馬車を降り、マルト
道すがら、ジャンに俺はマルト
「そういえば、ジャンがウルフを
確かそういう話だったはずだ。
ウルフは当時、冒険者を引退し、田舎に引っ込もうとしていたのだが、そこを引き留めたのがジャン・ゼーベックだったというのは有名な話だ。
実際、ジャンは俺の質問に頷いて、
「あぁ、そうだな。当時、あいつは白金級一歩手前あたりまで行ってたが……目にあれだけの傷を負ってな。年も年だし、そろそろ引退するとか言い始めた。そうと決めたら素早いのなんのって、あっという間に準備を終えて、さぁ、旅立つぞってところまで済ませててな……俺が王都からここまですっ飛んできて、止めた。確かに冒険者はその傷じゃ厳しいかもしれねぇと。だが、お前には長年の冒険者としての経験があって、それをこれからの冒険者のために役立ててくれねぇかと。今でこそマルトの
そうしみじみと語った。
ウルフが
その頃、マルトの
一般的な
つまり、助けもしないが奪いもしない、と言うもの。
至極当たり前、という感じもするが、ある程度慣れた者ならともかく、駆け出しにまでこの対応を基本にすると途端に酷いことになる。
駆け出しなど、魔物の種類や部位、解体方法もあやしいものだし、植物などの素材についてもよく分かっていない。
鉄級向けの簡単な依頼だからと受けて大失敗、なんてことになるのが目に見えている。
さらに、大失敗で済めばマシな方であり、命まで落とすこともざらだ。
そんな状況を放置しておくのはどうか、と思うが、これは昔からの伝統というやつが強かったが故にそういう状態だったとも言える。
というのは、冒険者の"自由”というやつだ。
冒険者は誰にも縛られないものである。
そういう標語染みた思想がまずあり、これを拡大解釈して、俺たちには誰も指図するな、と主張する者たちが少なからずいるわけだ。
それは必ずしも下っ端にだけというわけではなく、それこそ
だからこそ、その部分を変えようとしても難しい、そういう体質が、
ただ、マルトにおいてはウルフが率先してそういう空気を払ってきた。
だからこそ風通しが良く、駆け出しだけでなく、ある程度のベテランになっても良い意味での向上心が維持し続けられる気風が出来ている。
そういうものを実現させられる、そう考えて、ジャンはウルフを抜擢したのだろうし、ウルフもそれに応えたわけだ。立派である。
俺?
俺はそれこそ駆け出しに基本を教えてたとかそんなものくらいだしな……。
上の方から意識改革、なんて真似はやれるはずもない。
まぁそれでもそれが全くの無駄でなく、少しは役に立っているのは、この街の
「他の街でもウルフみたいな冒険者のことをよく分かってる
俺がそう言うと、ジャンは少し考えて返す。
「……ヤーランの
「少しマイナーとなると……土三ツ葉と三葉花とかか?」
俺がそういえば、ジャンは顔をしかめて、
「……そいつは薬草採取のプロでも目の前で吟味した上で間違えることもあるやつだろうが。そいつを間違えても誰も責めねぇよ」
「マルトの駆け出しはみんな見分けられるぞ」
少なくとも俺が教えた奴は。
そう言うと、ジャンは目を見開き、
「はぁ? マジで言ってんのかお前」
「本当だよ。というか、あれを見分けられないとやばいだろ。三葉花は食ったら麻痺するんだぞ。土三ツ葉は高級食材なのに」
「いや、確かにそうだけどよ……」
「それにしっかり見分けられたら三葉花だって使い道も出来るしな。少しデカ目の魔物にも効くくらい強力だから汁を抽出して剣に塗れば有用だぞ」
「……マルトの駆け出しはそんなおっかねぇもん使ってくるのか……暗殺者顔負けだな」
ジャンが呆れていた。
おっかないと言っても死ぬことはないし、人間は比較的早く排出することが出来るので誤って自分をそういう武器で傷つけてしまっても仲間がいればなんとかなる。
一人では絶対に使うな、とは駆け出したちには教えておいているし、大丈夫だろう。
実地として実際にその麻痺にかかってもらったりもしたし、身をもって危険性は理解しているはずである。
そんな話をすれば、ジャンは、
「おっかねぇのはお前だったか……その仮面、今更ながらひどく似合ってみえるぜ……」
と呟いていた。
それから、
「……お、着いたな」
ジャンが一つの建物の前で止まり、そう言った。
以前来たことがあるのは話の流れでなんとなく分かったので、当然これがそうだとすぐにわかったのだろう。
まぁ、
特別なものもないわけではないらしいが、俺はまだ見たことがない。
遠くに行けば、いつか見る機会もあるのかもな……。
「じゃあ、入るか。お前たちも来るよな」
ジャンにそう言われたので、俺たちも続く。
依頼はジャンをウルフのところまで送り届けること、なのでそこまでやらなければ冒険者として依頼を終えたとは言えない。
当然の話だった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。