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第15章 山積みな課題
第507話 山積みな課題と懐かしきマルト

「……やっと帰ってきたなぁ。王都にそこまで長く滞在していたわけじゃなかったはずなんだが、なんだかかなり久しぶりに感じるぞ」


 ロレーヌが幌の向こうに都市マルトの正門が見えてきたあたりでそんなことを呟いた。

 確かに俺もそんな気がする。

 やっぱり、自分の故郷というか、本拠地という認識がマルトにはあるからかな。

 厳密に言えば俺の故郷はハトハラーだし、ロレーヌのそれはレルムッド帝国のどこかなんだろうが、生活の基礎が築かれているのはやはりマルトだ。

 少し離れるだけでもこれだけの懐かしさを覚えるのは当然なのかもしれない。


「みんな変わりないかな……? まぁ、これくらいでそこまで大幅に変わったりはしないか」


 俺がなんとなく呟くと、ロレーヌは、


「それはな。一年、二年離れていたというのなら誰か知り合いに子供が出来ていた、なんてこともあるかもしれんが、一月にも満たない期間では何も変わらんだろう。まぁ、《塔》と《学院》が精力的に活動しているだろうからそういう意味では変化があるかもしれんが……」


 《塔》とは、国の魔術研究機関であり、《学院》は国の教育機関だ。

 様々な国にあり、正式名称は色々と異なるが、俗称としてそういう言い方をする。

 どんな国であっても、国を引っ張っていく人材を教育し、また魔術を研究する機関というのは不可欠だからだ。

 そんな二つの機関から派遣された人々が、今マルトに多く留まっている。

 その理由は、以前の吸血鬼ヴァンパイア騒動の中で出現することになった《迷宮》がマルトの地下に存在しているからだ。

 《迷宮》とは、様々な魔物が出現するが多くの宝物や素材を獲得することが出来る一種の鉱山のような存在であるが、どのようにして作られたものなのかは未だ誰にもはっきりと断言することが出来ない謎の存在である。

 迷宮内部には石壁の通路のような人工物にしか見えない部分もあれば、建物の内部であるにも関わらず、まるで外であるかのような巨大な空間が形作られている部分もあり、それこそ神が創造したとしか言えないようなところがある。

 そのため、様々な学説が錯綜しており、その研究は多くの国家、研究機関で行われているが、やはり真相にたどり着いた者はいない。

 そんな中、マルトに突然出現した《迷宮》である。

 出現して間もない《迷宮》というのは世界でもかなり珍しい存在であり、中々そんな場所に立ち会うことは難しく、したがってそういった研究機関からすれば喉から手が出るほど調査をしたい対象であるのは間違いない。

 だからこそ、《塔》や《学院》から大勢の人がマルトに押しかけ、いまやマルトは彼らに半ば占拠された状態にある。

 俺とロレーヌはそんな街から逃げるように王都に行ってしまったので、今のマルトがどんな状況にあるのかは分からない。

 ただ、以前のそれとは少なからず変化があることは想像に難くないだろう。

 まぁ、揉め事の類は勘弁して欲しいところだが、街を出る前には《塔》や《学院》の研究者が護衛として雇っていた冒険者と小競り合いを少ししていたのを見た程度だったし、そこまでの大問題が発生している、ということもないだろう。

 だから安心していい……はずである。

 多分。


「……しかし新しく作られた《迷宮》、か。なんで出来たのかも興味があるが、単純に中に潜って探索してみてぇな。お前らは一応、中に入ったことはあるんだろう? どんな感じだった?」


 俺とロレーヌにそう尋ねたのは、総冒険者組合長グランドギルドマスターである、ジャン・ゼーベックである。

 相当の高齢であるはずだが、その体は未だに鍛え上げられ健康的であり、その目に宿る眼光はマルトの冒険者組合長ギルドマスターであるウルフのそれよりも鋭く透徹している。 俺がまともに戦ってもまず勝てないような実力を持っているだろうというのはなんとなく分かる。

 基本的に心臓を刺されても頭を潰されても死ぬことのない俺であるが、その俺でもこの人にはすぐに殺され尽くして終わるのだろうな、とそんな気さえしてしまうような人だ。

 そう考えるととんでもない危険人物をマルトに連れてきてしまったものだ、と思うがウルフの依頼である……責任はすべて彼の肩にのし掛かるべきものであって、ジャンが何をしようとも俺に責任はない……。

 まぁ、これでそれなりに人を想っているというか、国や人々の生活について壊し尽くしても構わないみたいな危険思想を持っているわけではなく、むしろ秩序を維持する方向で生きている人である。

 だからこそ、癖の強い異能者をまとめ上げて王都を裏から牛耳るような組織の長も兼任しているのだろうし、そういう意味ではそこまで心配はいらないはずだ……。


「……そうだな、私たちが潜ったときは本当に出来たてだったからか、かなり気持ち悪い感じだったぞ。なんというか……人の内部に入ったみたいというか、壁が肉壁みたいでな」


 ロレーヌがそう言ったので、俺も頷いて後を継いだ。


「確かにそんな感じだったな……その後、ちらっと覗いたときは石壁とか土壁とかが出来ている部分が増えていたし、あれは最初だけああだったのかもしれないな。《迷宮は生き物である》なんて説もああいうのを見た人間がそう考えたのだとしたらそれなりに説得力はありそうだ」


「ははぁ……おもしれぇな。俺もこの年になって初めて見るものなんてあんまりねぇから楽しみだぜ。魔物や魔道具の類なんかはどうだ?」


「どちらも気にする間もなく出てしまったからな……そればっかりは自分の目で見て欲しい」


 ロレーヌがそう言ったのも当然で、俺たちは当時、シュミニ、という吸血鬼ヴァンパイアが変異したものを相手に戦ったくらいで、あの《迷宮》特有の魔物や魔道具、のようなものを相手にする暇も探している暇もなかった。

 その後にちらっと覗いた際は、入り口から少し見てみたくらいで、じっくり探索したわけでもない。

 だから、あの迷宮は俺たちにとってもこれから調べられるならそれなりに面白そうな場所ではある。

 

「そうか……ま、そういう情報をすべてお前らから仕入れられてしまったら楽しみも半減するからな。言うとおり、自分の目で見ることにするか……」

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