周囲の警戒の方に意識を注いでください。敵を倒せずとも命さえあれば次があります。しかし死んでしまってはおしまいですから……」


 実際のところ、俺の場合死んでしまっても次があったわけだが、そんなことは余程運が良くない限り……いや、悪くない限り、か?どっちとも言いがたいが、そんな感じでない限りあり得ないことだ。

 もちろん、命がけで挑戦しなければならない瞬間というのが人生にはあるが、この村人達にとってそれは今ではないだろう。

 村を取り戻すというのは重要であろうが、それは俺がやる。

 あくまでも村人達がやるべきは、自分の命を守ることで、俺の補助はついででいいのだ。

 もっと言うと俺の補助などやらなくてもいいことだが、その辺りは人の心は難しいというもの。

 何かやりたいという彼らの気持ちを無碍にする気にもならない。

 だからといって無茶させるつもりもないが。

 命の危険に実際に遭遇した直後の俺の若干説教染みた台詞が身に染みたのか、ジリスは肩を落として、


「……肝に銘じます。本当に申し訳なく……」


 そう言って謝ったのだった。

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